
韓国月間
12月の韓国関連イベントは質量ともにすごい。編集部イチのアジア通、松丸亜希子に調べてもらったら、すぐにわかったものだけでこんなにある。
- 11/30~12/4
- KOREA SUPER EXPO 2000@東京ビッグサイト
- ~12/26
- 『申明銀展 よりよくよりよりよく』@ZOOM
- 12/2
- トークライブ『地球勇士ベクターマン超全集』@LOFT/PLUS ONE(韓国の特撮テレビ番組)
- 12/4~22
- 本とコンピュータ展 「書物変容・アジアの時空」@ggg(グラフィックデザイナー安尚秀=アン・サンス出展)
- 12/8
- 映画鑑賞会『学生府君神位』@韓国文化院
- 12/16~17
- 金徳洙(キム・ドクス)サムルノリ『樂天響』@東京芸術劇場
- 12/16~24
- TOKYO FILMeX 2000@ル・テアトル銀座(リュウ・スンワン『ダイ・バッド』など上映)
- 12/16~
- 『ギフト・オブ・ホープ』@東京都現代美術館(アーティスト李真京=イー・ジンギョン出展)
- 12/16~28
- Pacific Rim Architects(キム・ヨンス出展)
- 12/18
- 李政美(イ・ヂョンミ)ライブ@亀有ハニー
- 12/19
- スージー・キム ライブ@目黒BLUES ALLEY JAPAN
- 12/21
- 新井英一ライブ@草月ホール
- 12/23
- コリアキネマ倶楽部『低きところに臨みたまえ』@韓国文化院
そのほか、劇場公開映画には『太白山脈』『スプリング・イン・ホームタウン』『春香伝』『ペパーミント・キャンディ』『カル』「アン・ソンギはどっちにでている」『美術館の隣の動物園』『グリーンフィッシュ』などなど、秀作佳作がずらりと並ぶ。
これは一過性の現象ではないだろう。映画『シュリ』の大ヒット、アイドルグループY2Kの人気、大久保近辺の韓国・朝鮮レストランの盛況……。韓国映画や音楽を紹介する雑誌『HOT CHILI PAPER』が売れ行きを伸ばし、実質的に在日コリアンが支えている芸能界からはカミングアウトする歌手や俳優が増えてきている。南北会談のとりあえずの成功による、ベルリンの壁が崩壊したときのような多幸感が、この傾向に追い風を与えている。
これがイタリアブームやバリ島ブームと異なるのは、65万人(内、特別永住者は50万人強)といわれる在日コリアンの存在があるからだ。実際、上に名を挙げた中の数人は在日コリアンであり「来日コリアン」ではない。12月19日にライブを行うロイヤル・ファンク・バンドのボーカリスト、スージー・キムもそのひとりだ。
「あくせく働いてあんたに貢いでる」

(ライブについての問い合わせはオフィス瀬戸 03-3476-6269まで)
スージー・キムは父親の仕事の関係で在日米軍基地で生まれた。米韓ともに二重国籍を認めていないから、18のときに「本能的に」韓国籍を選んだ。イェール大学に音楽留学した後に日本に戻り、永住権は取ったが日本国籍を取るつもりはない。手続きがとても面倒だし、取れたとしても周囲にいろいろ言われるに決まっているからだ。上田正樹や憂歌団らのツアーに参加する一方で自らの活動も始め、97年に「今夜だけ」という曲をつくった。メロディーとリズムはファンクの王道。歌詞の一部を引用してみよう。
付き合ってよ兄さん今夜だけ
NECKTIE ゆるめてあげるから
金持ってる兄さんつれてってよ
あんたのいつも行くとこ
(中略)
イイでしょ兄さん今夜だけ
とても寄り添わない様な二人だけど
少し近づいて、そう
今夜しだいで許したげるかも
味わってみてよ、普通の温もり
胸いっぱい吸ってごらん、普通の匂い
あくせく働いてあんたに払ってる
あくせく働いてあんたに尽くしてる
あくせく働いてあんたに貢いでる
そろそろちょうだい選挙権
(作詞・作曲:Suzi Kim)

(Published by Office Seto)
曲を作った直接のきっかけは「その年に税金いっぱい取られて、すっごい頭に来たから(笑)」だそうだが、内容は「ずーっと思ってたこと」だという。選挙に行かない僕などよりもよっぽど愛国者(?)である彼女に、義務だけを課して、つまり金だけ取って、権利を寄越さないと言うのはひどい話だと思う。
「だったら国籍を取ればいい」というのが永住外国人への参政権付与に反対する連中の言いぐさだが、実状を無視した単純にすぎる議論だ。いまだに「一国一民族幻想」が幅を利かせるこの国では、帰化したんだから何もかも日本的なものに順応しろという乱暴な話になりかねない。スージー・キムの友人のひとりは、たいへんな苦労をして帰化した後に結婚し、披露宴でキムチを出したところ、「おまえは本気で日本人になる気がないな」と言われたそうだ。これだけでも信じられない話だが、そう言ったのはしかも役人だという。
石原都知事へのご提案
反対論者のひとりである石原慎太郎東京都知事は、永住外国人への地方選挙権付与について問われ、「原子力発電所にしろ、基地問題にしろ、地方の生々しい問題で、それいかんによって国の命運が左右されるものがある」「こんな危険な話はない」と語っている(11/26朝日新聞)。国籍を持たない人間は判断力がなく、危険人物だと言わんばかりだ。
この人は「大災害時に三国人が騒擾事件を起こす」と発言した後の釈明会見で、韓国人や台湾人への蔑称として戦後に使われた「三国人」という言葉を「第一義的には外国人だ」と強弁し、「深夜の歌舞伎町や池袋は怖くってヤクザだって歩けない」と続けた。言葉に敏感な文学者を自任するにしてはあまりにも歴史的語彙についての知識を、マッチョを自認する政治家にしてはあまりにも勇気を欠いていらっしゃるように見受けられる。
だからこれほどに無根拠で非論理的で臆病な発言をなさることに無理はないかもしれないが、そんな暇があったら、アジア、アフリカ等の「原始美術」を集めた美術館を構想しているシラク仏大統領を見習って、都立コリアン文化センターでも建設されたらいかがだろうか。フランスのプロジェクトには植民地からの収奪品の陳列との批判があり、大統領自身も「シラク美術館」(といずれ呼ばれることになる)に執心しすぎだと非難されている。
だが、そもそも日本には満足な「三国人」センターはなく、収奪品なしに成立すれば「石原センター」と呼ばれることだってないわけじゃない。文学者やタカ派政治家としてよりもはるかに歴史に名を残す可能性が高いし、ついでにそこでテコンドーでも習えば、夜の繁華街も怖くなくなるかもしれない。どうでしょう、ひとつトライしてみませんか?
寄稿家プロフィール
おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。