

都市を舞台に活躍する、パフォーマー、アーティスト、デザイナー、プロデューサーなどの表現者たち。彼らがいま抱く、表現活動への姿勢やスタイルに迫るインタビュー連載、今回は夏休み特別版で、先週に続き2週連続掲載です。第5回のゲストは、キュートでカラフルな風貌と、一筋縄ではいかない曲者ダンス(?)で多くのファンを惹き付ける「珍しいキノコ舞踊団」を率いるこの方です——。
今年はインドネシアでの『KITA!!: Japanese Artists Meet Indonesia』展に参加したり、伊藤さん個人も、ダグラス・ゴードンらによるパフォーマンスイベント『ART RULES KYOTO 2008』に協力したり、珍しいキノコ舞踊団は相変わらずのご活躍ですね。両イベントはどうでしたか?
インドネシアでのお客さんは「ヨシ観てやるぞ!」という感じで熱かったですね。京都でのダグラス・ゴードンさんは、裸になったり、着物姿で歌ったり、それ以外のときは大体お酒飲んでた印象です(笑)。
僕がキノコを知った当時は、まだほとんど東京のみでやっていて、2001年から海外公演をはじめ、国際的な活動を行うようになりました。その前後で、自分たちの中でも変化がありますか。
それはありますね。2001年から海外にも、というタイミングは、結果的にとても良かったと思っています。それまではウネウネと不安定で、自分たちがどこに向っているのかわからなかった。それが2000年の『フリル(ミニ)』で、私もダンサーたちも、「これか、こっちでいいのか!」という方向性が見え始めたんです。それを、言葉の通じない人々に観てもらえたのが良かった。過酷なスケジュールの中でも「私たちのキノコダンスをやっている」という実感があったから。それ以降、いまのように作品を各地に持っていくスタイルになったのだと思います。

キノコは立ち上げ時はみな日芸の学生で、しかも学校で学んでいるのとは全然違うことをしていたわけですよね。学校側からは危険分子(?)として「毒キノコ」と呼ばれてた、なんて逸話も聞きました(笑)。一見かわいらしいようで、そういうパンキッシュなところも魅力ですが、そういう部分はいまはどうですか。大人になったとか、落ち付きがでたとか。
当時は練習も学校の廊下でやっていて、注意しにくる守衛さんといたちごっこをしたりしてました。あと、昔はメンバー同士でホントによくケンカしましたね。誰かの家に泊まって夜みんなで話していると、そのうち大体、熱くなるわけです。あと、私が付けた振りに対してダンサーに「えーヤダ、格好悪い」とか平気で言われてました。いまも同じセリフを冗談で言われますが、昔のアレは本気でしたね……。そんな中で作ってきたものを、ちょうどいま次回公演の準備もあってビデオで見直しているんですが、やりたい放題というか、「それは大丈夫か?」って突っ込みたくなる(笑)。フリッパーズギターの曲を自分が歌いたいがために、友だちの寄せ集めで合唱団を登場させたり。
それは観てみたかったなぁ(笑)。

雑多な魅力を「まとめる」から「組み立てる」へ
キノコを始めたころに、伊藤さんが影響を受けたというか、注目していたダンサーたちっていますか。
そのころは、勅使川原三郎さんや黒沢美香さんたちの活躍がすごく印象的でした。日本は舞踏だけじゃない、この先輩たちが拓いた道を次は私たちが歩こう! という思いもありました。でもキノコ全体はもともとすごく雑多で、ダンサーはバレエ出身が多いんですが、みんな芝居、ライブ、クラブと学生生活を謳歌しながら、好きなことをチョイスしていった感じです。
PARCO劇場のマイケル・クラーク公演(1990年)は観てます? 僕にとって、ダンスカンパニーとの初仕事とも言える公演だったんです。
ルー・リードの曲とか、ダンスのための音楽とは違う「好きな曲」であんな格好いいことができるんだ! と衝撃を受けました。で、「私たちもやろうぜ!」と(笑)。私もいまは色んな音楽を使ってますね。クラシックから長唄まで……雅楽の笙(しょう)の音色なんかはトリップしちゃいそうで好きですし。

伊藤さんには江戸っ子、下町気質も強く感じますね。「かっこつけるのはかっこ悪い」的な。それが作品にもほとばしるようなときが、一番面白いと僕は思うんです。でも、一般的にはキノコを評する言葉としてはまず「ガーリー」がきますよね。
うーん、「ガーリー」は意識してないんですけどね。
確かに、キノコは普通の女の子ならしない動きが多い。ガニ股、四つん這い……あのきわどい感じは誰にも似ていない。トリシャ・ブラウンやアンヌテレサ(ローザス)などにちょっとだけ近い気がすることもあるけど。
以前は、誰かの影響受けてるなーという振りをダンサーに指摘されたりして、「あーこれはヤメ!」となることもありましたね。でも最近は、自分たちの世界の中できちんとやっています。「まとめる」から「組み立てる」感じになってきた気もします。

「日常と劇場」のクロスオーバー
作品はどうやって作り上げていくのですか。
ぜんぶ私ひとりの意見でできあがっているわけではありません。「リフト」などは特に、みんなで作った部分が大きいです。私に関しては、「これで踊りたい!」という曲や状況が常にいくつかあって、そこから出てくるものが多いですね。『あなたの寝顔をなでてみる。』では、まず「布に囲まれて踊りたい」というアイデアがありました。劇場以外の場所でたくさん踊ってきたこともあって、場所にインスパイアされることも多いですね。
ダンスって本当はもっと日常に近いもので、いろんな場所でできるはずという考え方と、劇場を想定してきっちり作り込んで、そこに人々を招きたい、という考え方がありますよね。私はどちらもやりたいし、一方のやり方で作ったものを他方に持ち込むこともやりたいんです。

次回公演『珍しいキノコ大図鑑』では新メンバーが4名加入とのことで、初の男性ダンサーもひとりいるそうですね。合計9人。これもまた楽しみです。
新メンバーも、女子みたいな男子や、ボーイッシュな女の子など色々です。メンバーのデコボコ感もキノコのもともとの特徴のひとつで、長くやる中でまとまってきたぶん、こうした変化も面白いかと感じています。あと、今回はいわゆるベスト盤+新曲みたいな感じでやるつもりです。昔の作品も、新しい人たちと一緒だと新鮮ですね。加えて、コンテンポラリーダンス界が「ギャフン」と言っちゃうようなのも、お見せできたらと思います。
いまから楽しみにしていますね。最後に、東京のイメージをひとことで。
生まれ育った土地、故郷。外国に行っても、帰りたいと思う場所。最後のは東京っていうより、自分の家のことですけどね(笑)。
珍しいキノコ舞踊団
≪今後の公演情報≫
珍しいキノコ舞踊団公演『珍しいキノコ大図鑑』
日時:2008年8月 8日(金)19:30
9日(土)15:00 / 19:30
10日(日)15:00
※ロビー開場は60分前、開場は30分前
会場:ル テアトル銀座 by PARCO
東京都中央区銀座1-11-2(銀座テアトルビル3階)
料金:前売4,000円/当日4,500円(全席指定)

ゲストプロフィール
いとう・ちえ/ダンサー・振付家・演出家。1970年、東京生まれ。90年に「珍しいキノコ舞踊団」を結成、以降全作品の演出・振付・構成を担当。ときにユーモラス、ときにラディカルな振付と、色彩感覚豊かな衣裳や美術が織りなすダンス公演で人気を得る。また、劇場だけでなく、美術館の敷地、映画館、オフィス、カフェなど多様な空間で上演を行うことでも知られる。ダンスの楽しさを幅広い層に伝える各種ワークショップも企画するほか、映像作品、演劇への振付などでも活躍中。
寄稿家プロフィール
まえだ・けいぞう/1964年生まれ。多摩美術大学芸術学科卒。在学中にポスター・ハリス・カンパニー設立に参加し、パルコ劇場、スタジオ200、夢の遊眠社などの宣伝協力に携わる。卒業後、世田谷美術館学芸課に学芸員として勤務し、その後(株)カンバセーションに入社、プロデューサーとして数々のダンス公演やコンサート制作を手掛ける。現在は東京芸術劇場のスタッフとして舞台芸術に関わる仕事に従事。NPO法人リアルシティーズ同人。