海炭市叙景
夜明けの光がすべての人に希望を与えるわけではないんだなと思った。それでもやはり冬場の光は救いだ。佐藤泰志の未完の遺作から紡がれた、架空の町「海炭市」の5つの物語。現代の格差社会や地方の疲弊化を予感していたのか。何かを失い、かなわぬ思いを抱えた人々。不可抗力あり、因果あり、道を誤る者もいるが、厳しい状況をなんとか生きている。壊れた家族に替わる、町の住民としての接点も希薄ながらわずかにある。土地の重力から飛び出した青年(三浦誠己)も登場するが、自分を責めなくても本当はいいはず。土地は恵みをもたらすが有限でもあり、町を出た人が持ち帰るものもまた町を活性化させるから。ただし、水の美味い土地に浄水器をセールスするエピソードはいかにもやるせない。地方活性化を目指すアートプロジェクトも構造的には似ている気もする……。場所に根差しつつ、場所に限定されない物語。まもなくアップ予定の熊切監督のインタビューも併せてご覧ください。


わたしたちは、あの場所に戻るのだ。
その冬、海炭市では、造船所が縮小し、解雇されたふたりの兄弟が、なけなしの小銭を握りしめて、初日の出を見に、山に昇ったのです…。
プラネタリウムを動かしている男は、妻の裏切りに傷つき、
燃料屋の若社長は、苛立ちを抑え切れず、父と折り合いの悪い息子は、帰郷しても父に会おうともせず、立ち退きを迫れた老婆の猫は、ある日姿を消したのです…。
どれも小さな、そして、どこにでもあるような出来事です。
そんな人々の間を路面電車は走り、その上に雪が降りつもります。
誰もが、失ってしまったものの大きさを感じながら、後悔したり、涙したり、それでも生きていかなければならないのです。海炭市でおきたその冬の出来事は、わたしたちの物語なのかもしれません。
あの時間に戻ることはできない…。
村上春樹らと並び評されながら不遇に終わった佐藤泰志の幻の小説が、熊切和嘉監督によって、ついに映画化!
佐藤泰志の幻の傑作が、ついに映画化されます。村上春樹、中上健次らと並び評されながら、文学賞にめぐまれず、90年に自らの命を絶った不遇の小説家・佐藤泰志。『海炭市叙景』は、彼の故郷である函館をモデルにした“海炭市”を舞台に、そこに生きる人々の姿を描き出す未完の連作短編小説です。監督は、やはり北海道出身の熊切和嘉監督。監督は、遺された18の短編小説の中から、5つの短編を選び、脚本の宇治田隆史とともにモザイクを組み合わせるように、“海炭市”と、そこに生きる人々の姿を浮かびあがらせました。ここに描かれた登場人物の姿は、決して特別なものではありません。みな、ささやかではあるけれども“幸福な時間”を失ってしまった後に、失ったものの大きさに耐えながら、戻ることもできず、それでも日々を生きていかなければならないのです。“海炭市”とは、特定のどの町でもありません。『海炭市叙景』に描かれたその冬の出来事は、地方都市に生きる人々の物語なのかもしれません。佐藤泰志がそうであったように、遠くから故郷を想う傑作の誕生です。
小説のモデルとなった函館市でおこなわれた撮影。谷村美月、加瀬亮、南果歩、小林薫、ジム・オルーク…。
スタッフ・キャストと函館市の皆さんとの奇跡のコラボレーション。
映画『海炭市叙景』は、佐藤泰志の故郷であり、“海炭市”のモデルとなった、函館の市民の皆さんの手によって企画され、町の人々の多大な協力のもとい冬の函館で撮影されました。また、この企画に賛同した谷村美月、竹原ピストル、加瀬亮、山中崇、あがた森魚、伊藤裕子、大森立嗣、村上淳、三浦誠己、南果歩、小林薫など、日本映画を支えるキャストが出演。その他の、メインキャストを含め数多くの登場人物をオーディションで選ばれた地元・函館の皆さんが演じています。それは、東京から参加したスタッフ・キャストと、函館に生きる皆さんとのコラボレーションに生まれた作品だと言っても過言ではありません。そして、この映画のエンドクレジットには、この映画を様々なかたちで支えて下さった数多くの皆さんの名前がクレジットされることになりました。また音楽を、ジム・オルークが担当。すべての楽器を自ら演奏し、バラバラだったそのテーマが、ひとつの曲に紡がれていく音楽は、海炭市に生きる人々を優しく包み込むように冬の町に響きます。
監督:熊切和嘉
出演:谷村美月、竹原ピストル、加瀬亮、三浦誠己、山中崇、南果歩、小林薫
原作:佐藤泰志(クレイン刊「佐藤泰志作品集」所収/小学館文庫刊)
脚本:宇治田隆史/音楽:ジム・オルーク/撮影:近藤龍人/照明:藤井勇/録音:吉田憲義/美術:山本直輝/スタイリスト:小里幸子/編集:堀善介/助監督:野尻克己
製作:菅原和博、前田紘孝、張江肇/企画:菅原和博、映画『海炭市叙景』製作実行委員会
プロデューサー:越川道夫、星野秀樹/ラインプロデューサー:野村邦彦
2010年/日本/カラー/35㎜/DTSステレオ/152分
特別協賛:北海道新聞社、六花亭、uhb北海道文化放送
支援:文化振興基金助成金
制作プロダクション:ウィルコ/制作・配給:スローラーナー
宣伝:太秦/配給協力:シネマ・シンジケート
北海道配給:シネマアイリス
製作:映画『海炭市叙景』製作委員会(アイリス、スクラムトライ、日本スカイウェイ)
関連リンク
ユーロスペース日程終了
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エリア | 渋谷 |
住所 | 東京都渋谷区円山町1-5 |
アクセス | JR「渋谷駅」ハチ公口より徒歩10分 |
電話番号 | 03-3461-0211 |
会場ホームページ | http://www.eurospace.co.jp/ |
日程 | 2011年6月11日~2011年6月24日 |
時間 | 6/11-17は12:45→15:30 6/18-24は18:00→20:45 |
ユーロスペース日程終了
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エリア | 渋谷 |
住所 | 東京都渋谷区円山町1-5 |
アクセス | JR「渋谷駅」ハチ公口より徒歩10分 |
電話番号 | 03-3461-0211 |
会場ホームページ | http://www.eurospace.co.jp/ |
日程 | 2010年12月18日~2011年3月4日 |
割引料金 | 21:00〜23:35 |
休館日 | 2/9(水)、2/23(水) |
特記事項 | 2月5日(土)からは予告編なし、デジタル上映。 |
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