COLUMN

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Out of Tokyo

011:場所の力
小崎哲哉
Date: May 11, 2001
場所の力 | REALTOKYO

校舎の3階は白壁にクリーム色の壁板。上半分が丸いガラス窓から、斜めに日が射し込んでいる。板張りの床を踏みしめて「集会室」という看板がつるされた部屋に入ると、右手の壁に二葉のモノクロ写真が掛けてあった。制服を着た10人ほどの少年少女が、コントラバスやチェロやバイオリンを弾いている。何がなし切ない思いに駆られながら写真を見ているとき、唐突に「演奏」が始まった。

 

「奏者」と「楽器」は床に並べられた10個のオイル缶。雅楽やガムランの音程によく似た音を琵琶と木琴の中間のような音色でランダムに発する。中に小さなモーターとプロペラが仕込んであり、プロペラが缶をはじいた音を中空に張られたストリングスに共鳴させ、さらに演壇の上のアンプとエフェクターで増幅させる仕組みだと聞いた。ゆるやかなカーブを描く2段の演壇は、まぎれもなくモノクロ写真に写されているものに相違ない。

 

A Class on Mechanical Gagaku Music Electric Sound System | REALTOKYO
'A Class on Mechanical Gagaku Music Electric Sound System' by Paul Panhuysen

1934年生まれのオランダ人アーティスト、パウル・パンハウゼンの手になるインスタレーションだ。作品が展示されているのは日本橋は小伝馬町にある廃校となった小学校。きれいにリフォームされ、1階と2階は在宅介護支援センターなどに使われているが、パンハウゼンの作品は「もと学校」という場所の力を見事に活かし、活かされている。写真はアーティストがどこからか探し出し、作品の一部として新たに掛けたものだという。いわゆるサイト・スペシフィックな作品のために絶妙の効果を発揮している。

 

この展覧会『3分間の沈黙のために』を、パンハウゼン率いるヘット・アポロハウスと共同開催したICAEE/国際現代美術交流展実行委員会代表の酒井信一によれば、都内の廃校でこの種の展覧会を開くのはこの10年でこれが3回目。廃校という場所自体に特に思い入れはなく、使用条件や広さや賃貸料などから選んだ結果がたまたま廃校だったということだが、一方で地域の人々や行政の意識を変えられればと思っているともいう。

 

いわゆるドーナツ化現象と少子化の進行により、90年代には東京都全体で86の小学校が「統廃合」の対象となり、36校減となった。「統廃合」(ヘンな言葉だ)自体の是非はともあれ、現実に使われなくなった校舎は増えている。登校拒否児童も含め、学校は万人が何かしらの強い記憶を持つ場所だ。アートや音楽などを体験する場所としては、たとえばニューヨークのPS1がつとに知られているが、東京にもそんな「もと学校」がひとつくらいあってもいいな、と思う。

寄稿家プロフィール

おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。