

4月2日、英字新聞『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン(IHT)/朝日』が創刊された。パリを本拠地とし、ワシントンポストとニューヨークタイムズが編集参画していることで知られる同紙だが、今回の日本発行版創刊の要点はふたつある。
1:以前に日本で買えたIHTに比べ、価格が1部あたり500円から150円に、と劇的に安くなった。2:朝日新聞記事の英訳が掲載されるようになった。
もちろん1は無条件に歓迎である。安くなって文句を言うのはライバル紙(ってあるのか?)くらいだろう。問題は2で、日本語版朝日、つまりオリジナルを併読している読者には、英語のお勉強に役立つことと、広告の多くが日本語で読めること以外のメリットはなさそうに見える(「天声人語」をはじめ、同じ記事が載っているわけだからね)。英語版しか読まない読者には、ラ・テ欄が付いているという旨みはあるかもしれない。
英語版朝日は、IHTのあとに続いている。全部で8〜10ページ。韓国紙やシンガポール紙から買った記事が申し訳程度に載っていて、まあ朝日の英語版なんだからそれはそれで仕方ないけれどちょっと残念だ。それよりも情けないのはアジア関連記事が薄いことで、前半のIHTにもアジア/パシフィック欄があるから、ついつい比べてしまい、「がんばれよ!」と声をかけたくなる。
さらに気になるのは署名記事が少ない点で、これはぜひとも改善してもらいたい。散見されるわずかな署名はほとんどが内部記者によるもの。それだってないよりはマシだけれど、できれば社外の書き手にバンバン発注するほうがいいんじゃないかなあ。日本の知識人が国際的に発言する機会がきわめて少なく、「日本人の顔が見えない」と言われることが多い現在、それこそが重要だと僕は思う。
学術論文は原則的に英語で書かれ(あるいは英訳され)、他の学者に引用される回数が多いほど質が高いと見なされる。朝日が本気で「日本を代表する新聞」(とIHT/朝日のロゴの下に書いてある)を自任するなら、他紙誌に記事を買われてナンボだということを肝に銘ずべきだろう。ラ・テ欄で売上増をねらってる場合じゃありませんよ。
寄稿家プロフィール
おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。