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Interview

100:吉田光希さん(『トーキョービッチ,アイラブユー』監督・脚本・編集・製作)
聞き手:福嶋真砂代
Date: December 18, 2013
吉田光希さん(『トーキョービッチ,アイラブユー』監督・脚本・編集・製作) | REALTOKYO

人物の感情を映像に映し出そうとする、これまでの“リアリズム路線”を大胆に変え、「セリフやエピソードにこだわる新しい試みをやってみた」と語る吉田光希監督。刺激を受けた同名舞台(オーストラ・マコンドーによって上演)を元に撮った『トーキョービッチ,アイラブユー』は、自身が特別に思い入れがあるという東京フィルメックス(第14回)でスペシャル・メンションを授与された。ただいま「全力映画」の1本として劇場で公開中。最近は舞台の演出や、映画にも初出演、「なんでもやってみよう」と貪欲に活躍の場を広げている吉田さんに、新作の誕生秘話、また強い印象を残した前作『ふかくこの性を愛すべし』(オムニバス『ヴァージン』の1篇)についても遡って伺った。

「全力映画」について少し教えて下さい。

 

「全力映画」は去年から始まったプロジェクトで、去年の1回目は短編オムニバスとして4作品(全部で87分)を公開しました。尺とか内容の制限はありません。予算が決まっていて、その中でできるものだったらどんな作品でもいいという企画で、一切を監督に任されます。

 

今年も4本公開になって、そのうち吉田監督の作品は70分の比較的長編で、あとは短編が3本(『008』高橋康進監督、『いいね!』山岡大祐監督、『籠の中』伊月肇監督)なんですね。

 

はい。もう最初から無理してでも長編にしようと思ってたんです。ワークショップベースの作品でこぢんまりと終わりたくないなと。脚本を書いて、現場を乗り越えて、というような作る苦労は一緒なので。たいがい海外の映画祭は30分以下か60分以上という決まりがあって、それにはまらない尺はエントリーする部門すらなくなってしまうので、きちんと外に向けて発信できるような尺にしたいなと思ったんです。ただ、自分の適性的にはショートフィルムにはならないだろうなと。ショートフィルムはまた違う世界があるように感じてたので、そこに食い込むというよりは、いままで自分が撮ってきた長編で作るほうが、今回は無名と言っていい俳優たちで、これが初出演という人もいたので、彼らにとってもプラスになるんじゃないかと。外に向かっていけるような映画にしたいなというのは最初から決めてました。似たような企画で「シネマインパクト」がありますが、そこから出た作品が長い間公開されていました。そういうのを最近目撃していたので、こういうやり方があるんだなと思ってました。

 

吉田光希『トーキョービッチ,アイラブユー』 | REALTOKYO
(c) 2012「全力映画」製作委員会

なるほど。

 

でも、まさか東京フィルメックスまで行けるとは思ってなかったんです。出したはいいけど、まさかと。だから嬉しかったです。ほかの作品は僕のよりも先に完成しているので、すでに海外映画祭や東京国際映画祭に出したりしてました。僕のは12月公開ということは決まってたんですが、東京国際映画祭には間に合わなくて。完成してから公開までに提出できる映画祭というので、東京フィルメックスに思い切って出してみたんです。郵送に間に合わなくて、締め切り日に事務局のポストに自分で投函しました(笑)。

 

Aプロ、Bプロに分かれて、Aが短編3本の上映で、Bは『トーキョービッチ…』の単独上映ですね。前作の『ふかくこの性を愛すべし』は3篇のオムニバスのうちの1篇でしたけど、3篇で出るのと、単独で上映されるのとでは心境としてはどうなんですか。

 

怖いです、怖い、怖い。『ヴァージン』のように、3人の監督の宣伝力ってあると思うんです。『トーキョービッチ, アイラブユー』は、すでにフィルメックスで上映されましたが、あのときは1回限りで、スケジュールが合わなくて来れなかった方もいたと思うので、劇場上映に足を運んで下さると嬉しいです。

 

劇団オーストラ・マコンドーとの出会い

ところで、映画の元となった舞台の、劇団オーストラ・マコンドーとのそもそもの出会いは?

 

『家族X』主演の郭智博くんが、『家族X』公開の後に、オーストラ・マコンドーの本公演に客演で出演していたのを観に行ったんです。僕はそれまで演劇ってあまり観たことなかったんですが、けっこう刺さって。「演劇にはこんないい役者さんがいるんだ」って、映像には出ていないけど、気になる役者さんを見つけたんです。それでもう少し小劇場を観てみようかなと、それ以降も続けて観に行くようにしました。その中でもオーストラ・マコンドーがいちばん好みで、同じ時期に、映画と同名の芝居が新宿で5日間公演された舞台を観たとき、「あ、自分の作品っぽい」って思ったんです。会話劇で引っ張っていく舞台ではなくて、エモーショナルなんです。そこがすごく気に入って。自分の映画に近い感じがずっと気になっていたんです。

 

ビビッと来たんですね。

 

そんな最中に「全力映画」の話があって、4ヶ月くらいワークショップをして、最初はその中でオリジナル脚本を作っていくつもりでいたんです。途中まで書いたのですが、長編のシナリオを書き起こすのはけっこう大変で、どうしてもこぢんまりしたものになって、なかなか長編尺にいかなそうだなと、表に出せる作品にならないとつまらないなと思ってて。そんなとき、あの舞台を映画化すれば、演劇方面のお客さんにも遡及できるなと思ったんです。映画界隈の人たちだけじゃなくて、この映画だったらオーストラ・マコンドーを知ってる人たちにも広がっていくかなと。かつ、この舞台は文楽の『曾根崎心中』が原作なんです。読んだことはなくてもタイトルくらいは聞いたことがある人もいるし、また別方面のアンテナにも引っかかるのではないかと。それで、演出家さんに話をしに行って、舞台をベースに映画にしてみようと思いました。シナリオがあるといっても、俳優が作っていく舞台でもあって、すべてがテキスト化されているものではなかった。芝居していく中で肉付けされていくという感じで、どこかしら映画っぽい舞台だったんです。

 

吉田光希『トーキョービッチ,アイラブユー』 | REALTOKYO
(c) 2012「全力映画」製作委員会

舞台といえば、ちょっと脱線しますが、吉田監督は舞台の演出もしたんですよね。

 

つい先月(11月)、演出家の河西裕介さんと一緒に『ハアトフル』という舞台をやりました。『トーキョービッチ…』の前に途中まで書いてたシナリオを完成させて、45〜50分くらいの舞台です。ちょっと『トーキョービッチ…』に似てるんです。舞台演出は予想以上に楽しかったです。

 

映画よりも舞台は“生もの感”がありますね。吉田監督にとって何が違いますか。

 

まさに“生もの”ですよね。お客さんの入り方によっても俳優の芝居が変わってくるとか、お客さんがいっぱい入ってるときほど芝居がよくなるとか。それにお客さんが入れば入るほど、沈黙が重くなりますね。間がすごくズシンという空気になって。通算10ステージやったんですが、毎回毎回、観客の反応とか、俳優の芝居が変わるのが面白かったです。

 

またやりたそうですね。オリジナル脚本にこだわりますか。

 

うまくハマれば、ほかの人の脚本でも……。いや、僕は映画をやりたいんですが(笑)。でも舞台は「儚さ」がありますね。映画のように後に残らない。公演が終わったら終わりですから。

 

その儚さも好きなんですね。新領域を開拓しましたね。

 

はい、いいものを作りました(笑)。

 

ほかにも、映画の『サッドティー』(今泉力哉監督)に出演して、俳優デビューしましたね。

 

ちょっと今泉演出を受けてみたかったんです。どんな現場なのか興味がありました。決定稿前のシナリオを監督から読ませてもらっていたのですが、声を掛けていただいて。何でもやってみようという気持ちがありました。舞台演出もそうなんですけど、やってみると面白いんじゃないかと思っていました。

 

吉田光希『トーキョービッチ,アイラブユー』 | REALTOKYO
(c) 2012「全力映画」製作委員会

今回の映画のキャストに、オーストラ・マコンドーの舞台役者さんもいるんですか。

 

義徳役の武本健嗣くんはマコンドーに出てましたけど、同名の舞台に出ていた人はいません。

 

では、まるっきり新しい演者たちで作る映画だったのですね。脚本はぜんぶ吉田さんが書いたんですか。

 

舞台の再現をしてもしょうがないなと思っていたので、この舞台をベースに映画化するなら自分なりの物語を提示したいなというのはありましたね。大まかなエピソードについては使ったのですが、そこに肉付けをしました。例えば舞台ではひとり何役か演じてたり、舞台の脚本をそのまま使っても映画では表現しきれないところもありました。

 

登場人物は舞台と同じですか。菅田俊さんの役も?

 

基本的には同じです。でも菅田さんは舞台にはない役です。菅田さんは僕の好きな俳優さんで、どこかで出ていただけたらと思っていたんです。若い俳優たちの中にベテランの俳優さんが入ることで、何かが起きないかなと思っていて。お会いしたことはなかったのですが、思い切って脚本を送ってお願いしに行ったんです。そしたら承諾していただいて。セリフセリフした言葉を話しても、菅田さんだったら噓くさくならないというか、きちんとお芝居できる人がやらないと「芝居くさい」感じになりかねないようなシーンでも、すごく説得力を持って表現してくれるんじゃないかと思いました。

 

主演の八椛裕さんは、舞台挨拶もユニークでしたけど、個性的な役者さんですね。オーディションで選んだのですか。

 

4ヶ月通していろんな芝居をワークショップでやって、さらに脚本ができてからオーディションもして選びました。

 

女性を描くのがやはり好きですか。

 

いや、そろそろ止めますよ(笑)、さすがにもう。やってないことを毎回やりたくなるんです。『症例X』の70代の女性から始まり、『家族X』は専業主婦、『ふかくこの性を愛すべし(ヴァージン)』の30代の薬剤師ときて、今回は20代の風俗嬢ですから、あとは10代が残ってますけど(笑)。次はもう脚本ができてるんですが、女性はあまり出てこないんです。男くさいのがやりたいと思って。

 

吉田光希『トーキョービッチ,アイラブユー』 | REALTOKYO
(c) 2012「全力映画」製作委員会

撮り続ければ観てくれる人がいるんだなと……

映画に戻りますが、風俗嬢の仕事のリアリズムはどうやって重ねていったんですか。

 

舞台の設定は店舗型の店で、映画とは形態が違うものだったんですけど、それはよく映画で観たことあるなと思ったんです。そういうのではないのにしようかなと思ってピンクサロンにしたんです。

 

それはどこかで観たんですか。

 

実は相米慎二監督が『風花』で使ってるんです。ピンクサロン風の、価格帯も安めで、あまり清潔感もなく、そういうほうがいいかなと思ったんです。自分が目にしてない業態にしたほうがいいかと。最低でもセットでもできるくらいの、パーティションで区切ってライティングすれば、それっぽくなるかなと。でも実際はリアル店舗を借りることができました。ラッキーにも本物なんです、狭い控え室も。

 

控え室のふたりの女性の会話が好きです。とても印象的なカットがあって、そこには「吉田印」が押してあるような、吉田さんらしさが見えました。長回しを今回あまり使ってないけれど、そこの「間」だけは深く残る感じだった気がします。

 

そうそう、切り返してましたよね。一生懸命違うことをやっても、自分の癖が出てきますよね。

 

これまでの作品では苦しくなるくらい、「どこまで入っていくの?」っていうくらい突き詰めて、恐らく監督もいま入り込んでいるんだろうなと思って観てました。今回はそれに比べると、テンポがわりと早めでしたよね。

 

確かにエモーショナルな瞬間はそんなに無いですね。元々は『曾根崎心中』という文楽がベースで、人形浄瑠璃です。だからあまり表情のクローズアップとかなくて、引いているんです。ちょっと遊びですけど。それでも人物の特徴は感じられるんじゃないかと。いろいろなことをやってみる「お試しターン」でもあったんです。

 

やりたいことはだいたいできましたか。

 

限られた中ではあったけど、やりきったと思います。撮影は今年の夏で、現場ではもちろん100%やりましたが、いま振り返ると、もっとできたかなということもありますね。自分の中で気付けたこともあったので、次につなげられたらなと思います。

 

吉田光希『トーキョービッチ,アイラブユー』 | REALTOKYO
(c) 2012「全力映画」製作委員会

遡りますが、『ふかくこの性を愛すべし』についてはどう思ってますか。

 

僕の中では、あれはそれまで自分がやってきたことをぜんぶ出せたかなと思ったんですが、意外と反応がよくなかった。あの後、重いのとか、リアリズム路線にちょっと疲れたということもあったんです。意外と届かないものだなとちょっと落ち込んでいたりしました。渾身の1本ほど表に出ていかなくて……。それに、映画祭に出すには尺が足りないんです。

 

それが本当だとすれば、『ふかく…』は隠れた名作になる? 私は去年たくさん観た映画の中でも、深く響く作品でした。高校生3人が壁に向かってボトル投げをしているあのオープニングの瞬間から持っていかれたし、正木佐和さん、柳俊太郎さんもとてもよかった。

 

よかったですね。あれも2週間で書いたんです。けっこう駆け足で撮りました。キャスティングのバランスもよかったですね。あの薬局も本当の調剤薬局を借りられちゃったんです。セットだと恐らくすごくお金かかります。主人公の家は、別の映画で借りてた家を数日間使わせてもらったんです。

 

そういうロケ地運が強いというか、場所やモノの使い方もニクいですよね。今回のオープニングのビルの屋上は?

 

あれは田町のビルの屋上に、特別に上がらせてもらいました。柵のない、普段は入れない場所です。

 

撮影はいつもの吉田組の志田貴之さんですね。ほかのスタッフも同じ?

 

助監督と照明は『ふかく…』のときと同じです。志田さんとは意思の疎通が早いです。「こういう印象の映し方ないですかね」と聞くと即座に「ヨッシー、こういうこと?」って返ってくる。早いんです。塚本(晋也)組で出会ってから、もう10年になります。

 

ということは、映画を撮って10年になるのですね。

 

映画を撮り続ければ観てくれる人がいるんだなと思いました。

 

東京フィルメックスのスペシャル・メンンション授与のときには感極まったとか……。心境はどうだったんですか。

 

舞台に立って声が出てこなくて、自分でもびっくりしました。僕にとってはフィルメックスは特別だったんです。よく通って観てたし、コンペティションに入る日本の監督たちは本当にいい作品が多くて、好きな映画祭です。入れただけでも嬉しかったです。

 

吉田光希『トーキョービッチ,アイラブユー』 | REALTOKYO
(c) 2012「全力映画」製作委員会

先ほどちらりと触れた、次回作はバイオレンスというのは本当ですか。

 

格闘技の舞台で、スポ根ものというよりはちょっと周辺の話なんです。鄭光誠(チョン・ガンソン)さんという舞台の演出家と一緒に、もう1年くらい改稿し続けてます。インディペンデントではなくて商業映画です。

 

規模が大きくなって、やりたいこととやってほしいと言われることに差があると難しいですか。

 

でも、意外にやれる気がします。舞台演出も新しい分野だったけどやれたし、けっこう僕は気に入ってるんです(笑)。次で未公開作品も含めると10本目の映画になります。期待して下さい。

 

期待してます。未公開作品も観たいですね。

 

(※このインタビューは2013年12月4日に行われました。)

 

プロフィール

よしだ・こうき/1980年生まれ。東京造形大学造形学部デザイン学科映画専攻領域卒業。在学中は諏訪敦彦監督に師事し、塚本晋也監督作品などにスタッフとして参加する。卒業後はCMやPVの製作に携わりつつ、自主製作で長編第1作『症例X』(07)を監督。同作はぴあフィルムフェスティバル(PFF)で審査員特別賞を受賞し、ロカルノ、ブエノスアイレスなどの国際映画祭で上映された。2011年、PFFスカラシップ作品として『家族X』を監督。同作もベルリン国際映画祭フォーラム部門をはじめとする多くの国際映画祭に選ばれた。『トーキョービッチ,アイラブユー』(13)は長編第3作。このほか、オムニバス映画『ヴァージン』の1篇として製作された短編作品『ふかくこの性を愛すべし』(12)がある。

インフォメーション

トーキョービッチ,アイラブユー』(「全力映画」の1本として公開)

12月7日(土)〜27日(金)、新宿K’s cinemaにて3週間限定公開

配給:アークビジョン

公式サイト:http://zen-ryoku-eiga.com/

寄稿家プロフィール

ふくしま・まさよ/航空会社勤務の後、『ほぼ日刊イトイ新聞』の『ご近所のOLさんは、先端に腰掛けていた。』コラム執筆。桑沢デザイン塾「映画のミクロ、マクロ、ミライ」コーディネーター。産業技術総合研究所IT科学者インタビューシリーズ『よこがお』など。