

“泡沫候補”と呼ばれる落選自明の立候補者たちをこれでもかと追いかけるカメラ。藤岡利充監督が製作と撮影を担った木野内哲也さんとの二人三脚で撮った。登場する「奇天烈」な人々のインパクトに負けない作り手のド根性が伝わる。外国人の目からも不思議に映る候補者たちは、なぜ立候補するのだろう? この国の選挙はどうなっているんだろう? ユーモアが効いている編集に惹き付けられる。引き継いだ家業を廃業してまで“映画界に立候補”したという想いを藤岡さんが明かす。ポレポレ東中野でインタビューに応えてくれた公開初日から“12日間連続満席”という快挙を記録。参院選まっ只中のいま、ますます注目を集めている。
子供の誕生も僕の背中を押した
藤岡さんは山口県のご出身で、ずっと山口にお住まいなのですか。プロフィールがプレスに載ってないけど、秘密ですか?
いえ、無名でいいかなと。いや、そんなことないですけど(笑)。2001年から08年まで東京でCMの仕事をしてました。その後、結婚を機に帰郷して、全然映像とは関係ない家業の新聞屋を継いでやってました。それでまた映像を作りたくなって……、というわけです。どれもマスコミと言えばマスコミつながりの仕事でしたね。
今回、映画を撮ろうと思ったきっかけは?
最初は映画じゃなくてインターネットの企画として始まりました。新聞屋をやりながら映像は趣味で続けようとしてたんですけど、「ゆうばり映画祭」に参加するために、新聞屋をやめたんです。だから先月で稼業も終わったんです。
お父様はどうおっしゃってるんですか? すごい転機になったんですね。
父はかなり悲しんでて。まあ、本当に『映画「立候補」』が、僕が”映画界に立候補する”いいきっかけになればと思っています。
「彼らは本気なのか?」って“泡沫候補”の人たちに向けたフレーズがあるんですが、同じように、監督の本気度も映画ににじみ出てる感じがしました。いよいよ今日が公開初日ですけど、いまのご感想は?
まだ実感が湧かないですね。作ったときはプロデューサーの木野内(哲也)さんと二人三脚で作ってましたが、いまは観客の皆さんに任せて、反応を楽しみにしています。僕の妻には映画の公式ツイッターを任せたりしてますが、最近は「私の知らないところで映画が動いてる」ってちょっと寂しがってます(笑)。
子供が手を離れる感じですね。奥様はほかにも映画制作に参加されたのですか。
いえ、ツイッターだけですけど、妻がマック赤坂さんのことを僕に教えてくれたんです。おもしろい人がいるよって。僕は外山恒一さんのことは知ってましたけど、マックさんのことは知らなかったんです。外山さんが取材を受けてくれたので、ほかに誰かいないかと探して、マックさんを見つけました。
もともと監督は外山さんに興味があったのですか。政見放送等の演説と映画で話してる素の外山さんでは全然感じが違っていてビックリでした。ちょっとコワモテでもあるし。
そうなんですよ、外山さんはカッコいいですね。僕も最初まったく面識はなくて、ちょっとビクビクしながら近づいて「外山さんですか?」と声をかけたら、明るく「はい、はーい」って。

オープニング(近辺)の外山さんの演説シーンは編集もカッコよくて、聴き惚れました。それに、言葉は過激だけど聴けば聴くほど内容もだんだん胸に響いてきて、そこに監督の気持ちがシンクロしているのも感じました。
なかなか最後まで聴ける政見放送ってないんですけど、外山さんのは最初から最後まで聴けたんですよね。映画で使ったのは2007年の都知事選の演説です。
そういう監督の気持ちを込めての、あのリムジンのオープニングシーンなんでしょうか。(個人的にレオス・カラックス監督の『ホーリー・モーターズ』を思い出し……)
そうですね、この映画のきっかけでもあるし、マック赤坂さんが政見放送にこだわり始めたというのも外山さんの影響だというし。おふたりは2007年の都知事選には一緒に出馬してますね。
ちょっとライバルっぽい関係?
そうかもしれません。その頃マックさんはまだ普通にスーツを着て、もうちょっと真面目にマニュフェストを読み上げていましたね。彼がいまのように弾けたのは、2011年の都知事選で北野武さんがマックさんのことをつぶやいたらしく、そこらへんからですかね。
マック赤坂さんの素はどんな感じなのですか?
映ってない部分で言えば、女性好きかな(笑)。スマイルレディをいつも募集してますからね。
そう言えば、マック赤坂さんの公式サイトを見たらスマイルレディが載ってました。映画の中の選挙カーのウグイス嬢の方でしょうか。
いえ、あれはまた違う方ですね。スタッフは頻繁に替わってますね、ファンキーたけしさん以外は……。
ファンキーさん(櫻井武秘書)! 彼がお抱え運転手になってよかったと思いました。普通の人っぽくて真面目な感じですね。映画では櫻井さんのお子さんの話もあったし、監督のお子さんの誕生も重なったという時期だったのですね。
そう、子供の誕生も僕がこの映画を撮るきっかけになったと思いますし、自分の息子に対して何かを語りたいという想いもあったと思います。いま1歳半くらいになりました。
将来「僕が誕生したときにお父さんが撮った映画だ」と彼は観るわけですね。
瞬間に最速でいいものを撮る!
撮影でいちばん困難だったことは何でしたか。
立候補者の方々は特に友人とかじゃないので、アポイントをとることがいちばん難しかったですね。さらに撮影は、ピンポイントで撮るわけですから、そのときにちゃんといいものが撮れるかどうか、そこが悩ましいところでした。撮れなかったときはどうしようと。ずっと付いているわけじゃないので、瞬間に最速でいいものが撮れるように努力しました。

いろんなハプニングが起きてて、ドラマチックでした。マックさんは自分でアクションを起こしていくタイプで、橋下徹さんの選挙カーに向かって行く場面とかも、こう言っては何ですが、願ってもないような瞬間でしたね。マックさんにとっては、選挙が何か表現の場のように見えました。
彼は自分で思いついたことをとにかくやる人ですね。別に選挙だから特別にやっているわけじゃなくて。以前も、いきなり石原(慎太郎)さんの自宅を訪問したり、仕分けの現場にも乱入したり、思いついたことをすぐ実行するんですね。
笑われようが何しようが気にしないという姿勢がすごい。
多分、小さい頃に彼の親から言われた言葉の影響じゃないかと。「お前はできる」と言われて育って、自分もそれを信じてやってきた。「誉められて成功して」という成功体験の積み重ねで自信につながったのじゃないかと。
京都大学を卒業した後、商社に25年勤務したという輝かしい経歴を見ると、まっとうに活躍をされてきた方なのだろうなと。監督はマックさんに、そういう幼少時の話とか生い立ちとか聞いたんですか。
それほど詳しくは聞いてないし、彼が話したとしても本当かどうかわからないから、映画では使いませんでしたけど、撮影の間に観てて多分そうなんだろうなと推測したんです。
撮影で感じた感動をどうやったら伝えられるか
さっき話に出たオープニングシーンもゾクゾクしましたけど、ラストもカッコよくて、中の構成もおもしろい。編集はかなり悩んだのでしょうか。
そうですね。橋下さんのシーンとか、結構いいシーンが撮れて。あのとき撮っていてマックさんの根性とか、誇りとか魂を感じました。映画でそれを感じられるように構成するにはどうしたらいいかと考えましたね。供託金300万円を払ったくらいで、橋下さんの対抗馬としてやり合うのは自分ならできない気がしたし、そこは男としてのマックさんの魅力を感じたところでした。とは言え普段は奇天烈な人だから、そういう僕が感じた感動をどうやったら伝えられるかと悩みました。
そこにマックさんの息子さんが登場しました。息子さんのあのような行動を、監督は予想なさってましたか。
予想してなかったですね。石原さんのところで始まって、秋葉原のところでピークになって。撮影を続けてみないとわからないなと思いました。あれも撮影していて感動したところです。やっぱり恐いじゃないですか。罵倒する群衆に向かって「馬鹿な親父かもしれないけど、親父は親父なんだよ」と言った彼は迫力がありました。
記者会見で監督が橋下さんに、マック赤坂さんのことを質問しましたね。
映画の試写会を最初に新潟でやったとき、反応が悪くはなかったけど良くもなかったんです。マックさんは奇天烈な人なので、そこに対してもうちょっと「そうじゃないでしょ」と突っ込む人が欲しいと思って、あの行為が橋下さんに届いているのか確認しようと質問しました。多分橋下さんには届いてないだろうし、届いてたとしたら「スマイル!」ぐらい言うかなと思ってましたが……。

それであのリアクションでした……。
さすがですね。でもあのときの橋下さんから感じられたのは、「俺を倒したいんだったら選挙に出てこい」という気迫でした。過去の選挙に勝っていた橋下さんの自信は揺るぎないものでした。橋下さんは記者会見でちょっとマックさんについて触れたことがあるんです、映画には映ってないですけど、橋下さんが勝ったときの記者会見で記者の「橋下さんと同じ政策を掲げたら、誰でも当選できると思うか?」という質問に対して、「マック赤坂さんなら」と答えてます。きっと選挙で勝ったので余裕が出たのだろうと思いますけど。
あいりん地区で取材された意図というのは?
政治家というのは、仕事が無い人たちに対して施すのが政治家の理想像じゃないかと思っていて。そういう人たちに対して意見を聞くのが政治家のあるべき姿かなと思って、インタビューしました。主に聞いたことは「誰に投票しますか?」ということだったんですけど、それに対して予想では、選挙は自分には関係ないからと何も言わないだろうと思ってたんですけど、意外とみんなしっかり意見を持ってました。
貴重なシーンだなと思いました。
あそこも予想を裏切られて、しゃべらないかなと思ったら、意外とみんなどんどんマイクに寄ってきてしゃべってくれました。
マックさんを知ってる人はいたのでしょうか。
いませんでしたね。橋下さんは知ってるけど、松井一郎さんのことは知らなかったですね。「橋下の下は誰や」と言ってました。
次作のターゲットは内閣総理大臣?
こうやって少数派を映すことで何とすごいものが映ったんだろう、魔法なのかしらと思うくらいでした。誘導も何もなく、すごくおもしろい現実が映ったという……。
もちろん誘導は何もしてません。やったと言えば、橋下さんに会見で質問したくらいで。そのときも、こちらが予想したものとは違うものが出てきたのも面白かったですね。
やり遂げた手応えはありますか。次作はどのような?
いや、まだまだ始まったばかりですから。次作は、できれば内閣総理大臣が撮りたい。
え? 安倍さんですか。
いや、安倍さんではなく、何かフィクションで作ろうかと。子供の「夢」の中に、イチローや本田のほかに、総理大臣になりたいと思う子供がいるような社会にしたいなと。
いまは総理大臣は子供の夢の中にはなさそうですね、サッカー選手になりたい子は多いけど。監督には、映画を作ることで社会を変えたいという気持ちがあるんですか。
変えたいかどうかわかりませんけど、そういうふうにしてみると面白いんじゃないかと。自分が生きよい社会になるといいなと思ってます。

映画を撮り終えて、絶望よりも希望が見えたという感じでしょうか。もちろん映画のイメージは絶望ではないですけど、現実は暗い。少数派が何もできない状況というのが見えたりも……。
絶望がありすぎるけど、それでも闘っている人がいるということを知っていただいて、人生の何でもいいから、それに「立候補」できたらいいなと思うんです。
高橋源一郎さんの記事では「ぼくらはみんな『泡沫』だ」(朝日新聞論壇2013.6.27)と書かれていて、「群衆から罵倒されているのは、ぼくたち自身ではなかったろうか」と。私たちの身代わりかもしれないと考えることもできるというのは衝撃でした。私はこの映画が、みんなが見過ごす、あるいは目を向けていない人たちに光を当てたことがすごいなと思いました。
ありがとうございます。僕自身、今回映画で挑戦しようとして、政治の世界で否定されても立ち向かっていく彼らのように闘おうと思いましたし、やりたいことがある人には、この映画が勇気を与えるものになればいいなと思います。
(※このインタビューは2013年6月29日に行われました。)
プロフィール
ふじおか・としみち/1976年山口県岩国市(旧周東町)生まれ。2005年に「フジヤマにミサイル」で劇映画デビュー(監督・主演)。
寄稿家プロフィール
ふくしま・まさよ/航空会社勤務の後、『ほぼ日刊イトイ新聞』の『ご近所のOLさんは、先端に腰掛けていた。』コラム執筆。桑沢デザイン塾「映画のミクロ、マクロ、ミライ」コーディネーター。産業技術総合研究所IT科学者インタビューシリーズ『よこがお』など。