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Interview

079:沖田修一さん(『横道世之介』監督・脚本)
聞き手:松丸亜希子
Date: February 20, 2013
沖田修一さん(『横道世之介』監督・脚本) | REALTOKYO

前作『キツツキと雨』からちょうど1年、新作『横道世之介』が劇場公開へ。4度目のタッグとなる高良健吾を満を持して主演に迎えた本作は、吉田修一の同名小説が原作。これまでの作品も然り、主人公だけなく、どの人物も愛おしく映る演出は、沖田監督のまなざしそのものかもしれない。独自のユーモアセンスに彩られた作家性がありながら、マニアックにならずに大衆性も兼ね備えている、その絶妙なバランスが心地いい作品はどう作られているのか。今回初めて小説の映画化とフィルム撮影に挑んだ沖田監督にお会いした。

五反田団・前田司郎との共同作業

今回、一緒に脚本を担当された五反田団の前田司郎さんは、中学と高校のお友達だそうですね。

 

中高一貫の男子校で、同じクラスになったことはないんですけど、サッカー部の友達だったんです。『キャプテン翼』の若林くんが好きで、僕は中学のときにキーパーをやってました。前田の実家が五反田の、いまはアトリエヘリコプターになっているところで、卒業してからもよく遊びに行ったりしてましたね。

 

日芸の映画学科に進まれていますが、映画を志したのは高校生のころですか。

 

中学生のとき、前田と一緒に遊びで『地底人の謎』という作品を作って、アカデミー賞を穫るために「アカデミー部」を立ち上げました。高校では、暗室が使いたい放題だったので写真部に入って現像も覚えて、その延長でみんなでビデオを回して遊んだりしていたんです。バンドもやって、鱒寿司の桶とかをドラムセットみたいにして叩いて録音して、みんなで「今日はいい曲が出来た!」って(笑)。写真も映像も音楽も、面白ければなんでもやるという感じで、遊び道具の1つとしてビデオカメラもあったんです。もうちょっと映画をやりたいなぁという気持ちもあり、作っていたら映画を観るのも好きになって。高校時代はいっぱしの映画青年でしたね。通学の帰りに池袋の文芸座やル・ピリエに通って、2本立てをとりあえず観まくる。そのうちアップリンクとかにも行き始めて、だんだんとマニアックな世界へ……(笑)。なんとなく映画の仕事をやりたいなぁと思って日芸の映画学科に入ったんですけど、なにやっていいかわかんなかったんです。友達が、野球の監督だって監督をやろうと思ってなってるんじゃないんだから、ちゃんと手に職をつけたほうがいいよとアドバイスしてくれて、確かにそうだな、手に職かと思って撮影コースに入りました。でも、カメラマンになるつもりはまったくなかったし、ついていけなくなり、学校にも行かなくなってしまって。3年生くらいになって、やっぱり監督がやりたくなったんですね。1年留年して、自主映画を撮ってました(笑)。最初から監督コースに行けばよかったんですけどね。

 

結果的に監督になられたのは、やはり才能ですね。20年来の友人である前田さんとの共同作業はいかがでしたか。

 

面白そうなことがあればふたりでやっていましたが、本格的な仕事は今回が初めて。この作品の話があったとき、ちょうど僕は『キツツキと雨』に向けて動いていたということもあって、初稿から3稿くらいまで前田に好きなように書いてもらいました。「原作の中でどうしても外せないところがあったら言って」と彼が言ってくれて、それは伝えましたが、基本的には前田にお任せ。『キツツキと雨』の仕上げが終わったくらいのタイミングで、本格的に直しを入れていきました。前田がある程度のところまで責任を持ってやってくれて、「俺が関わり続けるとゴチャゴチャになっちゃうから、沖田の作品として好きにやって。後はよろしく」という感じで引き継ぎました。

 

沖田修一『横道世之介』 | REALTOKYO
(c)2013『横道世之介』製作委員会

時代の表現、その難しさと面白さ

小説の映画化は初めてだそうですね。人気作家の原作ということで、プレッシャーはなかったでしょうか。

 

吉田さんだからということでなく、小説の映画化という初めての経験をワクワクしながらやらせてもらいました。『最後の息子』とか、吉田さんの初期の作品を2冊ほど読んだことがあったのですが、『横道世之介』はちょっと違う印象があったんです。分厚い本なんですよね。面白かったけど、これぜんぶは映画にできないだろうなと思って、前田と相談しました。世之介の12ヶ月の物語で、120分の映画なら単純に1ヶ月10分かぁ、どうしようねぇと。前田が書いた脚本は原作のいいところを拾って構成もしっかりしていて、セリフは小説の言葉を話し言葉として書き直してくれていたので、すごく助かりました。前田の脚本を生かしつつ仕上げていった感じですが、ロケハンをしたりしていると、脚本通りにいかないことも山ほど出てきますよね。撮れない場合にどうするか。例えば、台本では「1987年の下北沢駅前」とあったとしても、さぁ、それをどう撮るんだ? と。再現にこだわり過ぎず、当時を知っている人が観て懐かしいという、それだけにならないようにと心掛けながら作っていきました。

 

時代の再現は大変そうですよね。

 

僕は当時小学校5年生くらいなんで、正直わからないんです。いちおう資料は見て僕なりのイメージをスタッフに伝えましたけど、時代ものが得意な人に聞いたりしつつやっていきました。ロケハンのときから、美術の安宅紀史さんがここはこういう感じでどう? と提案してくれて。時代性のある喫茶店がなかなか見つからなくて、内装から作ってくれたんです。今回はほんと、周りの人に助けてもらいました。

 

世之介を演じた高良さんの髪型がユニークでした。

 

ヘアーメイクの田中マリ子さんがパーマを提案してくださったんです。僕は普通のストレートをイメージしてたんですけど、それってけっきょく原作本の扉絵の印象が強いんだと思うんです。そんな面白くないこと考えてちゃしょうがないなと自分で思って、田中さんが「にぶくしよう」って言うので、映画ならではの世之介を作っていったほうがずっと面白いやと、途中からイメージを改めました。どんどん髪が伸びてきて、最後のほうとか、かなりもっさりしてましたけどね(笑)。

 

女性たちの髪型やメイクも、ああいうの流行ってたなぁと思いました。

 

この時代のことをやり過ぎると恥ずかしいことになると言われてたんです。でも、前髪をくるんとカールした人が通り過ぎるカットをわざわざ撮ったりして。いざやってみると面白くなっちゃって、止まらなかった(笑)。

 

沖田修一『横道世之介』 | REALTOKYO
(c)2013『横道世之介』製作委員会

「沖田組だったら参加したい」

カメラマンは近藤龍人さんですが、雪のキスシーンが美しく撮れてましたね。世之介と祥子が「名前で呼び合おう」と言う病院の廊下のシーンも、奥の窓からパーッと真っ白い光が差し込んできて印象的でした。

 

キスシーンは、本当は世之介が部屋を出てくるところから撮りたいと思っていたんですけど、どうしてもできないということになり、だったら出てきてからクレーンで一気に撮ってやろうと。なるべく雪を見た印象のまま、流れで見せたいと、近藤さんが見たこともないデカいクレーンを持ってきてくれて。あれはスゴかった(笑)。今回はいろいろ迷ったんですよね。世之介のアパートも、本当はああいう部屋って、2つ、3つある部屋を1つの部屋として見立てて撮るんですけど、ちゃんとひとりの部屋をロケセットで撮りたいと思ったら、すごく狭くなっちゃって。そこから世之介が外に出てキスシーンまでというのがもうムリ。小窓しか空いてなくて、カメラマンが2人でその窓を通してカメラを受け渡して……なんてことも考えたんですけど。いろんな場面で、今回はほんとにスタッフに助けられました。

 

沖田修一『横道世之介』 | REALTOKYO
撮影現場で演出中の沖田監督 (c)2013『横道世之介』製作委員会

高良さんとは『青梅街道精進旅行』『南極料理人』『キツツキと雨』、そして『横道世之介』がもう4作目になるんですね。

 

プライベートで食事をしたりすることもなく、ある程度の距離を保ちながら、撮影の度に会うと、いろんな現場をたくさん経験した高良くんが新鮮な気持ちで臨んでくれるので、僕も新鮮な気持ちでやるという、その繰り返しです。3回一緒にやって主演作がなかったので、いつかやれたらいいなと思ってたんです。そして、この話があって吉田さんの原作を読んでる途中から「これは高良くんかなぁ」とうっすら思っていました。

 

高良さんを始め、スタッフの方々も「沖田組だったら参加したい」という人が多いと聞いています。沖田監督は、『キツツキと雨』で小栗旬さんが演じた感じの監督ではないんですよね(笑)?

 

もう少しちゃんとしてますよ。いや、ちょっとだけ、ああいう感じもありますけど(笑)。

 

沖田監督の作品は作家性と大衆性のバランスが魅力的ですね。やっぱりアカデミー賞を目指してますか?

 

目指してないです(笑)。可能性がゼロではないけど……、『おくりびと』に続けって。映画はサブカルじゃないほうがいいなと僕は思うんです。そういうこともいろいろ考えながら作ってますが、大衆向けに作ろうと思っても面白いものができるわけじゃないし、自分が面白いと思うものを作れば、みんなもそう思ってくれるだろうと言い訳をしながら(笑)。でも、やっぱり自分がいちばん面白いなと思うかどうかですね。ちゃんと面白ければ、誰が観ても面白いだろうと。いつもそうありたいと思います。

 

ところで、前田さんはもうご覧になったんですよね?

 

いやー、それがまだ観てないんですよ。観たくないって言ってました。僕も五反田団を最近あんまり観てないし、お互いそういう感じになってるんですよね。映画が公開されたら2人で観に行こうかな(笑)。

 

沖田修一『横道世之介』 | REALTOKYO
(c)2013『横道世之介』製作委員会

(このインタビューは2013年1月23日に行われました。)

 

プロフィール

おきた・しゅういち/1977年、埼玉県出身。日本大学芸術学部映画学科卒業。短編『鍋と友達』(2002年)が第7回水戸短編映像祭にてグランプリを受賞。初の長編作品『このすばらしきせかい』(06年)を監督。TVドラマの脚本・演出を経て、監督・脚本を手掛けた『南極料理人』(09年)で商業映画デビューを果たす。同作では第29回藤本賞新人賞、新藤兼人賞金賞ほか日本シアタースタッフ映画祭監督賞を受賞するなど監督としても高い評価を得た。『キツツキと雨』(12年)では、東京国際映画祭で審査員特別賞、ドバイ国際映画祭で最優秀男優賞(役所広司)、最優秀脚本賞、最優秀編集賞を受賞。第4回TAMA映画賞では、最優秀新進監督賞を受賞している。

インフォメーション

横道世之介

2月23日(土)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー

配給:ショウゲート

公式サイト:http://yonosuke-movie.com/

寄稿家プロフィール

まつまる・あきこ/1996年から2005年までP3 art and environmentに在籍した後、出版社勤務を経てフリーの編集者に。P3在職中にREALTOKYO創設に携わり、副編集長を務める。2014年夏から長岡市在住。