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    聞き手:前田圭蔵
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対話の庭

第3回:コーネリアス/小山田圭吾さん
聞き手:前田圭蔵
Date: May 30, 2008
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都市を舞台に活躍する、パフォーマー、アーティスト、デザイナー、プロデューサーなどの表現者たち。彼らがいま抱く、表現活動への姿勢やスタイルに迫るインタビュー連載です。今回のゲストは、緻密で大胆な音・映像世界を生み出しつつ、世界各都市をライブツアーで巡るこの方です——。

コーネリアスの表現は、音楽と映像、そしてアートワークまで非常に完成度が高く、でも実は小山田さんを中心にごく少人数のスタッフで、たっぷりと時間をかけて生み出されていますね。クリエイションに際するそうした親密度が、コーネリアス独特のある種のシンプルさや、調和のとれた世界感にもつながっているのでしょうか。

 

制作に関しては、あちこちに行くより自分のスタジオで作りたい方です。面倒くさがり屋みたいですが(笑)、ここだと、考えられるすべての状況やトラブルにも対応できるから。あと、時間をかけて作るのは確かですね。最近はツアーに出ると100本くらいライブをやることになるので、それを見越しての助走みたいなものも必要ですから。

 

東京国際フォーラムでの『SENSUOUS SYNCHRONIZED SHOW』(3/30) は、音の粒が際立っていたし、ステージ演出も、THE CORNELIUS GROUPの4人が1列に並ぶミニマルな感じで、でもミラーボールが出てきたり……。品が良くて、ユーモラスだけど、あざとくはない。そしてまた、観衆の集中度も高かった。

 

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『SENSUOUS SYNCHRONIZED SHOW』 撮影:梶野彰一

ライブを何公演もやる中で、最初と後半ではディテールが変わってきます。インプロビゼーションが少ないぶん、メンバーが1音1音を突き詰めていくところはありますね。

 

確かに、その前に観たリキッドルームではアルバム『SENSUOUS』をどうライブ化するかに重点が置かれていたのに対し、国際フォーラムでは、完熟度からくる遊び心や余裕が感じられました。それが5000人の観客を盛り上げたのだと思います。

 

だとしたら嬉しいですね。ライブハウスもホールも違う良さがありますが、日本での大きなステージは武道館以来、約10年ぶりでした。お客さんもああいう形で観るのは久しぶりか、初めてという人も多かったと思う。だからなのか、はじめは客席に戸惑いもあった気がしたけど、最後は盛り上がってくれたと思います。

 

日本の観客、特にコーネリアスのオーディエンスは、開演前から「ワーッ!」て盛り上がったり、あまりしないですからね。でも逆に言えば、演奏者たちに対し礼を尽くしていたのかもね(笑)。最後に皆が満足している空気はすごく伝わってきました。

 

こちらが、そういう「ワーッ!」を特に求めてないのもありますけどね。実際、仮に自分が観にいったとしても、おとなしく座って観てるはず(笑)。でも確かに海外は海外で、お客さんが構えてなくて、また違う雰囲気があります。

 

ライブパフォーマンスの力

 

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DVD『from Nakameguro to Everywhere tour '02-'04』より

緻密な曲作りをするミュージシャンに多いと思うのですが、ある時期からライブをしなくなる人たちがいますよね。でもコーネリアスはライブもやるし、しかも演奏と映像とのあの融合ぶりを、ステージでも高いレベルで追求し続けている。3月に同時発売された2枚のDVD、『SENSURROUND』(クリップ映像集)と『from Nakameguro to Everywhere tour '02-04』(ライブ映像集)にもそれは象徴的にみてとれます。ライブでは、また違うフィジカルな体験を求めているのでしょうか。

 

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Fit Song」 (DVD『SENSURROUND』収録 映像:辻川幸一郎)

ライブにも(自動演奏など)色々あると思いますが、その場で皆が演奏して音を出してるかどうか、は重要だと思います。生バンドでどうやって演奏と映像をシンクロさせるのかは、よく皆さんに聞かれますね。モニターでクリック音は3種類くらい鳴っていて、でもそれを聴くのはドラマーだけです。今のメンバーで演るようになって長いから、いい意味で慣れてきたのもあります。

 

逆に、長いツアーの中でモチベーションが維持しにくくなることはない?

 

いや、ありますよ(笑)。そうなってきた曲はリハなしで本番に臨んでみたり、あるいはアレンジで変なことを試し始めたり……そこで曲が磨かれることもある。それは意識的なときも、偶然のときもあります。

 

コーネリアスは、ソフィスティケイテッド、ミニマルといった形容もよくされますが、ライブはパンクやファンクに通じるものもありますよね。海外のファンは、そのあたりでまた違う聴き方をしているかもしれない。そしてまた、ハイブリッドな叙情性も兼ね備えていると思うんです。「WATARIDORI」聴いたら日本人は泣きそうになる、とかね(笑)。

 

21世紀におくる「21世紀の音楽」

 

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「Toner」(DVD『SENSURROUND』収録 映像:高木正勝)

『SENSUOUS』のアルバムやツアーで、サブタイトル的に使っている“la musique du 21 siecle”というのは?

 

「21世紀の音楽」という意味で、まぁ……いま作ればみんな21世紀の音楽なんですけど(笑)。確か60年代のレコードに書いてあるのを見つけて――当時は未来感があったのだろうと思うんですが――いま使うとまた面白いフレーズかなと思って。

 

コーネリアスにぴったりな形容詞だと思います。同時代としての21世紀の音楽。最近では「イギリス版コーネリアス」と呼ばれるミュージシャンもいたりするそうです。ヨーロッパのレコード店に立ち寄るとちゃんとコーネリアスが置いてあるし、これはすごいことだと思います。海外の音楽フェスではどんな感じですか。楽器だけじゃなくて映像の機材もすべて運んでいくわけですよね?

 

そうですね。だいたいビッグアーティスト、たとえばレッチリやビョークらのステージがあって、それと別にソニック・ユースとかフレーミング・リップスなんかが出るオルタナステージみたいなところがあって、後者と一緒になるのが多いです。ロックフェスは会場が山や砂漠だったりすることも多くて、それは割と過酷ですね。でも最近は、ソナーみたいにインドアなフェスへの参加も多くなりました。フェス自体も多様化していると思います。

 

やはり国際ツアーは過酷だし、迎え入れてくれるオーディエンスや市場はあるはずなのに、そこに届く前にアーティストも、スタッフもくじけてしまうケースが少なくない。何というか、TOYOTAが車を販売するようには上手くいかない。コーネリアスはそれを乗り越えて続けている点で、実はすごくタフですよね。

 

乗り越えてるのかな(笑)。でも、確かに大変だから、くじけるというのもわかります。自分の場合は、いまは楽しさのほうが、大変さよりちょっと勝っているから続けられるんだと思う。それと、ちょうどコーネリアスが海外でやり始めた10年くらい前は、時期的にも日本のバンドが注目された時期でした。バッファロー・ドーターやチボマット、ギターウルフとか。そういう点ではタイミングも良かったのかな。

 

今年もいろんな国に行く予定ですか。例えばブラジルとか、受けると思うんです。

 

イギリス、スペイン、オーストリアなどに行きます。ブラジルなんかも、いくつか近隣のエリアからもオファーがあれば実現できると思うので、ぜひ行ってみたいですね。

 

最後に「東京」のイメージをひとことでお願いします。

 

地元。

関連情報
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DVD『SENSURROUND』(WARNER MUSIC JAPAN/発売中)
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DVD『from Nakameguro to Everywhere tour '02-04』(WARNER MUSIC JAPAN/発売中)

 

ゲストプロフィール

おやまだ・けいご/1969年、東京生まれ。89年、フリッパーズギターのメンバーとしてデビュー。91年のバンド解散後、トラットリア・レーベルの設立・運営に参加。93年にCornelius(コーネリアス)としての活動を開始する。『FANTASMA』(97年) リリース後に米マタドール・レコードと契約。これを機に、同作および続く『POINT』(2001年)、『SENSUOUS』(06年) が世界各国で販売され、The Cornelius Groupを率いてワールドツアーを行うなど国際的な活動を続けている。並行して、BECK、STING、SKETCH SHOW、坂本龍一らとのコラボレーションやリミックスワークも多数。

Official site:http://www.cornelius-sound.com/

Warner Music Japan:http://wmg.jp/artist/cornelius/

寄稿家プロフィール

まえだ・けいぞう/1964年生まれ。多摩美術大学芸術学科卒。在学中にポスター・ハリス・カンパニー設立に参加し、パルコ劇場、スタジオ200、夢の遊眠社などの宣伝協力に携わる。卒業後、世田谷美術館学芸課に学芸員として勤務し、その後(株)カンバセーションに入社、プロデューサーとして数々のダンス公演やコンサート制作を手掛ける。現在は東京芸術劇場のスタッフとして舞台芸術に関わる仕事に従事。NPO法人リアルシティーズ同人。