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対話の庭

第17回:池田扶美代さん+山田うんさん【後編】
聞き手:前田圭蔵
Date: August 28, 2012

前編からの続き>

 

山田うん+池田扶美代 | REALTOKYO
右:山田うん (C) Ran Himeda/左:池田扶美代 (C) Herman Sorgeloos

池田扶美代「なんか恋人みたいね」

ところで、何日くらいあるんでしたっけ。神奈川芸術劇場での時間は?

 

池田扶美代(扶):1週間。月曜日から土曜日までスタジオにこもって、日曜日にオープンでやるって感じ。もしかしたら、ただ話すだけで終わっちゃうかもしれないし、何かやってみようかってなるのかもしれないし。そこらへんはあんまりかっこかまさないで、なんか見せるためにショーインングをするんじゃなくて、のぞきに来てもらう。クリエーションじゃないわけだから、ただ私たちが1週間やっているうちの最後の日に観に来ていいよっていう、そういう感じなので、急いで1週間の間に、ちっちゃなソロをふたつつくってみせますとか、そういうのが目的じゃない。

 

で、その後は? 別に決めてない?

 

山田うん(う):2013年にやれたらいいなって感じですね。

 

第2弾を?

 

う:公演を。

 

扶:9月に会って、できる限りたくさん話して、できる限り一緒に動いて、悩んで、笑って、しゃべって。それを糧に、また来年の夏まで会えない。私も日本に行く時間はないし、うんちゃんもたぶんヨーロッパまではね……。次に空いた時間ができるのは来年の夏になるので、その中でクリエーションするって感じかな。これは理想なんだけど、できればまずはうんちゃんにヨーロッパに来てもらい、最後はまた9月に日本でって感じだといいかな。

 

う:だから今回の1週間のクリエーションの間も、音楽家に来てもらおうとか。建築家に来てもらおうとか、コスチュームデザイナーに来てもらおうとか。何人か私たちが気になっているアーティストに声をかけていて、そのクリエーションに来て下さいと。そこで面白いアイデアなりが出てくれば、一緒にやろうってなるかもしれないけど、出て来なければ、ご縁がなかったですねってことなんで。かなりさばさばと、素直にピュアにクリエーションしていって。いい感じだったけど、違うよねってこととかも素直に言いながら、来年何やろうかって考える時間ですよね。

 

扶:やはりスタジオに籠って顔を突き合わせていないと、進展しないのね。普段はお互いに別々のことをしているわけだから。うんちゃんとふたりで1週間集中して籠って、そこにいろいろな人たちが訪れてくれて、私たちがその人たちの質問や問いかけに答えないといけなかったりとかする。そうしたプロセスから少しずつ何かが具体的になって、その1週間を終えられるといいな。それからまた1年近く会えないけど……。なんか恋人みたいね(笑)。

 

う:あははは。

 

恋人だったら普通は別れちゃいますね。

 

う:無理だよね。1年は耐えられない。扶美代さんは耐えられますか。

 

扶:わからないー。人によるかも、まめに連絡くれたら……(笑)。そういう意味でね、単語交換ってまめなんだよね。

 

う:そう、毎日やっている。たまに1日2回とか来ると、今日は2回も来たー! ってね。

 

毎日やってるってすごいね。

 

う:すごいでしょ。500単語は超えている。

 

扶:去年の10月からだもんね。

 

そんなに?

 

う:でも、ほんとにひと言なの。熟語1つとかなのね。「とげ(棘)」とか。で、「『とげ』かあ~」と思って「とかげ」とか返したりするの。

 

池:なんかそれは、その日にすごく気になったことであったり、返ってきた単語への反応だったり、いろいろだよね。

 

う:そうそう。まじめに応えるときと、ちゃかすときと、いろいろね。

 

扶:それも作品だよね。本にできそうな。

 

う:そうそう。わかる、そういうふうに来たらそう応えるよね、みたいに、わかるものを選択するときもあれば、「は?」っていうときもある。すごく逆説的にやるときと素直に受け取るときと、いい塩梅なんだよね。

 

扶:ポジティブな返しのときと、ネガティブな返しのときがある。

 

う:あるある。でも、それ以外のメールはしないんです。たとえ扶美代さんが何か悩んでるとか、どんな過去があったとか、ダンスについてどうとか、深い具体的な過去、現在の話はしなくて、都合のいいところだけ言ったり聞いたりしてるだけ。

あんまり扶美代さんのこと知らないし、扶美代さんも私のこと知らないし。会うまで知らなくてもいいかなって感じ。会ったときに初めて知ることの方が嬉しいし、こういう人だって決めたくないし。もしかして変わるかもしれないし、逆に相手に決められたくないし。もしかしたら、そういうふうに思っていても、扶美代さんに会う前日に変わるかもしれないしね。扶美代さんもそうかもしれないから。だからその人に会うまで決めちゃいけないと思って。姿とかにおいとか、勝手に。

 

Rosas『Drumming』1998 (C) Herman Sorgeloos | REALTOKYO
Rosas『Drumming』1998 (C) Herman Sorgeloos

音楽だと、そういう作業のことをプリプロとか言うんですよね。初めてやる場合とかね、クリエーションなんか興味あるんだけど、何やるかわかんないし、何ができるかもわかんないってときに、デモをつくったりする。デモトラックみたいなものをつくってみて、その後ほとんどボツるわけなんだけど。それはクリエーションの過程だから。でも、そうしてゴミのような、宝石の原石のようなデモトラックが少しずつ増えていって、その過程を経てアルバムができていくとか、ライブで演奏することにつながっていったりとか。クラシカルな作曲の場合は通常ひとりの作曲家が譜面を書き、作曲していくわけですけど、そうじゃなくて、バンドとかだとプリプロだよね、いわゆる。ダンスとか演劇の場合はワークショップって言っていることが多いと思うんですけど。

 

扶:プリプロ段階だと、あのテーマよかったよねって言って、1小節や2小節をちょっと置いておいて、即興でわーってやるとかってできますね。

 

そうですね。それをためるというか、一度はボツるんだけど、また何年か後に復活するとかさ。そういうのもよくあるわけですよね。

 

扶:でも音楽の場合は、ほら、残そうと思えば音源が残るし。ダンスはちょっとね。

 

そうだね。身体の場合は、どうやって生まれた動きを残しておくの? みたいな。

 

う:そうそう、動きはプールできないから。

 

扶:でも、ローザスではよくこう言ってますよ。作品をアンヌ・テレサがボツにしたら、これは冷凍庫行きか、ゴミ箱行きかって。冷凍庫行きだったらチンしたらまた出てこられるけど、冷蔵庫だったらまだ新鮮なうちに使ってもらわなきゃ困るし。どういう保存の仕方なのかなって。だから本当はプロモーションするには何がやりたいのか、いろんなことがわかっていた方が、オーガナイザーにはその方が助かるけれども、実は何もまだわかってないんだよね。ちゃんとしたことが。

 

う:わかってないですね。

 

山田うん「出会うまでは共犯者になれない」

扶:だからこの9月で、ちょっと嘘でもいいから、ちゃんとしたい。言葉にできたり映像に残せたり。それを仕事にしないといけない人たちが助かるというか。できたら、日本だけじゃなくてヨーロッパでも。世界中で公演ができたらいいなと思っているので、それをやるためには、もうちょっとトレーニングが必要だもんね。そういう意味でも、9月にちょっと具体的に何か話したり、練習したりっていうのはすごくいいこと。

 

それ、すごいですよね。めちゃめちゃ贅沢な時間だと思いますよ。

 

う:贅沢ですね。私なんか、日本だと、1年前の助成金申請のときに、タイトル決めて、ものすごいがんじがらめで、とりあえず言葉だけでまとめて助成金の申請をして。その結果が出て、やっとそれでゴーできるって言ってクリエーションしていくので。決めたくないけど決めるっていう作業をするから、ひとりで作品をつくるときに、ものすごく調べる時間、リサーチ、研究、本を読む時間みたいのがたくさんあって。やっとタイトルこれにしとこうって決めるのが1年前だから。ほんとに贅沢。扶美代さんと会ってから決めようねっていうのは。ただ、ひとりだったら決めて嘘をついてもいいんだけど、ふたりだから嘘をつけない感じがしちゃう。

 

それはどういうこと?

 

う:ひとりでソロだったり、カンパニーで自分が振付け演出で、タイトル決めてどんどんどんってやっていくときは、結構、嘘かもしれないけど行っちゃおうって思えるの。だけど、まだダンスとして出会ったこともない扶美代さんとやっていくのに嘘はつけない。出会ってしまえば扶美代さんとも共犯者にはなれるけど。でも、出会う前はまだなれない。会うまでは大事にしたい、決めたくないなーと。

 

今年の3月にね、うんさんの公演を見たときにポストトークがあったんですよね。確か数学者の方との回だったと思う。そのときにうんさんがいろんなこと言っていたんですけど、印象的だったのは、「体というのはすごく不自由。言葉も不自由」ということを言っていて。「その不自由な体と言葉で何ができるかみたいなことに興味があるというか、やってるような気がする」ということを言っていたんですね。それを聞いて、ポストトークとかあまり好きではないんだけど、そのときはなぜか、ポストトーク聞いて良かったなって思って。体が不自由だと思って踊っているダンサーって意外と少ないような気がしていて。自分がやりたいことができないという不自由さではなくて、もともと物理的、機能的にも、体は意外と不自由なものだってことを言っていて。僕も常々そう思って生きているんです。生活しているときも。だからすごく腑に落ちたっていうか、共感できると思いました。そういえば以前、扶美代さんともその話をしたことがあるなって、ポストトーク聞いたときに思い出しました。なので、やっぱり出会うべくして出会ってるというか。どうなるかもちろんわかんないけど、うんさんと扶美代さんが何かをするっていうのは、第三者としては、このふたりだったらどんなことが起きるのかなって興味が湧きます。ふたりがどういうパーソナルなコミュニケーションをしているかわからないですけど、遠く離れていても、知らず知らずに共鳴してることとかってあるのかなぁって思ったんですよね。

 

扶:ツイッターのつぶやきや、スカイプ上で話したり、メール上の対応ですごく共感できる。視点が違うんだけど、割と同じところに辿り着く。違うところは違うところで、すごくいい摩擦がある。っていう。弾けてどっかに散らばっちゃうんじゃなくて、摩擦があったとしても、いい摩擦。

 

『NINE FINGER』(C) Herman Sorgeloos | REALTOKYO
『NINE FINGER』(C) Herman Sorgeloos

う:ひとりでしちゃうんですよ、扶美代さんって。あんまり人を信用しないんです。会ったことないからわかんないけど。でも、そんなに簡単に人を信用しないんですよ、きっと。そんなに人のこと好きになったり、信用したりしないから、やっぱり誰かと一緒に踊りたいなんて、ほとんど思ったことないんです。大勢で踊るかひとりで踊るかみたいな。それをふたりで踊るってことは、扶美代さんも不自由な体っていうのが倍不自由になる。私も、より不自由になると思うんですよね。それを生かして、何ができるかっていうところは、いままでの、それぞれの力ではないところを出さないと、乗り越えられない障害ではないかと思うんですよね。ソロでは大丈夫。集団でもなんとか大丈夫。でもふたりってことは、けっこうお互いにとってのチャレンジなんじゃないかなって感じはしますね。なんとなくだけど。

 

扶:やっぱり若いころって、私がんばってます! っていうのがすごく出るし、疲れを知らないというか、そういう踊り方をしちゃう。いまは、緊張しているわけじゃないんだけど、昔は上手に踊りたいとか、うまくやりたいとか、そういう方向でみんな一緒にいきたいという……。いまはそういうんじゃないことをやってる気がして。それこそ、うまくいきそうになったら、どうやって障害をつくったら自分の踊りが難しくなるかなとか。体がナチュラルに動きたい方じゃない方にいくというか。体がこっちの方にいきたい、これが初期衝動だとしたら、それは置いといて、違ういき方をしたりとか。辿り着くところは一緒なのかもしれないけども、どうやってとか。それはテキストでも一緒だし、動きでも一緒だし、空間、リズム、スペースとか時間の使い方とかも一緒。もちろん、どういうふうに目的が体を移動させることができるかというのはすごく大切、いろんな意味で。考えでもそうだし、動きでもそうだけど。いろんな可能性があるんだよってことを体に教えていかないと、同じ方向にしか体が動かなくなっちゃう。それはだからちょっと哲学的に学ぶんだけれども、それは人生においての考え方と同じで。ひとつのゴールに向かって突進すればいいってもんじゃない。言葉で言っちゃうと簡単なんだけど、動きでも同じだと思うのね。

 

全然1週間じゃ足りないね。

 

う:そうなの、足りないの。

 

ヨーロッパ行く時間もつくれるといいね。

 

う:そう思ってます。

 

扶美代さん、今回日本には何日間滞在ですか。

 

扶:4週間くらい。すごくいっぱいワークショップをやります!

 

なかなか日本に来てそういうことをする時間、いままではなかったから、すごくいいですね。

 

扶:自分が考えていることとか、いつも興味を持って空間の中で動いてることを、どうやって自分の国の言葉で説明できるのか、ちょっと謎なんだけれども。

 

う:おもしろい(笑)

 

扶:こっちの言葉で教えるにしても、教えるってことはわたしの仕事でなかったので、何をどうしようが、自己責任なのかなと思って。ここ2年くらい若いダンサーたちにローザスの作品とかを教えているんだけども、ほんとうに大変で。そういうふうに、このくだらないAとかBとかCとかをどうやって伝えたらいいのかって。

 

あはは(笑)、くだらないとか言わないように。今月はどんな感じですか。

 

扶:8月は、この週末から仕事が始まります。まずは『NINE FINGER』を別の役者さんとやるので、そのリハーサルを少しして。最近ローザスの中にそういう考え方が定着しつつあって、1年間全然練習しないのではなくて、断続的にぽつぽつと練習をする。11月にももう1回練習して、本番前にさらに練習するみたいな。8月13日からは『Elena’s Aria』というローザスの作品を上演し、いったんブリュッセルの自宅に帰って、すぐに引っ越しをして、引っ越しの次の日から、横浜で上演する『in pieces』の稽古開始。いまは自分の家でテキストを、動物園の檻の中の熊みたいに右行ったり左行ったりして練習しているだけなので。24、5日くらいから毎日練習して、31日から、ブリュッセルに住んでいる友人たちに『in pieces』の日本語バージョンのランスルーを観てもらう。で、9月3日に横浜に向けて出発します。

 

では、日本での再会を楽しみにしていますね。

 

ゲストプロフィール

いけだ・ふみよ/1962年、大阪生まれ。1979年、モーリス・ベジャールのムードラに入学。同校でアンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルと出会い、1983年、共にローザスを結成。以来08年まで、ほぼすべての作品の創作に携わり出演する。ローザスの多くの映画やビデオ作品にも参加し、ジャンルを超えて映画や演劇にも活動を広げる。

 

やまだ・うん/2000年、横浜ダンスコレクション・ソロ×デュオコンペティションにおいて、〈若手振付家のための在日フランス大使館賞〉を受賞。2002年、ダンスカンパニーCo.山田うんを設立。これまでに国内外合わせて47都市で作品を上演し、話題を呼ぶ。代表作に『ショーメン』(2010)、『季節のない街』(2012)など。海外フェスティバルの参加も多数。

KAFE9

公式サイト:http://www.kafe-kaat.jp/

 

池田扶美代×ティム・エッチェルス『in pieces』日本バージョン

【横浜公演】9月7日(金)〜9日(日)、KAAT神奈川芸術劇場中スタジオ

【神戸公演】9月15日(土)・16日(日)、ArtTheater dB神戸

 

『ショーメン』(SHOMEN)野外バージョン

9月8日(土)・9日(日)、KAAT神奈川芸術劇場~山下公園周辺

 

池田扶美代×山田うん ショーイング(2013年発表新作の創作過程を公開)

9月30日(日)、KAAT神奈川芸術劇場中スタジオ

寄稿家プロフィール

まえだ・けいぞう/1964年生まれ。多摩美術大学芸術学科卒。在学中にポスター・ハリス・カンパニー設立に参加し、パルコ劇場、スタジオ200、夢の遊眠社などの宣伝協力に携わる。卒業後、世田谷美術館学芸課に学芸員として勤務し、その後(株)カンバセーションに入社、プロデューサーとして数々のダンス公演やコンサート制作を手掛ける。現在は東京芸術劇場のスタッフとして舞台芸術に関わる仕事に従事。NPO法人リアルシティーズ同人。