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Interview

097:松林要樹さん(『祭の馬』監督・撮影・編集)
聞き手:松丸亜希子
Date: December 10, 2013
松林要樹さん(『祭の馬』監督・撮影・編集) | REALTOKYO
松林監督が拠点とする都内の三畳一間にて。「家賃は17,000円。これもリアルな東京でしょ」と笑う監督

3.11の2週間後、南相馬市に支援物資を運び、現地で撮影を開始した松林要樹監督。2012年5月公開のドキュメンタリー『相馬看花−第一部 奪われた土地の記憶−』では、非日常下で暮らす人々に寄り添い、日々の営みを丁寧に映し出した。20キロ圏内に残された馬と彼らに携わる人々に焦点を当てた『祭の馬』は、『相馬看花』第二部でもある。アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭から帰ったばかり、ドバイ国際ドキュメンタリー映画祭に出発する前夜の多忙な監督にお会いするため、彼が暮らす都内のアパートを訪ねた。

東京フィルメックスで上映される直前、アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭でも上映されたそうですね。その前に韓国のDMZがあり、この後ドバイがあって。『祭の馬』は各国を巡っているんですね。

 

来年2月にはフィンランドのドックポイントでも上映される予定です。アムステルダムでは、観客の人たちがけっこうみんなQ&Aまで残ってくれたし、反応はよかったですよ。ほかの作品を観る時間も取れて、いくつか観たのですが、ロシアのヴィタリー・マンスキーの『パイプライン』というドキュメンタリーが面白かった。例えば工場の生産ラインなど動きのあるものを撮り、テロップなどをいっさい使わずに編集して、まさに芸術ですね。ああいう映画を僕も作ってみたいなと思いました。

 

松林要樹『祭の馬』 | REALTOKYO
(C) 2013記録映画『祭の馬』製作委員会

馬に魅了され、「馬喰」への興味も募り

『祭の馬』は『相馬看花』第二部に当たるわけですが、第一部で登場している南相馬市議会議員の田中京子さんが、『祭の馬』にも少しだけ出ていますね。第一部と第二部は、同じ時期に撮影されたんですか。

 

そうです、まったく同じです。『祭の馬』に登場する馬主の田中信一郎さんは京子さんの親戚なのですが、ボランティアで馬小屋の手伝いをしながら取材を始めて、撮っていくうちに、2011年の7月くらいには馬だけで独立した作品にしようと思っていました。馬ってとてもきれいだし、人間をからめていくよりも、馬だけでまとめたほうがいいなと思って。田中京子さんの家族と周辺のみなさんを映したフッテージは、一時帰宅の映像などもあったので、それだけで1本の作品になるなと思い、2つの作品に分けたんです。

 

青空を背景に撮られた馬がとても美しく、砂浴びのシーンなどは可愛らしくもあり、スクリーンで観たい作品ですね。監督はもともと馬好きなんですか。

 

いや、まったくそういうわけじゃないんです。あんなに近づいたのは今回が初めてだし、最初はうまく扱えなくて。世話をしながら少しずつ、馬について知ることができました。実は、あの馬はアシヤサルタンといって、父親はドバイのワールドカップで優勝したムーンバラッドという馬なんです。僕も彼の砂浴びする姿を初めて見て、全身で喜びを表現する馬に魅了されていったんです。元競走馬のミラーズクエストには、たまたま2011年の4月に現地で出会ったのですが、最初はあの痛々しい様子に同情して、その後も撮り続けることになりました。その頃、馬が福島に取り残されているというニュースとして、テレビでも放送されたんですよ。4月21日以前の大手マスコミがまだ入ってない時期には、撮ったものをいろいろ放送してもらいました。

 

松林要樹『祭の馬』 | REALTOKYO
(C) 2013記録映画『祭の馬』製作委員会

しかし、あの馬たちは「放射能汚染」というレッテルを貼られて、もうあの場所から出られないんですよね。人間がしでかしたことに翻弄される馬の運命を思うと複雑な気持ちになります。

 

そうですね。原発事故がなければ、彼らは「相馬野馬追(そうまのまおい)」の後に馬肉として出荷されるはずだったのですが、事故があったから出荷されず、生きながらえたわけです。馬を撮りながら、馬肉に関わる「馬喰(ばくろう)」と呼ばれる人たちにも興味が湧いて、映画の公開と同時に『馬喰』という本を出すことになりました。映像で語れることと文章で語れることは違うので、文章で語れることを本にしてみようと思って。このときの経験をテーマに、いずれ映画も作りたいと思っているくらいです。

 

馬の撮影をしちゃいけないとか、写真をネットにアップしちゃいけないといったシーンもありましたね。

 

いまだによくわからない部分もありますが、建前上、行政としては取材を禁止したわけではなく、自衛隊の駐屯地だから、そこでカメラを回すこと自体が問題だということだったらしいです。いつも後からそういうことになるので、後付けの理由のような気もするし。確かにあの頃は取材はダメだと言われてたから、それもあって厩務員として働きながら撮ろうと思ったんです。けっこう早い時期から現地入りしてましたから、馬の世話をしながら認めてもらったことが大きかったと思います。しかし、特定秘密保護法案が成立してしまうと、これからは撮りづらくなりますね。大手マスコミ以外が情報にアクセスできないようになると、フリーランスの仕事が成立しません。

 

松林要樹『祭の馬』 | REALTOKYO
(C) 2013記録映画『祭の馬』製作委員会

第一部でまさにそのやりとりが映し出されたシーンがありましたね。原子力安全・保安院との電話で「“公益性のある”記者クラブ所属の記者以外は取材お断り」という……。

 

まさにあれが、この国の現実になってきましたね。厳しい状況で暗い気持ちにもなります。この忙しい最中ですが、今日は思わず国会前のデモに行ってしまいましたよ。行かないと後悔するかなと思って。

 

アイデアを取り入れたり、取り入れなかったり

『相馬看花−第一部 奪われた土地の記憶−』とこの作品は、見せ方がけっこう違いますよね。第一部ではテロップなどは排除されていましたが、『祭の馬』はテロップもあり、音楽もあり、馬が描かれた絵巻もあり。

 

最初のラフカットでは2時間半くらいあって、そのときは第一部と同様、何もなかったんです。プロデューサーの橋本佳子さんが加わってくれたから、こういう作りになったんだと思います。フォローテキストを入れたほうがいいというアドバイスをくれて、最初はどうなのかなと思ったりもしたけど。最終的には僕にハンドリングさせてくれて納得しています。絵巻を入れたのは友人の大澤一生さんのアイデア。彼と話しているうちに、絵巻を動かそうということになったんです。

 

松林要樹『祭の馬』 | REALTOKYO
(C) 2013記録映画『祭の馬』製作委員会

ほかに、瀬々敬久監督や木村文洋監督のお名前も編集協力としてクレジットされていましたね。

 

そうです。75分の尺に編集した数パターンを見てもらい、どう思うか聞いてみたんです。木村監督は紙に図式を描いて具体的に説明してくれました。「ここで何分だから、ここにこれが入れば効果的」という感じで。家庭教師みたいに(笑)。

 

木村監督のアイデアも取り入れたんですか。

 

いいえ。聞いてみてよかったのは、やっぱり自分のやり方でよかったんだとわかったことです(笑)。兄弟ふたりのインタビューが続くところで、どちらかひとつを切ろうと思っていたのですが、ふたつとも生かしたほうがいいんじゃないかという瀬々監督の意見は取り入れました。監督以外にも、編集段階でけっこういろんな人に観てもらってヒヤリングしています。

 

松林要樹『祭の馬』 | REALTOKYO
(C) 2013記録映画『祭の馬』製作委員会

『祭の馬』で『相馬看花』は完結?

ウイグルの音楽は松林監督のセレクションですか。

 

そうです。馬といえば中央アジアのイメージで、2000年にウイグルを旅したときにバスの中で運転手が夜通し居眠り防止のためにガンガン鳴らして聴いていた音楽です。ウイグルの移動は、次の町まで2泊3日くらいかかる。とにかくだだっ広いんです。車窓からは騾馬や馬がいっぱい見えて、馬が生きる土地だなと思って。それで、歌手の名前がパシャイシャーンというウイグルの美空ひばりのような人だと知って。帰国後、彼女のCDを探していたら『風かおる草原 中央アジア』というものがありました。今回これを聴いてみて、けっこういいなと思って使ってみました。

 

『相馬看花−第一部 奪われた土地の記憶−』公開前に取材をさせていただいたとき、第二部で完結予定とのことでしたが……。

 

まだわかりません。実は今年の5月から7月にかけて3ヶ月くらいブラジルに滞在して、福島県から移民として移り住んでいる人を撮影しています。東北で昭和初期に大飢饉があって、けっこうたくさんの相馬の人が移民としてブラジルに渡っているそうで、市議の田中京子さんの親戚にも移住している人がいます。今はまだリサーチして、滞在する間に取材してという、そんな段階ですが、ぜひ作品にしたいですね。ブラジルのことは『馬喰』にも書いています。

 

ブラジル編が第三部になるかもしれませんね。楽しみにしています。そういえば、2014年は午年ですから、馬に注目が集まるのでは?

 

期待したいです。旧暦の新年が1月末ですから、そこまで上映が続くといいですね。映画と本がヒットすれば、この三畳一間から脱出です(笑)。

 

(このインタビューは2013年12月4日に行われました。)

 

プロフィール

まつばやし・ようじゅ/1979年、福岡県生まれ。大学中退後、経文みたいなものを求めて天竺めがけて一人旅。日本映画学校卒業後、映像ジャーナリスト遠藤盛章のアシスタントを経て、東京の三畳一間を拠点にアジア各地の映像取材をして糊口をしのぐ。2009年、戦後もタイ・ビルマ国境付近に残った未帰還兵を追った『花と兵隊』を発表。第1回田原総一朗ノンフィクション賞〈奨励賞〉、第26回山路ふみ子映画賞〈福祉賞〉を受賞。11年、森達也、綿井健陽、安岡卓治とともに『311』を共同監督。12年、地震と津波と放射能汚染の被害を受けた福島県南相馬市江井地区を取材した『相馬看花 第一部 奪われた土地の記憶』を発表。著書に『ぼくと『未帰還兵』との2年8カ月』(同時代社)、共著に『311を撮る』(岩波書店)。『馬喰』(河出書房新社)を12月に刊行予定。

インフォメーション

祭の馬

12月14日(土)よりシアター・イメージフォーラムにてロードショーほか全国順次公開

公式サイト:http://matsurinouma.com/

 

Book『馬喰』松林要樹 著

河出書房新社 12月14日(土) 発売 ¥1,680

ISBN-13: 978-4309022420

寄稿家プロフィール

まつまる・あきこ/1996年から2005年までP3 art and environmentに在籍した後、出版社勤務を経てフリーの編集者に。P3在職中にREALTOKYO創設に携わり、副編集長を務める。2014年夏から長岡市在住。