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Interview

074:豊田利晃さん(『I'M FLASH!』監督・脚本)
聞き手:福嶋真砂代
Date: August 30, 2012
豊田利晃さん | REALTOKYO

独特の間合い、笑いと狂気。硬質でいながら柔らかい、少年のような純粋さが貫かれる世界観でファンの心を掴んできた豊田利晃監督。新作『I'M FLASH!』は、灼熱の沖縄ロケ、ハードな撮影状況の中で撮った渾身の作。故原田芳雄を慕って集まった仲間、豊田組初参加となる藤原竜也と水原希子という新たな才能が加わり、この世、この時代に鬱積する恐れや不安を一瞬にして霧散させるエネルギーを爆発させた。役者の本質を残酷なほどに掴み取り、魅力を最大限に引き出す豊田流演出力、その秘密を過去作品に遡って聞くことができた。死生観、宗教観など、興味深い話は尽きない。

断ち切って次に行こうぜ……

実は『モンスターズクラブ』のときにもお話を聞きたいと思っていたんですが……。

 

『モンスターズクラブ』のほうがしゃべりやすかったかも。あれには神とか出てこないし。神がどうのこうのとか訊かれても、けっこうしゃべりづらい(笑)。明後日から『モンスターズクラブ』がアジア映画祭で上映されるのでニューヨークに行くんです。

 

豊田作品は、私には「痛み」を残して終わる感じがするのですが、今回はロケーションの美しさもあったのか、痛みの後に開放感がありました。

 

今回は本当にエンターテインメントを作りたかったんです。心に痛いのは『モンスターズクラブ』でやったからいいんじゃないかと。間髪置かずに『I'M FLASH!』を、同じ年に2本作ってるからね。

 

完成披露の舞台挨拶で、プロデューサーに「生きることに前向きな映画にしてくれ」っていう注文されたとおっしゃってましたよね。

 

その注文は右から左に抜けて、作るときはまったく忘れてました(笑)。だけど2011年の震災直後に映画を作るというとき、後ろ向きな映画は作れないですよ。

 

のしかかる死の色というのは異常に濃かったです。

 

たぶん僕だけじゃなくて、2011年に生きてる人というのはそうだと思います。震災で何万人も亡くなっているというのもあるし、個人的にも(原田)芳雄さんや知り合いの編集者、寿司屋の大将が亡くなったり。全員闘病中に定期的に会ったりしていた人たちで、普通なら、僕みたいな性格の人間は特に引きずられるんですね。でも、引きずられたくない、断ち切って次に行こうぜ、というふうに、気分的にはなってました。

 

撮り終えたいまは、断ち切れてますか。

 

引きずられるという感覚がまったくなくなりましたね。これからも、もうなくなるんじゃないですかね。不思議なもんです。

 

豊田利晃『I'M FLASH!』 | REALTOKYO
(C) 2012「I'M FLASH!」製作委員会

豊田利晃×俳優たち

『青い春』『ナイン・ソウルズ』を改めて観ると、あのときの出演者たちはいま活躍している人ばかりですね。豊田監督の、なんというか、見抜く力は改めて凄いなと。その人の持つ本質をガッチリ出してあげたみたいな、そんな感じがしたんです。

 

その2本は又吉(直樹)くんも出てますからね。又吉くん(を見抜くの)は早かったでしょ?

 

はい。どんな経緯で又吉さんが『青い春』に?

 

吉本の芸人さんとの付き合いは、以前から千原ジュニアくんと付き合いがあって、会うといつも千原くんの後輩がついてくるんですけど、面白いんですね。又吉くんはそのチームじゃなかったんですけど。若手の可能性ある人をオーディションで呼んだときに、「こいつは行くな」と思ったのが又吉くん。ほかの人とは違ってて、自分の空気を持ってたんです。いままでのお笑い界にない空気でした。ネタも観に行って面白かった。“ピース”じゃなくて、“線香花火”のころですね。意外に人のいいヤツなんですよね。

 

やはり見抜きますね〜。(豊田作品常連の)瑛太さんにも感じるんですが、ほかの映画に出ている瑛太さんとは全然違う。監督との付き合いの濃さをとても感じて、それが『モンスターズクラブ』では最高潮になった気がしてました。

 

あれはね、ちょっと奇跡のような映画でしたよね、よくやったと思います。瑛太くんは親父の死を乗り越えて。その前に撮影してる部分もあるんだけど、どんどん映画に入っていったと思います。まだまだ瑛太は未知数だと思うんです。『モンスターズクラブ』で初めて「引き」の芝居をさせたんです。「引きの芝居のほうが、お前いいから」って、「ああやりたい、こうやりたい」っていうのをぜんぶ押さえつけたんですね。でもね、「やるな」って言っても役者はやるんですよ。それぐらいがちょうどいいと思うけど。とにかくその「引き」の芝居をいま瑛太は使ってるんじゃないですか、CMとかでも。彼自身がやったことだったら喜ばしいことです。幅が広がったんだと思います。

 

今回初めての永山絢斗さんはどうでしたか。

 

そんなにたくさんシーンは無かったんですけど、物怖じしなくて自然体で独特のリズムを持ってますね。これからガンガン行くと思いますよ。お兄さんとははまた全然違うと思います。

 

水原希子さんはどんな俳優さんですか?

 

すばらしい。あんなに綺麗な子はいないと思います。芝居の訓練を受けてない、ナチュラルなタイプなので、竜也とちょうどいいかなと思ったんです。逆に竜也が引きずられて、竜也がナチュラルな演技し出して。彼女の場合、リハーサルがリハーサルにならないんですよ、本番とまったく違うので。竜也がいちばんビビってましたけど、それがよかった。いきなり泣き出すシーンがあるでしょ? 僕も希子ちゃんに「思い切りやってみろ」って言ったんですけど。あの芝居は2日目くらいでしたけど、そこで藤原竜也は「やられた!」とびっくりしたと思うんですよ。それまではけっこう明るかった彼が、そこでガツンときたみたいで、ヤバいと思ったんでしょう。でも、この前舞台を観たら、また(芝居が)戻ってましたけど(笑)。

 

新野役の松田龍平さんも豊田さんと長い付き合いですね。初めて会ったころから、変わった部分はありますか。

 

僕の中ではそんなに変わらないですね、『青い春』のころから。彼はああ見えて昔から作品にかける気持ちはあって、でも昔は言葉足らずだったり恥ずかしがったりして、「かけてます」って言ったりしなかったけど、いまはそれを恥ずかしがらずに表現してきますね。「こうやりたい、ああやりたい、それやりたくない」とか。さすが龍平もオトナになったなって感じですね。

 

豊田利晃『I'M FLASH!』 | REALTOKYO
(C) 2012「I'M FLASH!」製作委員会

豊田利晃×藤原竜也

そんな龍平さんと藤原(竜也)さんが今回は共演でした。個人的には、豊田監督と藤原さんという取り合わせがちょっと驚きでした。もちろん仲がいいというのは漏れ聞いてましたが……。

 

竜也には、実は『空中庭園』にワンシーン出ないかと言ったことがあって、ある理由で一度断られたことがあるんです。出ると「CMに出られなくなる」とか、なんとか。

 

いまそれができるようになったということは、何かが変わったとか?

 

いや、そんなことはなくて、竜也の周りにも協力的に僕を応援してくれてる人もいるし、竜也の気持ちをわかってる人もいて、そういう人たちがいろいろ工作してくれて強引にやらさせてくれた映画なんです。それは本当に感謝してます。やりたいようにやれました。

 

舞台経験の多い藤原さんとの初めての映画作りはどうだったんですか。

 

舞台というのは千人の前とかでやる芝居だけど、映画は暗闇のなかで1対1でやる芝居だから。その舞台の癖みたいなものが出ると、ちょっと台無しになっちゃうというか。いままでの藤原くんの映画を観てるとそれがあって、それを止めたいな、止めたらもっとよくなるのに、と思ってたんです。今回の藤原竜也はすごくいいと思うんです。だから、僕自身はがんばったと思う。もちろん藤原竜也自身が持ってるものはすばらしいので、そのすばらしいものが演劇芝居に封じられてたのが彼にも見えてきたからね。

 

見るからに薄っぺらい「教祖」という役の中に藤原さんがハマっていくのがすごく面白くて、俳優の本性を掴むのが長けてるとお見受けする豊田さんが、その役を藤原さんに演じさせたという真意は?

 

教祖みたいな役というのは、あまり人間性が出ると某団体みたいになっちゃうけど、もうちょっと生と死の寓話みたいなものを描くときに、藤原竜也がやればそれができるかなと思ったんです。もちろん彼は天性の役者です。10代から芝居をやって蜷川さんに鍛えられてきて、虚構を演じるのに長けてます。その部分と、そうじゃない部分を引き出すというか。だからテレビの中で説法する場面は、「蜷川幸雄みたいにやって」って言いました。それは本当にうまかったですね。

 

もっと一緒に映画をやりたいですか。

 

今回は本当に2週間ちょっとの撮影で時間がなくて、台風のど真ん中の灼熱の沖縄で、ほとんど寝ないで、仮眠だけで突っ走ったんです。藤原くんも、“舞台芝居”をトルだけでタイムアウトなんですよ。もっといろいろやりたかったのにできなくて。今度は“舞台芝居”をとって現場に来てもらって、もっと面白いことやりたいです、ふたりで。それは思います。

 

プロデューサーの日記からも、本当に厳しい撮影状況が窺えます。それぞれのシーンの危険度も高くて、凄いとしか言えない感じですが、こういうのは普通なんですか。

 

あり得ないです。もうボロボロでしたね。撮影中はテンションが高いからもつんですけど、編集と音楽録りが終わった瞬間に倒れました。下北沢の駅で1時間うずくまって、そこから病院に。逆流性食道炎みたいな感じで体重が10kg落ちました。『モンスターズクラブ』も過酷でしたしね。いままではけっこう撮影中に倒れてたんですけど、最近は撮影終わりに倒れるパターンになってきました(笑)。撮影期間が短くなってるのもあるんですけど。

 

そういうのもきっと映画のヒリヒリ感になって出るんですね……。ところで鮎川誠さんの楽曲の「I'M FLASH!」からこの映画は始まったということで、鮎川さんとのおつきあいは?

 

ないです。鮎川さんは曲を聴いて「かっこいい」って言ってくれたらしくて、よかったと。怒られるかなと思ってたけど(笑)。

 

鮎川さんは映画は観られたんでしょうか。

 

映画はどうですかね。観てないんじゃないですか?

 

豊田利晃『I'M FLASH!』 | REALTOKYO
(C) 2012「I'M FLASH!」製作委員会

死生観、クリシュナムルティ、革命家

原田芳雄さんは観てくれてますよね、きっと。

 

あ、神様信じてますね(笑)?

 

あ〜、そうですね……。監督の死生観は?

 

死んだら終わりですよ、誰にもわからないけど。自分が死んだら地球も滅亡してほしい。

 

よく地球滅亡とか言って怖がりますけど、自分が死んだときに滅亡だと思えば、滅亡の日を怖がる必要はないのではと思うんですけど。

 

そう、それが「ヘヴンズゲート」って、アメリカのカルト宗教団体がヘールボップ彗星が地球に衝突するから集団自殺したという事件でしたね。でもそのヘールボップ彗星は間違いだったんです。そんなのなかった。捏造だったんです。あれは時代的なものがあって、情報が流通してなくてそういうことが起ったってのもありますね。

 

ただ情報が発達しても、信じられるものがなくなっているこんな時代には、影響力の強い人になびくという傾向が強いのではと思うんですが。そんな愚かな人間の性(さが)を考えていくと、だんだん闇の中に自分が入り込むような気がしてくるんですが、そんなときに豊田作品を強烈に観たくなるんです。

 

そんな闇に入ったら、『I'M FLASH!』を観て下さい。

 

たとえば映画のあの“死”は、前向きな死ですか? 次につながる死なんでしょうか。

 

まあ、「ロミオとジュリエット」みたいなもんじゃない? ジュリエットが死んじゃってロミオが後を追うみたいな。ジュリエットが目が覚めて、もう1回死んだりしないかもしれないですけど(笑)。

 

インスパイアされたというクリシュナムルティという人のことは?

 

前から好きだったんですけど、面白いですよ。すべての宗教をひとつにまとめようとしていた、知的な「星の教団」というのを作った人で、10代で教祖になって、20代で解散させた。それって下手すると殺されるくらい凄いことです。教団を辞めてカリフォルニアへ行き、いろんなところで独りでQ&Aをやるんですね。「神様を信じますか」とか、「ドラッグをどう思いますか」とかいろんな質問に答えている記録が残ってるんです。その答が相当イケててカッコいい。彼は宗教家というよりむしろ、神や宗教を信じるな、自分を信じろと、延々……、70年代の若者たちのいろんな悩みに答えていくんです。超美少年で、若い頃はちょっと竜也みたい。年取ってからの映像はおばちゃんみたい、おじさんじゃなくて(笑)。竜也にもクリシュナムルティの本渡したんだけど、読んでるかどうか。たぶん読んでないだろうな。言葉が凄いんですよ、彼は。宗教家は面白いですよ。

 

宗教家って何をしたいんでしょうか。世界を救えるのでしょうか……。

 

人の心の悩みの解放でしょうね。いい人とか悪い人とかの次元が人間にはあるのか、というところから始まる。悩みとは何なのかって。真の宗教家はスピリチュアルとかとは一切関係ない。前世とか来世も関係ない。インド仏教界の頂点に立った佐々井秀嶺という日本人がいるんです。彼は革命家です、78歳の。この間来日したので会いに行って3時間くらいかけてインタビューやりましたけど、真の宗教家は輪廻転生とか一切言わない。現実に生きること、いまをどう生きるかということを延々言ってました。宗教って「人」ですよ。宗教団体には全然興味ないんですけど、宗教家は面白い。

 

だからといって入信しようとは?

 

思わないですよ。お金が発生するのはなんとなく胡散臭いとは思います。佐々井さんはどんな人でも受け入れる。インドはヒンズー教があるからカーストがあるんです。アウトカーストは差別されるけど、仏教に入れば関係なくなる。一億何千人のインド人を解放しようとしている。これが革命です。ダライ・ラマよりも、ガンジーよりももっとハード・コア。ガンジーはカーストを認めたんです。もっと日本の人たちに佐々井さんのことを知ってほしいです。

 

日本人ですよね、インドでなにか特殊な使命があるんですかね。

 

話を聞いてると国定忠次が好きだったり、『大菩薩峠』が好きだったり、わかりやすい善悪のヒーローや講談や浪曲が好きで、そういうヒロイズムに乗っ取ってます。義理人情の世界ですね。差別されてる人がいたら助けてあげたいと思うのは人間として当然だろうと考えてる。いろいろ不思議なことがあってインドに行っちゃった、ただ者じゃない。とても現実的な人です。『I’M FLASH!』の吉野ルイみたいに。

 

(※このインタビューは2012年7月8日に行われました。)

 

豊田利晃『I'M FLASH!』 | REALTOKYO
(C) 2012「I'M FLASH!」製作委員会

プロフィール

とよだ・としあき/1969年、大阪府出身。9歳から17歳まで新進棋士奨励会に所属。そのときの体験を元に阪本順治監督の『王手』(91)で脚本家として映画界デビュー。千原浩史主演の『ポルノスター』(98)で鮮烈な監督デビューを果たし、日本映画監督協会新人賞を獲得。3人の格闘家たちを追った長篇ドキュメンタリー『アンチェイン』(01)も、第25回トロント国際映画祭、第19回バンクーバー国際映画祭、第25回香港国際映画祭など世界各国の映画祭へ。松本大洋の人気コミック『青い春』(01)を映画化。松田龍平、新井浩文を主演に迎え、若い世代から絶大なる支持を獲得した。第31回ロッテルダム国際映画祭、第6回釜山国際映画祭コンペティション部門へ出品される。続く『ナイン・ソウルズ』(03)でも松田龍平を主演に迎え、9人の脱獄囚たちを描き、『ポルノスター』『青い春』と続いて青春3部作と言われる。直木賞作家角田光代の原作で、小泉今日子を主演に迎えた『空中庭園』(05)も、サンフランシスコ・インディペンデント映画祭、フィラデルフィア映画祭、トライベッカ映画祭に出品される。06年にはアテネ国際映画祭で全作品がレトロスペクティブ上映されるなど、国内のみならず世界各国から高い評価を受けている。『蘇りの血』(09)に続き、『モンスターズクラブ』(11)、『I'M FLASH!』(12)を制作した。

インフォメーション

I'M FLASH!

9月1日(土)よりテアトル新宿、ユーロスペースほか全国ロードショー

公式サイト:http://www.imflash-movie.com/

寄稿家プロフィール

ふくしま・まさよ/航空会社勤務の後、『ほぼ日刊イトイ新聞』の『ご近所のOLさんは、先端に腰掛けていた。』コラム執筆。桑沢デザイン塾「映画のミクロ、マクロ、ミライ」コーディネーター。産業技術総合研究所IT科学者インタビューシリーズ『よこがお』など。