

都市を舞台に活躍する、パフォーマー、アーティスト、デザイナー、プロデューサーなどの表現者たち。彼らがいま抱く、表現活動への姿勢やスタイルに迫るインタビュー連載、第4回のゲストは、一度観たら忘れられず、なぜかは知らねどまた観たくなる狂い咲きパフォーマンス集団「鉄割アルバトロスケット」を主宰するこの方です――。
鉄割アルバトロスケットのパフォーマンスには、「オフビート」「不条理」などの形容から「平成の見世物小屋」といった言葉まで(笑)、さまざまな評があります。その魅力はいわく言葉にしがたいですね。
あー、すみません(笑)。
でも、ただ訳のわからないナンセンスや、その場のノリだけで持っていくのではなく、鉄割には、独特の身体表現と言葉の絡み、そして時間感覚を感じます。何だろう……例えば、コースを回っていくゴルフみたいなスポーツではなく、計画できそうでできないワクワク感があって……怖いもの見たさもあるのかなぁ。戌井さんは主宰者であり戯作担当、出演もこなし、演出の牛嶋みさをさんと共に作劇される立場でもありますが、あの内容はどういう風にできあがっていくのですか?

まあ普通ですが、ネタ帳みたいなノートを持ち歩いて、「この状況でこれが起こったら、アイツがこんなことしたら面白いな」といった色々を思いつくままに日々書いています。そこから結構細かく作り込んでいきますね。役者がどこに立って、どう動くかまで。
ヘンな言葉、動き、所作……それがツボにはまる。何度も観たくなるのはそこかもしれません。
ありがとうございます。もしそう感じてもらえたとしたら、やはり作り込んでいる部分でしょうね、それは。アドリブっぽい部分も、実は結構細かく決めています。「何秒待ってからこう倒れて下さい」とか。その方がメンバーもやりやすいみたいです。「ここで彼の内面がこうだからアレをアレして……」とか言うよりも(笑)。稽古でヘンな動きとか発見すると、また「それで行こう」となったり。

その判断が、戌井さんと(牛嶋)みさをさんの間で共有できるから、成立するんですね。それが鉄割流のロジックなのでしょう。非ユークリッド幾何学的な。
そう言われてみると、2人各々、「これは絶対ダメ」というポイントはあります。僕は、何かをお客さんの前でやってみせて、一瞬後に「どうこれ?」的な匂いが出るのは絶対ダメですね。そういう匂いがどうしても消せないときは、そのシーン自体削っちゃいます。「じゃーここはバケツ降ろしてくるだけで!」とか。
何かをどれだけ好きになれるか――日常会話から名曲まで
ふだんはどういうものに刺激を受けたりするのですか?
例えば、日常の暮らしの「会話のとっかかりのなさ」で言えば、中学生が究極で、すごく興味深いんですよ。突拍子のないやりとりの中で、お互い隙あらば格好良いこと言おうとしてる年頃でもあったりして……何かヘンなものが渦巻いてる感じが(笑)。

なるほど。僕はこの間、満員電車で隣の30代の会社員風男性が打っている携帯メールが目に入ってしまって。それが「いまから帰るよ~ん-絵文字」みたいな文面で、打ち終わったら待受画像に夫婦2ショットの写真が(笑)。見てはいけないものを覗いちゃった気がして、申し訳ないやら落ち込むやらでした。
いまはそこらじゅうで皆がそんな感じのことを膨大に交信していて、もしもああいった電波を頭で全てキャッチできる力があったら、狂うでしょうね。ちょっと恐ろしいです。さまざまな情報って確かに大切だとは思いますが、鉄割の場合、それが創作に活かされることはほぼない気がします。それよりも、(原動力は)いかに何かを好きになれるか、ですかね。

リトルモアの公演(5月)は、お馴染みの短いパフォーマンスの連打から、長尺の芝居、さらに音楽をフィーチャーしたものまで多彩なプログラムで楽しませてもらいました。一方、鉄割という名の美味しい卵があるとしたら、その白身と黄身を分けちゃった気もしたんです。やっぱり混ぜたほうが美味しいんじゃないかって(笑)。 その点、今度のスズナリ公演(編注:取材後、7/3~7/6に行われた)はメンバーも大挙出演し、加えてダンサーの康本雅子さんや、古澤裕介さん(ゴキブリコンビナート)らも客演するそうで、これはまた期待しています。
確かに、役者が少人数のときの公演もそれはそれで面白いけど、やっぱり大勢のときは楽しいですね。
鉄割の公演は、音楽もすごく良いんですよね。選曲とその使い方が。あれも戌井さんでしょう? この前はローランド・カークを使ってましたね。そのへんも、嬉しくなるんです。
劇中の音楽については、DJに近い感覚で「いい曲聴かせたい」というのがあります。終演後に高校生が「あの曲なんですか」とか聞いてきたりもします(笑)。

We are only in it for … !?
鉄割の舞台を観ていると「何かフランク・ザッパっぽい」とも思います(笑)。まあそれでいったら、例えばARICA(*)はカエターノの音楽のよう(でありたい)っていうのがあるんですが。そういえば、戌井さんに話したかったことのひとつが、リチャード.フォアマンのことです。ニューヨークの聖マークス教会というところで長年地道に毎年舞台公演を打つんですが、これがものすごい良いんです。音響もフォアマン自身が担当していて、各界にファンも多い。鉄割と共通点がある、というとちょっと語弊もあるかもしれないけど、戌井さんにはぜひ観てもらいたいなと。
そのフォアマンさんの舞台はぜひ観たいですね。音楽について言えば、鉄割の演目も「いい曲作りますよ!」って感覚でやっていけたらうれしいです。実はちょうど今日ザッパのアルバム「We are only in it for the money(俺たちは金のためにやっているだけだ)」を買ってきたんですけど。これ楽曲群のタイトルがすごいんですよね。「鼻で記憶している蒸気オルガン音楽」とか、いますぐ僕らの演目名に使いたい(笑)。

戌井さんは書き手として、いまや『新潮』での作品掲載などもされる小説家でもありますよね。最近そちらのほうは?
文芸誌『モンキー・ビジネス Vol.2』に新しい作品が載ります(発売中)。あとは、8月の鉄割公演がひと段落したら、また書こうと思っています。モンキー・ビジネスのは、書いていてディランの「All Along The Watchtower」の歌詞を使いたくなったのですが、良い和訳がわからなくて悩んでいて……。で、「あ、柴田さん(同誌編集長)ってそもそも翻訳家だ」と気付いて恐れ多くも訳して頂いたりしながら書きました。小説書くのと、鉄割やるのとは、全然違う頭を使うような感覚ですね。
今後ますますのご活躍を期待しています。最後に、東京のイメージをひとことで。
生まれたところ、都心ではなくて、武蔵野方面、多摩川とか。
鉄割アルバトロスケット
≪今後の公演情報≫
「渋さ知らズと鉄割アルバトロスケット 合同ライブ公演」(仮)
日時:8月10日(日) 時間未定
会場:江古田・バディ
※詳細は決定次第、鉄割ウェブサイトで告知予定。
「レッツティーチャー5限」
日時:9月11日(木)~9月15日(月)
会場:吉祥寺・オンゴーイング
Tel:0422-26-8454
e-mail:
※チケットは7月10日より受付開始。上記オンゴーイングのみでの取り扱いとなります。
≪鉄割メンバーがきりもりする(?)お店がオープン!≫
トライバルビレッジ浅草
(8月半ばオープン予定。イベントスペース、食事、酒もあり)
tv-asakusa.com
〒111-0035 台東区西浅草3-27-1 2F
Tel. 03-3841-6210
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- ARICAは前田氏が制作を担当するシアターカンパニー。なおARICAの『キオスク KIOSK』(2006年)では、鉄割から戌井昭人、奥村勲が客演する異色のコラボレーションも実現している。
ゲストプロフィール
いぬい・あきと/1971年東京生まれ。劇団文学座を経た後、97年にパフォーマンス集団・鉄割アルバトロスケットを旗揚げ。台本・出演を担当する。個性派揃いのメンバーが繰り広げる、寸劇、不条理劇、ダンス・音楽パフォーマンスなど、怒涛の演芸パフォーマンスを各所で展開中。「第10回ガーディアンガーデン演劇フェスティバル」(2000年)では大賞を受賞。小説家としても「鮒のためいき」(『新潮』08年3月号)など発表している。
寄稿家プロフィール
まえだ・けいぞう/1964年生まれ。多摩美術大学芸術学科卒。在学中にポスター・ハリス・カンパニー設立に参加し、パルコ劇場、スタジオ200、夢の遊眠社などの宣伝協力に携わる。卒業後、世田谷美術館学芸課に学芸員として勤務し、その後(株)カンバセーションに入社、プロデューサーとして数々のダンス公演やコンサート制作を手掛ける。現在は東京芸術劇場のスタッフとして舞台芸術に関わる仕事に従事。NPO法人リアルシティーズ同人。