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Interview

109:ポール・ハギスさん(『サード・パーソン』監督・脚本・製作)
聞き手:松丸亜希子
Date: June 16, 2014
ポール・ハギスさん(『サード・パーソン』監督・脚本・製作) | REALTOKYO
(C) Corsan 2013 all rights reserved

パリ、ローマ、NYを舞台にした3つの物語が交錯し、ひとつに結ばれていく。ポール・ハギス監督の新作『サード・パーソン』は、ミステリアスな仕掛けが張り巡らされた緻密な構成で観客を惑わす。傷を負い、孤独を抱えながらも必死で新しい関係を模索する人間たちの姿を通して伝えたかったこととは? 監督に電話インタビューで語っていただいた。

まずは脚本について、今回はとても時間がかかり、何度も改訂されたとのこと。どのような部分に苦労され、時間を費やすことになったのでしょう。また、三都市を選ばれた理由も教えて下さい。

 

複雑なものを簡潔に書こうとする作業にすごく時間を費やしてしまいました。すべてのキャラクターが孤独や悲しみを抱えていて、僕自身も同じ感情を抱えているからじゃないかな。これはクリエイティビティを模索している作品でもあって、映像作家など、すべてのアーティストというのは、いったい何を犠牲にしているのかを問いかけているんです。やりたいことに多くの時間を捧げて作品を作る。でも、それで苦しむのは周りの人間なんだよね。僕の場合はそれが子供たちだと思って。だから、この映画に出てくるキャラクターはみんな子供を守ろうとしている。ときに人間というものは、守ろうとする対象を、守ろうとしていることで傷つけてしまう。そして、傷つけてしまった重さを抱えて生きていく。この作品のキャラクターたちがまさにそうなんです。

 

ポール・ハギス『サード・パーソン』 | REALTOKYO
(C) Corsan 2013 all rights reserved

3つの街を選んだ理由のひとつとしては、複雑なラブストーリーであり、かつダークな面もある作品だから、せめて街だけは美しい風景にしようと思ってね(笑)。それに、それぞれロマンチックな街だから。最初はパリではなく、ロンドンにしようと思ってたんだけど、ロンドンでの撮影が難しくて、イタリアに行ったときにフランスの建築物があると知ったことがきっかけで、同じくらい美しい街並みのフランスに決めました。

 

「Watch me」は観客に向けてのヒント

途中でファンタスティックな仕掛けが加わり、物語が交錯していきます。ハギス監督らしさを感じてワクワクさせられ、観客の感性や知性が試されているというスリルを感じました。このコンポジションのプランは、脚本執筆のどの段階で生まれたのでしょうか。

 

もともと僕は、ジャンルで期待されているルールみたいなものを壊すのが大好きなんです。『告発のとき』も殺人ミステリーだと言っておきながら、映画の2/3ほど進んでいくと、モラルについてのミステリーになっていく。だから、『サード・パーソン』も初めからルールを壊そうと決めていた。その具体的な方法は決めていなかったんですけどね。

 

ポール・ハギス『サード・パーソン』 | REALTOKYO
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でも、書き始めて1年くらい経ったとき、自分が見ないで否定しているもの、直面しているものが何なのか気付き始めてしまった。長い時間を費やしている脚本だったこともあって、その間すごく犠牲にしているものが多くて。ひとつの問いかけとして、モノづくりによって生じる代価とは何だろうかとか、それは何かを殺してまで作るべきモノなのだろうかと疑問に思い始めたんです。リーアム・ニーソンが演じたマイケルと同じように、自分の中で問いが繰り返され、それを反映したものが今回の構造になっていて。僕の心をいちばん乱しているのはこういうことなんだと気付いたとき、それがマイケルを通してのこの映画の構造に繋がったんです。

 

「Watch me」という謎めいたキーワードも気になりました。ちょっと目を離すと大事なものを見落としそうでもあり、見逃したかもしれないシーンを確認するために、もう一度観たいと思わせる作品でもあります。「Watch me」は作家マイケルの内なる声でもあり、監督から観客へのメッセージでもあるのでしょうか。

 

繰り返されるフレーズは、僕なりの観客に向けたヒント。実は、視覚的なヒントもあって、3つのラブストーリーのフリをしているけれど、実はパズルのような映画なんだよ。特に視覚的な面でね。見逃しがちだけど、ローマのバー・アメリカーノでエイドリアン・ブロディ演じるスコットが外を見ると、老人が入ってきてベンツが通る。そのベンツの後部座席に座っている女性がいるんだけど、実はそれはアンナなんだ。次のカットでは、パリにいるアンナが車の後部座席で髪を直す姿が出てくる。よく見ていると気付くんだけど、友達に“観た?”って聞くと“え、何が?”って驚く。僕はそういうのが好きで楽しいんです。

 

ポール・ハギス『サード・パーソン』 | REALTOKYO
(C) Corsan 2013 all rights reserved

チャーミングなキャストたち

キャスティングも魅力的です。脚本に惚れ込んで集まったそうですが、どのような順番で決まっていったのでしょう。

 

最初にキャスティングしたのはリーアム・ニーソンで、次はオリヴィア・ワイルド。彼女には初めから何らかのかたちで関わってもらおうと思っていたんです。そうしたら、ちょうどオリヴィアのマネージャーからキャスティングしてもらえないかって電話がかかってきて、即答で「イエス!」って答えたよ(笑)。ただ、役柄は何がいいかなと考えて、アンナかなとは思ったんだけど、アンナとオリヴィアの性格が真逆なんだよね。今まで2回仕事をしてきたこともあって、彼女だったらどんなことをして驚かせてくれるかなとの思いもあってキャスティングしたんです。

 

ポール・ハギス『サード・パーソン』 | REALTOKYO
(C) Corsan 2013 all rights reserved

ミラ・クニスは初め、アンナのキャスティングだった。でも、裸のシーンがあるからと「ノー」と言われてしまって……。ほかに役はないですかと言われて、話し合う中でジュリアがいいと言われたんだ。でも、今度は僕が「ノー」と言ったよ。若すぎるし、綺麗すぎるって。そしたら、それまで電話で話していたんだけど、「監督、私と会ってください!」と言われて、一緒にランチをして。そのとき彼女はまだ脚本を読んでいなかったんだけど、ミラだったらこの役があり得るなと思ったんです。

 

ジェームズ・フランコは、脚本を送ったら「やる」と言ってくれた。「リック役とスコット役、どっちでもいいよ」と言ったら「監督が選んで」とのことで、リック役をお願いしました。

 

ポール・ハギス『サード・パーソン』 | REALTOKYO
(C) Corsan 2013 all rights reserved

次はエイドリアン・ブロディ。スコット役をどうしようかなと考えていたときに、エージェントから「彼はどう?」って提案があったんだ。僕は「ノー」と言ったよ。だってエイドリアンは洗練されすぎているし、女性にモテすぎる。実際に、街で女性が彼を追いかけているのを見たこともあるしね。さすがにスコット役じゃないだろうと思った。そうしたら、どこかでも同じようなことがあったけど「僕と会ってください」と言われてね(笑)。彼に説得されて、「じゃあスコット役を」ってことになったんです。

 

ポール・ハギス『サード・パーソン』 | REALTOKYO
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最後がモラン・アティアス。彼女の役はペネロペ・クルスにお願いしようとしていたんだけど、スケジュールが合わなくてね。そのとき、モランはプロデューサー側で、『クラッシュ』のときの演技も素晴らしかったから、演じられるかもしれないって思ったんだ。それでオーディションをしたんだけど、これがまた最悪の出来だったんだよ! でも実は、僕はオーディションが最悪だった役者を起用することが多いんです。オーディションってニセのセッティングが多いから、特に経験の少ない役者がそこで見せることには本当じゃないこともあって。モランの場合も神経質になっていて、彼女がどれぐらい演技できるか僕は知っていたから、プロデューサーには「素晴らしい!」と嘘を付いてキャスティングしたんです(笑)。

 

そのモラン・アティアスが脚本の提案をしたそうですね。

 

モランとは、ちょうど彼女が女優として苦労している時期に出会って。TVシリーズのほうで、僕は編集とキャスティングに関わっていたんだけど、ジプシーのイネス役がいいんじゃないかってことで彼女をキャスティングした。モランの演技はどこか生々しさがあって、その素質にとても感心したんです。引き続き『スリーデイズ』でもキャスティングして。そんなに撮影日数はなかったんだけど、現場で話しているときに、“いろいろな人物の視点からの恋愛物語なんて面白いんじゃない?”って言われて興味を持ち、それがこの企画の発端になったんだ。彼女自身の話や過去の恋愛などを何時間も聞いたよ。僕もすごく複雑な関係を終えたばかりだったから、僕自身の恋愛にも想いを馳せて。そういったプロセスを経て、『サード・パーソン』はでき上がった。彼女は素晴らしいコラボレーター。僕はまったく違った考え方を持った人と仕事するのが好きなんです。

 

(※このインタビューは2014年5月30日に行われました。)

 

プロフィール

Paul Haggis/1953年、カナダ・オンタリオ州生まれ。脚本を担当した『ミリオンダラー・ベイビー』(04/クリント・イーストウッド監督)と自身が監督も務めた『クラッシュ』(04)が2年連続で米アカデミー賞®最優秀作品賞を受賞し、06年に2つの同賞最優秀作品賞受賞作を手掛けた史上初の脚本家となった。『クラッシュ』では、同賞最優秀脚本賞も受賞し、さらに監督賞を含む4部門にノミネートされた。加えて同作は、インディペンデント・スピリット賞、全米映画俳優組合(SAG)賞®、英アカデミー(BAFTA)賞など数多くの賞を受賞。06年、脚本を手がけた作品にクリント・イーストウッド監督の2部作『父親たちの星条旗』と『硫黄島からの手紙』がある。後者の脚本では、3度目となる米アカデミー賞®ノミネートを獲得した。同年、『007/カジノ・ロワイヤル』の共同脚本も担当し、「ジェームズ・ボンド」スパイシリーズを甦らせたとして称賛を浴びた。テレビシリーズ「crash クラッシュ」シーズン1、2では製作総指揮を務めた。

インフォメーション

サード・バーソン

6月20日(金)より、TOHOシネマズ 日本橋ほか全国ロードショー

公式サイト:http://third-person.jp/

寄稿家プロフィール

まつまる・あきこ/1996年から2005年までP3 art and environmentに在籍した後、出版社勤務を経てフリーの編集者に。P3在職中にREALTOKYO創設に携わり、副編集長を務める。2014年夏から長岡市在住。