

コンスタントに作品を発表し、日本にもファンの多いフランソワ・オゾン監督が新作『17歳』で描いたのは、儚くも強い光を放つ17歳のセクシュアリティ。ドラマチックに変化する途上の肉体を持て余し、途方に暮れているかのような主人公イザベルには、モデル出身で本作が長編初主演となるマリーヌ・ヴァクトさんが抜擢された。原題『Jeune & Jolie (Young & Beautiful)』そのまま、少女から女性へと揺れ動く、無防備で向こう見ずでもある若く美しいヒロインを、どんな気持ちで演じたのだろう。公開を前に、パリにいる彼女に語っていただいた。
複雑な内面性を抱えた少女のゆらぎを繊細に演じていて、イザベルの表情や仕草から目が離せませんでした。イザベルがなぜ売春を繰り返すのか、明確な答はなく、観客も想像するしかありません。なかなか難しい役柄だったと思いますが、撮影の2ヶ月間は楽しい時間でしたか。
ええ、とても楽しい時間でした。苦労したことなんて何もなかった。すべてがとても豊かな経験だったし、難しいことなんてまったくなかったの。撮影中は本当にたくさん笑ったわ。

イザベルとの共通点は寡黙なこと
初めての映画主演がフランソワ・オゾン監督の作品で、カンヌ国際映画祭コンペティション部門にも出品されました。出演が決まったとき、どう思いましたか。また、初主演作が世界中で公開されている現状については?
フランソワに役をオファーされて脚本を読んだとき、たくさんのことを考えました。躊躇して、すぐには引き受けなかった。でもその後、彼と話し合って。私は脚本も役柄も好きだったし、迷いはあってもフランソワの作品が好きだったんです。彼との出会いがとても気に入ったので、この作品に出ようと決めたの。世界中で公開されることについては……、そうね、本当にたくさんの国で公開されるけど、どう考えたらいいのかよくわからない。この作品が外国で紹介されるのは素晴らしいこと。つまり、この作品が関心を引いて、それぞれの国でも公開がうまくいくと思う人がいるということだから。インタビューでいろいろな国の人に会うこともできるし。ときにはインタビューが多過ぎることもあるけど、海外に作品を紹介できるのは、とても興味深い経験。今回は残念ながら日本には行けなかったけれど、とても行きたかった。大震災の直後に1度だけ行ったことがあって、それはとても短い滞在だったの。とても楽しかったから、また行きたいわ。

演じたイザベルに共感できましたか。また、あなたが実際に17歳だったとき、どんな17歳でしたか。
イザベルに共感もできたし、それよりも彼女に感情移入ができた。イザベルの経験することに寄り添って、彼女を裁くことは決してしたくなくて、ただ彼女と共にいたいと。私が17歳のときは、すごく内向的でした。とても気詰まりを感じていて、ほかの人たちといても居心地が悪くて……、そう、本当にとても内向的だった。イザベルはあまり話さないキャラクターだけど、実は私もそう。それが私たちの共通点ね。
ヌードやセックスシーンをこなすことは、演技者としてひとつのハードルだと思います。モデルとして身体性を生かし、表現してきたキャリアが役立ったでしょうか。
写真のカメラと映画のカメラはやはり違うわ。仕事の仕方も別々。それでも、モデルとしてのキャリアは、空間の中で動くことに役立ってくれました。

導いてくれたもの、それは信頼
オゾン監督は、あなたがリラックスできるように気を配ってくれたとのこと。現場ですんなりとイザベルになれるよう、彼はどのように演出したのでしょう。印象に残っていることは?
印象に残っていることは……、フランソワから強い印象は受けなかったわ(笑)。これは共同作業だったけれど、イザベルは自分自身で作り上げたの。その後、私たちは意気投合して、私たちの関係はシンプルで健全なものだった。それが信頼のできる雰囲気を作り出したと思う。それで、私は毎日少しずつ役柄を組み立てていって。とても不思議で快適だったのは、自分でもこんなにうまくいくとは思っていなかったんです。すごく躊躇したし、最初に撮影に行ったときも躊躇した。もちろん撮影している最中も。でも、この仕事の可能性に身を任せてチャレンジした。自分に自信がなかったけれど、フランソワを本当に信用していたの。それに……、彼といるときも、スタッフやほかの俳優といるときも、撮影現場の雰囲気は本当に素晴らしいものだった。みんなに囲まれていて、まったくひとりぼっちではなかった。大きな喜びを覚えたし、「なぜ私はこんなことをしているの?」と思うような、拷問のようなものでは決してなかったし。私にとっては新しい挑戦だったけれど、この仕事に集中することは気持ちがいいもので、ナルシズム的な意味で自分自身を見つめることはなかったわ。この作品の撮影に限らず、ときには自分自身を見つめ過ぎて「うまくできていない」とか、色々考えることだってあるけれど、自分自身を評価しないで、仕事だけに没頭したの。フランソワが褒めないことも心地よかったわね。彼は褒め言葉を言う人じゃないの。うまくいったかいかないかは自分でもすぐわかったし、だから……、自分自身を見つめ直す必要もなかった。うまくいったかいかないかと……、ときには自問したけれど、私を導いてくれたのは別のものだった。それは……信頼ね。

シャーロット・ランプリングとのラストシーンが印象的で、あなたがどこかを見つめている最後のショットが好きです。シャーロット・ランプリング、ジェラルディーヌ・ペラスとの共演で、なにか学んだことがあるでしょうか。
学んだかどうかはわからないけど、今回の経験と出会いから多くのことを得ました。私の肥やしとなったの。学んだことは……、そうね……、女優というプロとしてというよりも、もっと私的な意味で、これらの出会いは肥やしになった。だから説明が難しいの。人と出会ったとき、その人物自身が肥やしになってくれるでしょう。

『昼顔』のカトリーヌ・ドヌーヴを始め、多くの大女優と比較されていますが、「いつかこうなりたい」と憧れている女優はいますか。
大好きな昔の女優さんがたくさんいるわ。ベティ・デイヴィスとか……、この女優は大好きなの。ジーナ・ローランズも好き。キャサリン・ヘップバーン、シャーロット・ランプリング、ジャンヌ・モローも。彼女たちは女優として大好きだけど、作品の選び方も。例えばジーナ・ローランズはジョン・カサヴェテス監督との仕事が、私は彼の映画が大好きなの。でも、カサヴェテス監督の作品以外にも好きな映画はいっぱいあるわ。ジョーゼフ・L・マンキーウィッツの作品でのベティ・デイヴィスやキャサリン・ヘップバーンとか……、好きな作品はいっぱいあるんだけど、お気に入りを言うのが苦手なの……。映画でもほかのことでも。たくさんありすぎて……。
最後に、これからこの作品を観る日本の観客へメッセージをお願いします。
映画を気に入ってくれますように。

(このインタビューは2014年1月18日に行われました。)
プロフィール
Marine Vacth/1990年、フランス・リヨン出身。15歳のときにオペラ座界隈のH&Mでスカウトされ、モデルとしてキャリアをスタート。11年にはケイト・モスの後のイヴ・サンローランの香水「パリジェンヌ」のイメージモデルに抜擢される。20歳のときに、『Ma part du gateau』で女優デビューを果たした後、『フランス、幸せのメソッド』(10年/共にセドリック・クラピッシュ監督)に出演。ダーレン・アロノフスキー監督によるイヴ・サンローランの男性用香水「la Nuit de l'homme」のクリップでは、ヴァンサン・カッセルと共演。そして、「ほかの女優とはまったく別の印象を受けた。彼女の目の中に“内成る世界”とミステリアスさを感じた」と、初めてマリーヌに会ったときのセンセーショナルな印象を語るフランソワ・オゾン監督に見出され、本作で長編初主演を飾っている。本作が出品された第66回カンヌ国際映画祭では、オゾンの新たなミューズとして注目を浴び、“カンヌの夜に咲いた昼顔”と世界中のメディアから絶賛された。
寄稿家プロフィール
まつまる・あきこ/1996年から2005年までP3 art and environmentに在籍した後、出版社勤務を経てフリーの編集者に。P3在職中にREALTOKYO創設に携わり、副編集長を務める。2014年夏から長岡市在住。