COLUMN

interview
interview

Interview

047:吉田光希さん(『家族X』&『症例X』監督)
聞き手:福嶋真砂代
Date: September 22, 2011
吉田光希さん | REALTOKYO

<家族>という不思議な繋がり、現代人の果てしない孤独、誰もがどこかに抱いている感情に寄り添うようにカメラを向け、感性豊かに映画の可能性に挑む吉田光希さん。痴呆症の母と介護する息子を独自なタッチで撮った前作『症例X』がPFF(ぴあフィルムフェスティバル)アワード2008で入賞し、その後スカラシップの権利を獲得、本作『家族X』が劇場長編映画デビューとなる。数々の国際映画祭に招待され、世界の感触も確かめてきた。大学進学時、柔道か映画かという究極の選択の岐路に立ち、“力ずくで”映画を選んだという映画熱の高さ。学生時代から刺激的な映画の現場で経験を積み、繊細かつ豊かな眼差しで人間の微妙な関係の揺れを捉える。現場で大切にしていることやテーマについての裏話など、存分に語ってくれた。ちなみに『家族X』の主なロケ地は東京造形大学の隣の住宅地だそう。

海外の映画祭でも注目された

 

海外の映画祭を回ってきた感想は?

 

面白かったのは、Q&Aといっても自分の感想を言う人が多いんですね。それを聞いた別の観客が私はこう思うとか、僕はこうだとか、どんどんディスカッションになっていく。そういうのが楽しかったです。

 

印象深い質問はありましたか。

 

「即興的な要素が強いのか、それとも脚本なのか」というのと、もうひとつは撮り方で「なぜハンディを多用しているのか」ということ。そのふたつは共通してよく訊かれた質問でした。

 

それで、答えは固まってきましたか。

 

固まったというより、固めていったという感じですね。最初にベルリン国際映画祭で上映され、質問に答えながらだんだん自分で気付いていきました。

 

改めて、ハンディを多用した理由は?

 

まず、家がメインの舞台なので、撮れるカットがやっぱり決まっちゃうんですね。フィルムなので、照明とか奥行きとか、録音部が入る位置とかも限られてしまう。それもつまんないなというのもあったし、カメラマン(志田貴之さん)と話をしていく中で撮り方が決まった感じです。最初は三脚も用意して、けっこうカット割りで作る映画にするつもりだったんですけど……。南果歩さんの撮影初日にカメラマンとの間で、「これはハンディだな」って決まった感じです。

 

それは南さんが醸し出す何かだったんですか。

 

それも現場で生まれたものだと思うんですけど。どのレンズがいいとか、距離とか、カメラマンが選ぶわけです。そうやって探していくうちに、カメラマンとの間でなんかこう決まったような気がして。狭い家で、わりと自由な動きを捉えられたというのもあるし、なんとなく観る人の視線を「路子さん」から離さないことで、彼女の感情に近付けようという、そういう意識もたぶんあったと思うんです。

 

吉田光希『家族X』 | REALTOKYO
『家族X』(C)PFFパートナーズ

長回しの理由は、役者の芝居を最優先するため

 

実は長回しで撮ったものが多くて、それを短く切ってあるんです。

 

長回しも現場で決めたんですか。

 

僕は厳密な絵コンテとかを描かないので、なんとなく想定はしておくんですが、実際現場で俳優さんが動くまでわからない。カメラマンもそれをわかってくれる人なので、役者より先にカメラは入らないんです。芝居を見て、割るべきならたぶん割ったと思うんですけど。わりと長い芝居を撮ってるので、カットを割って顔の寄りとかを単独で撮ってもそんなことは全然面白くない。というか、何の意味もないことなので、だったら一連のお芝居の一回性の中で生まれるものから汲み取っていきたいなという感じはありました。

 

人物、特に南さんのヒリヒリするような感情が痛いほど入りこんできました。

 

南さんご自身も、辛いシーンが多かったので辛かったとは思うんですけどね。

 

役者さんとも、現場ではシーンごとに話し合うんですか。

 

えっと、僕はカットをかけた後に「どうですかね?」って南さんに聞きました(笑)。ほぼ全カット、他の役者さんにも聞いたと思います。

 

普通は役者さんが「監督、どうですか?」っていう心境でしょうね。

 

そうですよね。造形大学で映画を撮ってたときに役者をやった経験があって、その中で「本番!」って言われて演技するんですけど、演じながら気付くことってあるんです。でもそのままOKになることもあって、「あれ? もう1回違うのやりたかったけど……」って。そういう気持ちを役者さんの中に残したくなかったんです。カメラが回った瞬間にしか気付かないことがあるだろうし、動きの中で目線に入ってきたもので、また動きが変わったりすることがあると思うので、それを見たかったんです。

実はそれが最優先で、カメラマンともそういう了解がありました。普通の現場なら技術的なことが最優先されるんですけど、例えばピントとか、バレモノとか……、そういうことは技術スタッフも無視してくれたんです。

 

やりたいことがストレートに出来たんですね。

 

そうですね。けっこうバレてるところとか、フレームから出てしまうこととかあるんですけど、だからってもう1回やってみようとすると、段取りで動きを追いかけるだけになってしまう。「狙って撮れないものだから、いまのでいいんだよ」とカメラマンも言ってくれました。

 

ということは、最初に頭の中で作った構想はいったんバラして、現場で再構築した……。

 

いま振り返ると、再構築した結果、意外と脚本通りなんですね。用意周到に自分の中でやってたんだなって。撮影中は、わりと現場で生まれることに従ってきたようなつもりだったんですけど、いまシナリオ読み返すと、意外とその通りやってるんです。1回バラして元に戻すということが正しいのか間違ってるのかわからないですけど。無くなってるセリフもあったり、細かい変化はありましたけど、大筋は元に戻ってるんですよね。

 

吉田光希『家族X』 | REALTOKYO
『家族X』(C)PFFパートナーズ

『症例X』から『家族X』へ、身近な人との関係性を撮る

 

去年のPFFでの諏訪敦彦さんとの対談で、「画を撮る」のではなくて「人や、その関係性を撮る」ことについて話されてましたね。この作品を観たとき、それがすごく感じられる映画だなってつくづく思いました。

 

あれは撮影が終った直後の対談でしたね。自分にとって「家族」というものは何なの? ということが映画の中で観たかったんだと思います。

 

それが『家族X』を作る最初のとっかかりですか。

 

『症例X』では親子だったし、その前の短編作品『サイレンス』にしても、自分と誰かの関係をずっと見ようとしてきたんです。それで、大学で最後に撮る映画は「親子」だと決めて『症例X』を撮りました。

 

『症例X』はすごい衝撃でした。

 

そうですか! 『家族X』とは違う撮り方でしたけど、やってることは一緒なんです。デジタルカメラを2台使ったので、1回のお芝居で2カット分撮れる。やっぱり1回性を大事に撮ったものです。わざと寄りのカットとかも撮ってないし。

 

ドキュメンタリー性が強い作りでしたね。

 

ドキュメンタリーかと思った人もいましたね。そんな質問もされました。

 

キャストもすごくて。主役のふたりはどうやって探したんですか。

 

造形大学の卒業作品なんですが、おばあちゃん役の宮重キヨ子さんは、塚本晋也組の助監督をやってたときにエキストラだった人なんです。なかなかネガティブな役ですし、高齢の役者さんでそういう芝居の出来る人を探すのは難しくて。そんなときに塚本組のプロデューサーにプロダクションを紹介してもらって、小嶋悠介(『症例X』共同製作・撮影)くんと一緒に行って決めました。男性は、最初は鈴木卓爾さんにお願いしようとして家まで訪ねて行ったんですが、どうしてもスケジュールが合わなくて。鈴木さんから「僕のスケジュールのせいで映画が撮れないのはいけない」というありがたい言葉もいただいて、新たに探して坂本匡在さんにお願いしました。

 

どれくらいの期間で撮ったんですか。

 

撮影自体は1週間ですが、企画は大学3年の冬から進めてました。介護という題材を扱うと、どうしてもお昼のワイドショーのお悩み再現ドラマみたいになっちゃうのがいやだなと、1年ぐらい試行錯誤してました。

 

吉田光希『家族X』 | REALTOKYO
『家族X』(C)PFFパートナーズ

思いを誰かに届けたいのに、届かない悲しさ

 

そして『家族X』に。

 

『症例X』が2008年のPFFに入選した後、スカラシップのコンペティションに企画を出すときに、どうしようかと。親子の関係を『症例X』で撮って、これで身近な人シリーズを終えられたと思ったんですけど、<家族>という単位が気になって仕方なくなってきて。『症例X』で自分の映画の撮り方やトーンを見つけられた気がしたので、改めて<家族>という単位でも同じやり方で撮れるような気がしました。

 

『家族X』では、3人の家族の中でもお母さんを描く比重が大きいですが、狙ったものなんですか。

 

狙ってないんです。シナリオではもっと並列に描こうとしてるし、実際撮ってるんです。僕も現実には息子なので、「宏明」が自分を重ねられる登場人物だと思って書いていたんだけど、撮影していく中で変わっていって、自分を投影するのが南さんになってきたんです。それもあって主婦が際立った仕上がりになったと思うんです。

 

それはなぜですか。主婦の気持ちになっていった?

 

主婦が感じる孤独というのは、主婦特有のものじゃないなと思えて。例えば食事を作ったのに食べてもらえないとか、家族と話せない、家族に関われない、というのは、「自分の願いが届かない、拒絶されてしまう」という孤独であり、そういう淋しさは別に主婦に限らず、たぶん誰にでもあるものだと思えて。だから僕は映画を撮ってるような気がするし、僕はこう思うということを誰かに届けたくて映画を撮ってるように思うんです。思いが届かない悲しさみたいなものが路子さんと重なったときに、僕は現場でボロボロ泣いたんです。撮影もちょっと止まってしまって。それぐらい入りこんじゃったんです。それで編集の段階でも、無意識のうちに彼女を選んでいったんじゃないかなと思います。だから誰の映画にでもなれるなと思ったんです。いまは誰でも“シュフ”になりますからね。僕も“主夫”になるかもしれないし(笑)。

 

家族の形態も時代の中で変化してきて、家族、家庭とは、戻る場所なんだろうか、なんてことも映画を観ているうちに揺らいでくる感じもしました。でも、何か引きつけているものがある。いったい家族とは何だろうと……。

 

無意識にしろ、意識的にしろ、家族ってこういうもんだよねというのが、一緒に暮らす者同士の間であると思うんです。馴れ合うわけじゃないけれど、意識は家族に向かってるような気がするんです。だけど映画の冒頭の橋本家って、別の方向を向いてしまってるんですよね。それを修復するまでの物語にしたいなと、家族の目線の変化を描ければいいなと思ってました。同居してなくても家族って成り立つんですけど、実際、意識は向いてるんですね。

 

この映画の家族設定は、自分で考えたんですか。

 

実はほかの仕事でとある取材をしているとき、専業主婦の1週間分の生活を自分でビデオに録ってもらうというのがあったんです。他人の生活を見る機会ってなかなかないじゃないですか。それを見ていく中で主婦の生活ぶりが見えてきて、気が付いたのは、夫や息子がビデオに出てこない。なかなかその気配が見えてこないことが、すごく孤独に見えたんです。子供を映してても子供はケータイをいじってたりとか、夫も、照れもあるでしょうけどすぐ居なくなっちゃうとか、それを見てると、孤独の影がどこか彼女たちの中にあるような気がして、これは何なんだろうという疑問がシナリオになっていったんです。それもちょうどスカラシップ提出のすぐ前というタイミングで、きっと家族を撮れと言われているのかなと(笑)。

 

吉田監督も現実に一人っ子で、この宏明に自分がいくらか投影されてます?

 

そういうつもりで書こうとしてたんですが、お話ししたように路子さんに移っていきました。

 

そうでしたね。宏明は若いのにどこか達観してる感じがしました。

 

シナリオを書いたのは、大学を卒業してすぐぐらいで。あ、東京造形大学の学生はみんなあまり就職しないで、社会に放り出されちゃうんですけど(笑)。

 

キビしいですね。自分で生きていけと。

 

そう、放り出されちゃった同級生が多いんですね。そこで、どうしよう、ということになるんです。新卒で就職した人も卒業して、5、6年目ですけど、ずっと同じ会社に勤めている人がいない。いろいろ打ちのめされるわけです。でもけっきょく「仕事するってそういうことじゃん?」って、だんだんわかってくる。その中で誰かが認めてくれる瞬間もある。それが映画の村上淳さんのシーンでもあったわけです。社会で生きるということも悪くないなと思うような変化にしたかったんですね。

 

最初から放り出されてるからか、宏明はたくましさがあります。

 

でも、路子さんにとっては近所にあまり知られたくない事実で、そういう葛藤もあったり。それも宏明はたぶんわかってて、だけど出口がいまいちわからないから家には居たくなくて、なるべく外で過ごしたい。それがまた路子を孤独にさせる。外れた歯車のまま回り続けてる、そういうイメージをしてましたね。

 

村上淳さんの役割がおもしろかったです。ぴったり。

 

イメージ的にもぴったりだと思いました。実は装飾の渡辺大智くんは僕の中学校の同級生なんですけど、彼が村上淳さんと知り合いで。僕が助監督をしているときに偶然現場で渡辺くんと会ったんです、中学以来。それで一緒に映画を作ることになって。

 

それはびっくりの縁ですね。

 

ふたりとも柔道部でした。僕は高校までは柔道以外やったことないくらいで、流れでいけばそのまま大学でも柔道をやることになってたんですけど、力ずくで変えました(笑)。映画は小学生くらいからずっと好きだったんです。最初はHi8(ハイエイト)で少年探偵団みたいなのを友達と作ってました。僕も出演して、ちゃんとエンドロールまで模造紙で作ってローリングして撮ってました。脚本とは言えないまでもあらすじも書いて。

 

スピルバーグの『SUPER8』の世界ですね。

 

そこまでイケてないですけど(笑)。

 

(※このインタビューは2011年9月2日に行われました。)

 

プロフィール

よしだ・こうき/1980年生まれ。東京造形大学造形学部デザイン学科映画専攻領域卒業。在学中より諏訪敦彦監督に師事。また、塚本晋也監督作品を中心に映画制作現場に参加。特殊効果、照明助手、美術助手、助監督などの経験を積む。卒業後はフリーの助監督や製作プロダクションでCMやPVの制作に携わる傍ら、4作目の自主製作映画『症例X』(07)で、第30回ぴあフィルムフェスティバル(PFF)の審査員特別章を受賞。同作は第61回ロカルノ国際映画祭、第46回ウィーン国際映画祭、第6回メキシコ市国際近代映画祭、第11回ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭の招待作品となる。第20回PFFスカラシップの権利を獲得し、『家族X』で劇場デビューし、第12回全州(チョンジュ)国際映画祭、第9回ローマ・アジア映画祭に出品されている。

インフォメーション

家族X

9/24(土)、ユーロスペースほかにて全国順次ロードショー

公式サイト:http://kazoku-x.com/

 

症例X

ユーロスペースにて2週間特別上映(10/8〜21)

公式サイト:http://www.littlemore.co.jp/shoreix/

寄稿家プロフィール

ふくしま・まさよ/航空会社勤務の後、『ほぼ日刊イトイ新聞』の『ご近所のOLさんは、先端に腰掛けていた。』コラム執筆。桑沢デザイン塾「映画のミクロ、マクロ、ミライ」コーディネーター。産業技術総合研究所IT科学者インタビューシリーズ『よこがお』など。