丸山直文展—後ろの正面

目黒区美術館では、将来性を嘱望される同時代作家の作品を積極的に紹介し、サポートしていくことも、美術館の重要な役割のひとつであると考えています。
2000年『青木野枝展—軽やかな、鉄の森』、2004年『小林孝亘展—終わらない夏』、 2006年『村田朋泰展—俺の路・東京モンタージュ』を開催、作家の協力によるギャラリー・ツアーやワークショップをまじえて、同時代作家の展覧会ならではのこころみを重ねてきました。本年はシリーズ第4弾として、『丸山直文展—後ろの正面』を開催いたします。
丸山直文は1964年、新潟県生まれ。文化服装学院、セツ・モードセミナーをへて、イラスト画ではない純粋な美術を求めてBゼミで学びました。時代は「絵画は既に終焉した」といわれた頃。その影響下、丸山もまたコンセプチュアルな方向に関心を持ちました。 初期にはインスタレーション作品をてがけた丸山ですが、やがて思考優先の制作方法に違和感を感じ、つくることと思考が相互に関係をもちながら制作を進めるペインティングの世界に自らの適性を見いだします。
丸山の絵画の特徴であるステイニング技法(下地処理の施されていない生のキャンヴァス地に絵の具をしみ込ませる技法)は、文化服装学院時代に買い込んだ綿生地にアクリル絵具をつかって描きはじめたことからはじまります。丸山の、ステイニング技法による生命形態を連想させる抽象的な絵画は、1992年の東京国立近代美術館『現代美術への視点:形象のはざまに』展の出品作家に選ばれるなど、個展やグループ展で一気に頭角をあらわしました。
しかし、 80年代のニュー・ペインティング以降の動向を担う中心的作家のひとりという高い評価を得ながらも、この頃の丸山は、抽象絵画の枠からでられずにいることにいらだちを感じていました。やがて丸山は、写真によって知り合いや両親のポートレートを描くことから徐々に具象の道に近づこうとこころみはじめます。そして、具象・抽象の区別にこだわらない、丸山自身の絵画をみつける機会をあたえたのが、1996年から、文化庁とポーラ文化財団の助成を得て過ごした、ベルリンでの2年間でした。帰国後の丸山は、現実の世界を別の世界へ移し替えた桃源郷とも言えそうな絵画を、あたかも息を吹き返したかのように次々に描き続け、その作品は「写実と抽象が共存する絵画」とも評されるようになりました。
本展のサブタイトル「後ろの正面」は、丸山が初期作品のシリーズに自らつけたタイトルから。ステイニングで描いていると絵具が綿布に染みこみ、裏側が正面のような錯覚を感じたと、丸山は語っています。この言葉から「かごめかごめ」の歌を連想し、幼少の頃の懐かしい景色を思いだす方も少なくないかもしれません。溶け合う色面と線、判然としない場所と時間の中、いつか、どこかで見た不思議な懐かしさを感じさせる丸山の絵画。しかし、それは、情緒的な表現欲求というよりも、理性的な絵画上の実験から生まれてきたものです。「後ろの正面」が相反する言葉の組み合わせであるように、丸山は、1枚の絵画のなかに、相反することを同時に共存させようとしてきたのかもしれません。
本展は、国内外で高い評価を得る丸山の約20年の仕事を紹介する、美術館でははじめてとなる本格的な個展です。絵画があらためて見直されている今、見逃せない展覧会となることでしょう。
1.初期作品から新作までの作品を5つの時代に分け展示
(1) 初期:生命形態を思わせる抽象絵画(1988年-1992年頃)−最初の個展から、一気にニューペインティングの以降の動向を担う作家のひとりと注目を浴びるまで〜(2)アトリエ・シリーズ:モノクロの世界(1993年頃-1994年頃)−抽象絵画の枠からでられないことに悩み色がつかえなくなった模索の時代〜(3)ポートレイト・シリーズ(1995年頃-1996年頃)−身近な人を描くことから色を再び使えるようになる〜(4)「時の温度:大きな水」展:2003年(シュウゴアーツ)展示作品−2年間ドイツで過し、迷いがふっきれて意欲的な制作を再開。帰国後、具象的なモチーフを描きながらも抽象性を孕む独自の絵画世界の方向性を見いだす〜(5)2003年以降:近作から本展のための新作まで−丸山独自の絵画世界の展開。本展のための大作を制作中
2.ドローイング展示
これまで意識的に数点しか発表してこなかったドローイングをまとめて展示。ドローイングに一番時間をかけるという丸山、その思考過程が垣間見られる貴重な機会となります。
3.丸山直文のアトリエ再現
どんな絵具や筆を使いどのように描いているのか?どんな本を読み、音楽を聞きながら制作しているのか?私的な空間をのぞき見ることができます。
4.関連催事
丸山自身によるギャラリー・トーク、対談、ワークショップ等により、作品の裏側にまで迫ります。
5.待望の初作品集
展覧会カタログは、求龍堂から一般書籍のかたちで出版されます。「丸山直文展」の公式カタログであると同時に、丸山直文の待望の初作品集です。展覧会出品作品はもちろん、海外に所蔵されているなどで本展に出品できなかった重要な作品もあわせて紹介いたします。さらに丸山がこれまでに制作してきた全アクリル作品約500点の写真とデータを掲載するなど、資料的価値の高い作品集です。
目黒区美術館日程終了
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エリア | その他23区内 |
住所 | 東京都目黒区目黒2-4-36 |
アクセス | JR「目黒駅」より徒歩10分 |
電話番号 | 03-3714-1201 |
日程 | 2008年9月27日~2008年11月9日 |
時間 | 10:00-18:00(入館は17:30まで) |
料金 | 一般800円/大学生・65歳以上700円/高校生500円/小中生無料 |
休館日 | 月曜日 ※10月13日と11月3日(月・祝日)は開館、翌10月14日と11月4日(火)は休館 |
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