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Interview

069:松林要樹さん(『相馬看花 —第一部 奪われた土地の記憶—』監督)
聞き手:松丸亜希子
Date: May 21, 2012
松林要樹さん | REALTOKYO

2011年4月3日、福島第一原子力発電所の20キロ圏内にまたがる南相馬市に入り、撮影を開始した松林要樹さん。不安に苛まれる状況下で営まれていく、非常事態における日々を撮った『相馬看花 —第一部 奪われた土地の記憶—』は、悲劇的だったり、または感動的だったりするドラマをフィーチャーすることなく、人々の繊細に揺らぐ気持ちを丁寧に掬い、ありのままの素顔を映し出す。いまも福島と東京を往来して撮影を継続中という監督に話を聞いた。

『相馬看花 —第一部 奪われた土地の記憶—』を観る前に、森達也さん、綿井健陽さん、安岡卓治さんと共同監督された『311』を観ました。どちらも被災地を撮っていますが、2つの作品はまったく異質ですね。

 

運転手が必要なので一緒に行きませんかと綿井さんから声が掛かって、地震発生の15日後に4人で東北に行ったのですが、けっきょく安岡さんがドライバーをやってくれたので、僕は風景ばかり撮っていました。編集は安岡さんが担当して、4人で観て納得して完成させましたが、僕が編集したらあと15分くらい切ってもいいかなとも思ったし、ここは違うふうに編集するなと思う部分もあったし、『311』は4人の共同監督作品なので、必ずしも僕が作りたいものにはなっていないと思います。上映会場で怒号が飛んだりもしたのですが、それを聞いて僕は逆に安心したというか。『311』が面白いと言う人がいたら、「大丈夫かな、この人は?」って思ったかもしれません(笑)。何が言いたいのかわからないということもよく言われましたが、確かに観る人をもやもやさせる作品ですよね。テーマに落とし込まないのも作品の意図だと思います。

僕としては、『311』に声が掛かる前から福島には必ず行かなくてはと思っていたので、そちらの撮影終了後、東京に戻って洗濯物などを片付けて、また翌日に福島に行ったんです。アフガニスタンなどで活動している「ペシャワール会」というNGOが福岡にあって、南相馬に物がないらしいから救援物資を届けようということで、その会の元ワーカーの友人と一緒に行きました。ドキュメンタリー作家であれば、やはりみんな福島に行きたいと思ったでしょうね。『311』のほうでも当初は目視という名目でしたが、行ったら撮りたいし、撮ったら見せたいし、映像作家はみんなそうだと思います。

 

松林要樹『相馬看花 —第一部 奪われた土地の記憶—』 | REALTOKYO
(C) 松林要樹

悲劇を笑いに転換する力

そして、南相馬で市議会議員の田中京子さんと出会ったんですね。

 

物資を持っていくに当たって、受け入れ先が市民運動をやっているおじさんたちの拠点だったのですが、公的な立場の人が1人必要ということで、田中さんが立ち会ってくれました。たまたまそこで知り合った田中さんに付いていき、いろいろ見せてもらう中で、継続的に取材をしてもいいですよと言ってくれたんです。僕が現地に入った4月3日の時点ではまだ記者クラブ所属の記者が来ていませんから、大手マスコミに対してはみなさん失望していました。キー局などは現場に行かず、電話取材でしたし、「○○新聞の□□です」と言っても本人が来ないで、「□□の使いの△△です」というような代理の人が来たりとか。そのとき現地取材に来ていたのは、『311』を撮ったときに会った顔見知りの人とか、フリーの人ばかりでした。そういう状況だったので、田中さんや南相馬の人たちは、1人で来てくれているんだ、やっと来てくれたんだというような気持ちが僕に対してあったんじゃないでしょうか。現場に来て取材してくれるんだったらと、それで信用してくれたのだと思います。

 

松林要樹『相馬看花 —第一部 奪われた土地の記憶—』 | REALTOKYO
(C) 松林要樹

田中さんから、こういうふうに撮ってとか、こういう部分は撮らないでといったリクエストはあったのでしょうか。人としての田中さんがよく撮れていたと思いました。一時帰宅したときに、だんなさんに怒っているシーンとか……。

 

特にリクエストはなかったです。議員だから私を映さないでって言われるかと思いましたが、そういうこともほとんどなく。だけど、昨年の山形国際ドキュメンタリー映画祭の上映でみなさんに観てもらったとき、「あれだけはやめてくださいよ。お父さんとケンカしているところは切ってもらえないですか?」って、田中さんに言われたんです(笑)。でも、「これを入れないと映画にならないです。ここはとても大事なシーンですから」と言って説得しました。そうしたら、「ああ、そうですかー」って折れてくれて。本当はいまでもイヤかもしれませんけど(笑)。

 

信頼関係の成せる業ですね。たいへんな状況なのに南相馬のみなさんが明るくてユーモアがあって。お酒好きな粂さんとか、いいキャラクターですね。

 

これは面白いな、映画に使えるなと思いながら撮っていましたが、おそらく田中さんの夫婦ゲンカもお酒好きな粂さんも、そういうシーンはテレビなどでは使わないでしょうね。でも、僕はそういう部分を大切にして編集しました。この人たちのユーモア、悲劇を笑いに転換する能力はすごいなと思います。

 

松林要樹『相馬看花 —第一部 奪われた土地の記憶—』 | REALTOKYO
(C) 松林要樹

なんとなく気持ちが伝わればいい

起こっている出来事は悲劇的ではありますが、あえてドラマチックにしない慎み深さを感じました。

 

大手マスコミの人たちはなんでも美談にするじゃないですか。例えば本編のエピソードで、「孫の宝ものを取りに帰った」とか。僕は漠然と、美談にしなくてもいいのかなと思ったんです。じゃあ、何が見せたいの? と言われてしまうと、困ってしまう部分もありますが。「公益性のある」記者クラブ所属の記者以外は取材お断りという、原子力安全・保安院との電話のシーンがありますが、確かに彼らにとっての公益性は僕らフリーの記者にはない。そういう美談を作る記者たちが彼らにとって公益性があるということなのでしょう。だから、どんどん僕らを拒絶して下さいという感じです。第二部でも、そういうお役所的な発想での回答に何度も接しているので、たくさん撮っています。

 

音楽やナレーションなども使わず、見せ方がシンプルですね。

 

お金がなかったということもあるけど、あまり好きじゃないんですよ。お金がたくさんあればもうちょっとお化粧して、女優さんのナレーション、エンドクレジットには大物ミュージシャンの書き下ろしの音楽、それから……(笑)。

地元の人たちは、テレビのドキュメンタリーしか観たことがないから、「なんだ、黒いところに白い字で読みにくいなー」とか、「女優さんに読ませっと、ぜんぜん印象が違うのになー」「音楽もないんだべ。これ、映画でねーなー」とか、おっしゃってました(笑)。

 

そんな南相馬の方言にも字幕がありませんが、あえて付けなかったのでしょうか。

 

僕も現地の人たちの話を聞いて7割くらいしか理解できませんでしたし、東京で電気を湯水のように使っていた僕が相馬弁に標準語の字幕を付けるのは、なんだか失礼なような気持ちにもなりました。言葉が理解できるかどうかよりも、土地の空気を感じて、人々の表情を見て、想像してもらえればと。なんとなく気持ちが伝わればいいんだと思います。

 

松林要樹『相馬看花 —第一部 奪われた土地の記憶—』 | REALTOKYO
(C) 松林要樹

いまもまだ福島での撮影を継続されているそうですね。

 

この作品が第一部、いまは第二部を撮影中で、東京と福島を行ったり来たりする生活が続いています。第二部は相馬のシンボルである馬がメイン。20キロ圏内にいた馬たちを撮っていて、面白い作品になりそうです。馬を擬人化して、視線、行動とか、そういうもので馬が何を考えているのか想像させようとしていて。馬って、楽しいとかうれしいとか、体全体で表現するんですよ。そういうことがすごくよくわかる生き物です。馬たちは北海道に避難させているのですが、7月の「相馬野馬追」に合わせて帰ってくるんです。それを撮って第二部の撮影は終われたらいいなと、そこで完結させたいと思っています。南相馬では、田中さんにもいつも挨拶に行って。このあいだ20キロ圏内の警戒区域が解除になったので、田中さんも家に帰れるようになり、おじいちゃんとおばあちゃんを連れて掃除に行ったりしているようです。

 

『相馬看花』の第二部が完成した後のご予定はありますか。

 

八丈島のゴミの最終処分場が今年10月に完成する予定なのですが、工事反対運動の様子を4年前から撮っています。まだどうなるか具体的にはわかりませんが、継続して追ってきたいと思っています。南相馬には、すべて撮り終わってもきっとまた行くでしょう。終わったら、カメラを持たずに遊びに行ってみたいですね。

 

松林要樹『相馬看花 —第一部 奪われた土地の記憶—』 | REALTOKYO
(C) 松林要樹

(※このインタビューは2012年5月1日に行われました。)

 

プロフィール

まつばやし・ようじゅ/1979年、福岡県生まれ。福岡大学中退後、経文みたいなものを求めて天竺めがけて一人旅。日本映画学校(現・日本映画大学)に入学し、原一男、安岡卓治が担任するゼミに参加。卒業後、東京の三畳一間とバンコクの安宿を拠点にアジア各地の映像取材をして糊口をしのぐ。2009年に、戦後、タイ、ビルマ国境付近に残った未帰還兵を追ったドキュメンタリー映画『花と兵隊』を発表。第一回田原総一朗ノンフィクション賞・奨励賞を受賞。2011年、森達也、綿井健陽、安岡卓治とともにドキュメンタリー映画『311』を共同監督。著書に「ぼくと『未帰還兵』との2年8カ月」(同時代社)、共著に「311を撮る」(岩波書店)。

インフォメーション

相馬看花 —第一部 奪われた土地の記憶—

5月26日(土)よりオーディトリウム渋谷にて公開、ほか全国順次

公式サイト:http://somakanka.com/

寄稿家プロフィール

まつまる・あきこ/1996年から2005年までP3 art and environmentに在籍した後、出版社勤務を経てフリーの編集者に。P3在職中にREALTOKYO創設に携わり、副編集長を務める。2014年夏から長岡市在住。