

5月8日、表参道のTNプローブにヘアート・ロフィンクの講演を聴きに行った。テーマは「サイバースペース上の公共空間」。アムステルダムの都市サイト「デジタルシティ」や、ネットアクティビストとして知られるロフィンク自身が主宰するML「ネットタイム」の活動紹介に始まり、ネットクリティシズムの意義やニューエコノミーの興亡についての明快な解説、さらには「ネット=無料」というイデオロギーをめぐる問題提起も行われた。
途中で紹介されたいくつかのウェブサイトが面白かった。フリーソフトとオープンソース問題についての「Wizards of OS」、ネットオタク(nerds)のためのニュースサイト「Slashdot」、デリーにある同名のニューメディアセンターが運営し、情報貧者のためにフリーソフトを配布する「SARAI」等々。中でも「資本主義的な動きに対抗して労働問題や環境問題を論ずる」という「Independent Media Center」が気になった。ロフィンクによれば「Yahoo!のようなポータルをモデルとして構築された」サイトである。
気になったのは、最近あるMLに転載された一通のメールを連想したからだ。ブラジル議会がアマゾンの熱帯雨林を半減させる伐採を行うべく審議をしている、この愚行を止めるために300名の署名を集め請願書を提出したい…。どこかで聞いたことのある話だと思ったら、半年前にまったく同じメールを友人から受け取っていた。その際にabout.comの「都市伝説とフォークロア」をチェックしてわかったのだが、実は法案はとっくの昔に却下され、署名を取りまとめるアドレスも閉鎖されている。悪意のない(と信じたい)、だが結果的には無意味なチェーンメールだった。
この種の「署名運動」は始終行われているようだが、いちいちチェックしない限り真偽のほども有効性もわからない。「ポータルをモデルとして構築され」る情報サイトは、この点で非常に役立つのではないか。いわば、ニュースや告知、情報自体のオープンソース化と、政治的パワーの賦与である。ちなみに言えば、南アのHIV等にかかわる薬事法訴訟を製薬会社39社が取り下げたのも、国境なき医師団という政治的に強力な主体、すなわち拠点があったればこそ。署名運動自体を過信してはならないだろう。
多数の署名を集めることによって成立する署名運動は、責任が多数に分散することにより実質的な匿名性に陥りかねないという逆説を抱えている。サイバースペースにおいても、その不備を補う実体的な拠点が必要なのではないか。RTもそのような拠点のひとつとなることができればと思う。
寄稿家プロフィール
おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。