COLUMN

interview
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Interview

050:大友良英さん(音楽家/「プロジェクトFUKUSHIMA!」代表の1人)
聞き手:小崎哲哉
Date: October 26, 2011
大友良英さん | REALTOKYO
大友良英さん

8/15に開催されたフェスティバルの翌日、「プロジェクトFUKUSHIMA!」実行委員会代表の1人、大友良英さんに話を聞いた。数十人の音楽家と百人を超えるスタッフがノーギャラで、交通費さえも自腹を切って参加した無料フェスには、福島県内外から13,000人の聴衆が集まった。「ありのままの福島を見つめることから始めたい」という主催者は、第1回の結果をどのように受け止め、今後はどのように展開しようと考えているのだろうか。

お疲れ様でした。フェスティバルを終えての感想を聞かせて下さい。

 

フェスティバルは終わったけれど、これでやっと始まったっていう感じですね。これまでは震災に対して受身だったのが、4ヶ月間準備していく中で、自分たちが何をやっていくのかが見えてきた。個人的には、木村真三先生との出会いが大きくて、先生に背中を押される形で、単におびえてるだけじゃなくて、積極的に何かをしていくべきなんだとわかったんです。

風呂敷が敷かれたときは、本当にこれだけでも大成功って思ったんですけど、その後も素晴らしかった。みんながお金を取らずに駆け付けてくれて、ど素人の手でみんなで作ったフェスティバルでした。その意味では上出来だったと思うし満足です。福島は気象が不安定なんで多少の夕立は覚悟していたんですよ。実際に夕立が降るとみんなが固まって、軒下やテントの中で音楽が始まったでしょ。会話も生まれたりして、あのときには「雨も悪くないな」って思いました。そのときに、ぼくらは放射能の雨宿りをしてるような状態なんだなって思ったんです。その時間に、ポジティブな何かが生まれるといいなって。

 

フェスティバル翌日の撤収作業。全国から寄せられた布で作った「大風呂敷」の上での記念写真 | REALTOKYO
フェスティバル翌日の撤収作業。全国から寄せられた布で作った「大風呂敷」の上での記念写真

無料フェスということで、気になるのは収支ですが……。

 

今日これから計算するんですが、たぶんトントンになるでしょう。赤字になったとしても何とかなりそう。その場合には、オレと(遠藤)ミチロウさんが負うことになると思う。

 

県と市などから助成金も獲得できたそうですね。

 

県と市、それに「文化・芸術による福武地域振興財団」からは2年分いただきました。これはすごく大きい。「今後も続けろ」という意味だと受け止めています(笑)。ほかに、企業メセナ協議会のGBファンド(東日本大震災 芸術・文化による復興支援ファンド)もあって、これらに個人のカンパを加えて総額1,000万円強。ほとんどのお金は地元の企業に行きます。でも、この規模のフェスをやるなら通常はこれではまったく無理ですね。

 

となると、来年以降が心配になります。ほぼ全員が手弁当で続けるというのもたいへんだろうし、もっと健全な枠組が必要では?

 

それはそのとおりだと思います。参加した人たちは「これからもフリーフェスをやってくれ、自分たちはタダでやるから」と言ってくれてて、それは本当にうれしい話だけど、でも考えちゃいます。お金の問題をきちんとしないと、いちばん深く関わっている人たちが疲れ果てちゃう、オレもね(笑)。自分自身も、この間は働けないから。とはいえ、これはちょっと悩むところで、やってみてわかったけれど、フリーフェスの良さも確かにあるんですね。  僕自身は、もう少しこぢんまりとした、2,000人くらいの規模がいいかなと思っています。今年のはその規模をはるかに超えていたわけで、もっと身の丈に合ったものにしたかった。でも、それだと許してもらえなかったかも。

 

逆に、もっと大規模のものにするという話はないんですか。

 

そういう意見もあります。もっと一般のおじいさんやおばあさんにまで広げて、という人もいて、別に喧嘩してるわけではありませんが意見は割れています。僕は、自分たちの志向を曲げずにやっていくほうがいいという意見ですね。一部のコアなファンだけを対象とするつもりもないけれど、万人に受けるものを作れと言われても作れない。自分たちのキャパを超える内容になったら僕らがやることではないでしょう。

 

「風呂敷」には「プロジェクトFUKUSHIMA!」のマークも | REALTOKYO
「風呂敷」には「プロジェクトFUKUSHIMA!」のマークも

大友さん色を前面に出すことはないんでしょうか。

 

仮に僕が中心となってやるなら、その場合には大友色を出してもいいかもしれません。そのほうが説得力を持つと思う。でも1人でやってるわけじゃないですから、どうなるかはこれから皆で話し合います。でも、個人的には、いま興味があるのは、梅田(哲也)君たちがやっている、美術か音楽かどっちかわからないような謎の領域なんですが(笑)、いつか、できたらそんなのばっかの謎なフェスがやりたいですね。今回の「大風呂敷」は1日だけで撤収しちゃいましたが、フェスの期間を1週間くらいにして、インスタレーションの中でときどきライブをやるとか。フリーでやるなら、そういうのも考えどころですね。

今回、福島でこういうことをやることになって、山口や水戸で『ENSEMBLES』展をやって来たことが役立っているんですよ。そのまんま応用できる。東京でゲリラ的にやって来たこともそうで、いままでのそんな経験が本当に活かせた感じです。

 

昨日の来場者は、県内・県外の両方から来ていたようですね。

 

実際に手を挙げてもらったら半々くらいだったでしょ。悪くないなと思います。前から言っていることだけれど、これは県内向け、これは県外向けと分けるんじゃなくて、同じメッセージを出せばいいと思う。どっちかにしか通じないのではない言葉や方法を探していくのが重要ですね。原発事故はもはや福島だけの問題ではないですから。全国の人々にとっても大きな問題です。

ただ今回は共通のメッセージを出すのではなく、あえて「FUKUSHIMA」をキーワードにして、そこから先は来た人たちそれぞれが考える……というスタンスをとりました。実は木村先生が「『原子力に頼らない社会を作ろう』というメッセージを出せば?」と提案してくれたんです。僕はその考え方に100%賛同しますが、最終的には、そうした具体的なメッセージではなく「未来はわたしたちの手で」という抽象的なものにしました。

いま福島でなにかをやれば必ず原発の話になります。そこからいきなり具体的な方向を出すのではなく、まずは問いの出発点を明確にして抽象的だけど明確なメッセージを出す。僕らが選んだのはそうした方向でした。起きてしまった被害をどう解釈し、さらなる被害をどうやって防ぐか。そこから先はみんなで考える。反応は様々、賛否も出るでしょうが、そうした温度差の現実を見ていくことこそが重要です。

 

フェスティバルの翌日に開かれた記者会見。左より、木村真三、坂本龍一、大友良英、和合亮一、遠藤ミチロウの各氏 | REALTOKYO
フェスティバルの翌日に開かれた記者会見。左より、木村真三、坂本龍一、大友良英、和合亮一、遠藤ミチロウの各氏

「プロジェクトFUKUSHIMA!」 のフェスティバル以外の展開はどうなりますか。

 

この先もお祭りは何らかの形でやっていきます。こんなひどい状況の中で生きて行くためには、考え、行動するための心の体力がなければ。そのためにお祭りは本当に必要なんだって切実に思いましたから。それと並行して、木村先生が始めた「市民科学者養成講座」や「子供放射線講座」、和合さんの「詩の学校」や、オレがやっている「音楽の学校」、そしてDOMMUNE FUKUSHIMA!やラジオを通じての発信など、地道な活動を続けていくつもりです。基本的にはプロジェクトは当面、メディアとしての機能を担っていくことになると思います。長い戦いになるでしょうから、その先についてはいまはまだわからないですね。

個人的には、木村先生と一緒にチェルノブイリに行くつもりです。今年の頭に、健康問題もあってもうツアーをやめようと思ったんですが、諦めました。福島やチェルノブイリが戦場だとしたら、僕らは戦場と非戦場の間を動ける存在だと思う。昔の吟遊詩人じゃないけど、自分が動き、温度差の中で作品を作っていくことで、見えてくることがきっとあると思います。

 

(※大友追記:インタビューを終えた10月初旬、実際に木村先生とチェルノブイリの汚染地区ナロージチ村をまわってきました。これから民間の交流も少しずつ始まってくると思います)

 

プロフィール

おおとも・よしひで/音楽家。「プロジェクトFUKUSHIMA!」代表の1人。1959年横浜市生まれ。十代を福島市で過ごす。ONJT、Double Orchestra、幽閉者、FEN等、常に複数のバンドを率い、またFilament、カヒミ・カリィ、I.S.O.、音遊びの会、Emergency!等、数多くのバンドやプロジェクトに参加。映画、テレビドラマ、CFなど数多くの映像作品の音楽も手がける。近年は「アンサンブルズ」の名のもとに様々な人たちとのコラボレーションを行う一方、障害のある子どもたちとの音楽ワークショップや一般参加型のプロジェクトにも力を入れている。著書に『MUSICS』(岩波書店)、『大友良英のJAMJAM日記』(河出書房新社)、『ENSEMBLES』(月曜社)などがある。最新刊は『フェスティバルFUKUSHIMA!』を実現させるまでの思いと記録をまとめた『クロニクルFUKUSHIMA』(共著。青土社)

インフォメーション

「プロジェクトFUKUSHIMA!」の一環として、今月(2011年10月)末に以下のイベントが開催される。

 

10/28(金) 19:30-『シンポジウムTOKYO-FUKUSHIMA!』@武蔵野公会堂

出演:大友良英 遠藤ミチロウ 和合亮一 小川希(TERATOTERAチーフディレクター)

 

10/29(土) 21:00- LIVE!@吉祥寺バウスシアター

出演:大友良英 遠藤ミチロウ 七尾旅人

(予定枚数に達したため、予約締切)

 

公式サイト:http://teratotera.jp/event/fukushima.html

寄稿家プロフィール

おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。