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Interview

093:アリソン・アンダースさん(『ストラッター』共同監督・脚本・製作)
聞き手:松丸亜希子
Date: September 14, 2013
アリソン・アンダースさん(『ストラッター』共同監督・脚本・製作) | REALTOKYO

最愛の恋人が去り、ヴォーカルを務めるバンドは解散、失意の底に突き落とされたロッカーの切なくて愛しい日々を、美しいモノクロの映像で綴った『ストラッター』。アリソン・アンダースとカート・ヴォス、長年コンビで映画を作り続けるふたりの監督が共同で手掛けた、“南カリフォルニア3部作”最終章だ。クエンティン・タランティーノ、モンテ・ヘルマン、ガス・ヴァン・サント、イーサン・コーエンら、著名な監督たちも製作をサポートし、25,000ドルで作り上げたという。昨年の東京国際映画祭でも好評だった本作の劇場公開に先駆け、アンダース監督にメールインタビューで語っていただいた。

音楽好きな人、特にロックファンにはたまらないチャーミングな作品ですね。アンダース監督はこれまでにも音楽に関わる映画を撮られていますが、ご自身はいつもどんな音楽を聴いていらっしゃいますか。

 

カートも私も、LAの音楽に関する映画を作りたくて、ミュージシャンだけでなく、音楽を愛する人々を描いた作品を撮りたいと考えていたんです。私自身は、あらゆるジャンルの音楽が好きです。最近書き始めたプロジェクトでは、1940年代から50年代初めの頃の音楽をたくさん聴きました。その時代の1種類の音楽だけを聴いていたわけではなく、R&B、ヒルビリー、フォーク、そのころラジオから流れてきた音楽、そしてジャズ。どれも素晴らしく、ロックンロールが登場する前の刺激的な時代でした。それとダフト・パンクも好きですし、でも、いちばん好きなのは60年代の音楽。特にビートルズは私の原点なんです。

 

お仲間のミュージシャンたちがたくさん出演し、劇中で演奏しているせいか、ドキュメンタリー的な趣もありますが、物語の構想はどのように生まれたのでしょう。

 

そうですね。出演している彼らも、ある程度は自分自身を演じていますし、私たちは映画の中にドキュメンタリーの要素を取り込んで作ることが好きなんです。映画学校にいた頃、ほとんどの生徒は、何かの偽物のような作品しか作っていなくて、私はもっと自分の自然な感覚をスクリーンに映したいと思っていました。今回もできるだけ自然でリアルなミュージシャンと音楽を愛する人々を描こうとしました。

 

アリソン・アンダース/カート・ヴォス『ストラッター』 | REALTOKYO

共同監督カート・ヴォスとの揺るぎない信頼関係

総製作費の25,000ドルを、クラウドファンディングで集めたとうかがいました。名立たる監督たちもサポーターとして参加されたそうですね。カート・ヴォス監督が昨年の東京国際映画祭のトークで「アリソンが人格者で愛されているから、みんなが協力してくれた」と語っていますが、それを聞いていかがですか? また、主にお金がかかったのはどの部分でしょう。

 

製作費の使い方については、特に偏った傾向はないと思いますが、カートがそんなふうにいってくれていたなんてステキだわ! 私たちは、とてもいい関係で共同監督をすることができていると思います。

 

もう四半世紀も共に活動をされていて、今回は13年ぶりのタッグだそうですね。脚本と演出は、どのように作業を分担しながら進めたのでしょう。意見が衝突したりすることはないのでしょうか。

 

作品のビジョンや、個々のシーンに何を求めているのかをお互いに分かり合っていますから、ふたりの間で意見が衝突することはほとんどありません。たまには議論をすることもあるけれど、ほとんどの場合、このシーンをよりよいものにするためにはどうすべきかということについてのものです。これは何年経っても変わりませんね。

 

アリソン・アンダース/カート・ヴォス『ストラッター』 | REALTOKYO

ヴォス監督が「モノクロ映画が大好き」と語っていましたが、アンダース監督もモノクロがいいなと思ったのはなぜでしょう。モノクロでいこうと決めた理由を教えて下さい。

 

私たちは本当に白と黒(モノクローム)が好きで、それは、モノクロで作られた美しい映画が好きだからかもしれません。カートと一緒に作った最初の映画『ボーダー・レディオ』(1987)がモノクロで、私たちはあの頃と同じように映画を作りたかったんです。私のお気に入りの映画は、ヴィム・ヴェンダース監督の『都会のアリス』(1973)や『ことの次第』(1982)。もちろん『ベルリン・天使の詩』(1987)にも同じような美しさがあります。カートはこれらの映画同様、ゴージャズなモノクロ映像を撮影してくれました。

 

ジャック・ピックフォードのサイレント作品が登場します。監督はサイレント映画マニアとのことですが、クレオのキャラクターにご自身を投影されたでしょうか。

 

私はジャック・ピックフォードのことを“Long dead Boyfriend”と呼んでいるんです。彼のことを知る人は少ないですが、魅惑的で、才能があるだけでなく、強烈な個性をもった人物でした。しかしピックフォードはきちんと理解されていません。劇中でブレットとクレオに、彼は麻薬常習者だったというセリフを言わせていますが、実際は違います。クレオをジャック・ピックフォードのファンという設定にできて、私は本当に楽しかったんです。

 

監督のお子さんがカメラと音楽を担当されたそうですが、子供たちとの共同作業は楽しいものでしたか。ブレットとシングルマザーの母親が友だちのようで、微笑ましいものでしたが、その母子関係は監督とお子さんたちの関係に似たものでしょうか。普段はどんなお母さんなのでしょう。

 

あはは(笑)。そうね! 息子のルーベンと私の関係はブレットと彼の母親との関係に似てるわね。20代前半の男の子が抱える悩みなんて大概、女の子のこと、お金がないこと、ボロ車のこと……、みんな似ているしね。ルーベンは素晴らしい眼をもっていて、彼のカメラワークは本当に美しいと思う。ブレットが街を歩き、風船を見つけてそれを空に放つシーンは、彼がディレクションをしたのよ。あのシーンを構想して作り上げていく姿はとても誇らしく思えたわ。

 

アリソン・アンダース/カート・ヴォス『ストラッター』 | REALTOKYO

“南カリフォルニア3部作”最終章とのこと。最初から3本と決めていたのでしょうか。今後のプランについて教えて下さい。

 

最初から3部作として構想されていたものではありません。これからのことは誰にもわかりませんが、たぶん私たちはまた新しい映画を作るでしょうね!

 

最後に、これからこの作品を観る日本の観客へメッセージをお願いします。

 

お母さんの言うことをよく聞いて、友達を大事にして、強く愛し合って、失恋をして、そして素晴らしい歌を作って下さい。そうすれば、あなたは本物の愛を見つけることができるでしょう。

 

(※このインタビューは2013年9月3日に行われました。)

 

プロフィール

Allison Anders/1954年、アメリカ合衆国ケンタッキー州生まれ。カルフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で映画製作を学び、87年の『ボーダー・レディオ』で映画監督デビュー。ラテンアメリカのギャングを描いた独創的な作品『Mi Vida Loca』は93年にカンヌの監督週間で公開された。99年からはテレビシリーズも手掛け、『セックス・アンド・ザ・シティ』『Lの世界』『コールド・ケース 迷宮事件簿』などの人気シリーズも何本か監督している。このほかの主な監督作品に『ガス・フード・ロジング』(92年)、『フオー・ルームス』第一話「ROOM 321」(95年)、『グレイス・オブ・マイハート』(96年)、『Sugar Town』(99年)、『Things Behind The Sun』(01年)。

インフォメーション

ストラッター

9月14日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー

(c)2012 Alison Anders and Kurt Voss

公式サイト:http://strutter-the-movie.com/

寄稿家プロフィール

まつまる・あきこ/1996年から2005年までP3 art and environmentに在籍した後、出版社勤務を経てフリーの編集者に。P3在職中にREALTOKYO創設に携わり、副編集長を務める。2014年夏から長岡市在住。