
横浜在住の私が見聞きした(ときに食べ飲んだ※)、主なものをピックアップしてコメント。※飲食店に関しては、イベント前後に寄った会場近くのお気に入りの店を紹介しています。
1/16 ART「NICAオープニングパーティ&ファーストビュー」(東京)
前号1月分で記載し忘れていたイベントを紹介。世界の魅力的なクリエイティブシティには必ず存在している、インディペンデントなアート&クリエイティブセンターを東京にも創りたいという想いを持った3人(館長・新野圭二郎氏、ディレクター・岡田智博氏、ディレクター・嘉藤笑子氏)が発起人となり、東京の中心、日本橋大伝馬町に NICA: Nihonbashi Institute of contemporary arts を設立。そのオープニング企画『DIALOGUES』展のお披露目とパーティが開催された。かなりの人数の関係者がつめかけ、その期待の大きさがうかがえる。こうした志ある文化拠点が新たに誕生するのは頼もしい限り。現代アートにとどまらない、多様な現代カルチャーを複合的なプログラムとして開催してゆくとか。これからの活動が大いに楽しみ。

3/3 CINEMA『アメリカン・スナイパー』@ムービル(横浜)
白昼、砂嵐の中の市街戦が凄い!! 何がって、画面全体が激しく巻き上げられた砂による灰色のスクリーンに覆われた状態で、敵味方の区別はおろかほとんど何も見えない。散発的に発砲される機銃の閃光以外には、音だけが際立っている。銃声はもちろんのこと、兵士の怒号や足音、車両のエンジン音などが混沌と混ざり合った音だけが。市街戦の最中に、遠くから巻き起こった砂嵐が、あっというまに全てを覆ってしまうシーンなのだが、ここには2つの意味が読み取れる。ひとつは、紛争そのものの無意味さ。紛争においては敵も味方も善も悪も相対的な価値でしかなく区別は虚しい。ただ怒号と銃声、つまり殺傷という絶対的な事実だけが存在するということが、空白の画面によって強調されている。その証拠に、この場面の最後では、ハンビーに乗った米兵が、取り残されそうになった戦友を寸でのところで引っ張り上げるのだが、砂嵐の中から突き出た助けを求める腕、それは虚無の中に危うく堕ちそうになる人間の業を思い起こさせずにはおかない。

さらにコノテーションのレベルでは、戦闘を描くこと自体の映画の無力さ、不可能性を問うている。映画とはハイライトから漆黒まで光と影の織り成すコントラストの総体であるならば、砂嵐(それはまさしく、かつてTV放送の終了した後のノイズの謂いであった)のすべて灰色(中間色)と化した場面は、もはや映画と呼べるだろうか。戦闘とは、おぞましい光景や轟く爆音はもちろんのこと、血や膿みや腐敗の臭い、己や相手の血の温かさ、負傷すればその痛みなど、五感すべてに不快を及ぼす忌まわしい経験に他ならない。そして本作のテーマである帰還兵のPTSDといった精神的な傷と病。3Dや4Kなど、どんなに映像技術が進んだところで、真実を写し撮ることはできないだろう。すべてを包み込み視界を妨げる砂嵐の中に、我々は想像力の眼をもって真実を感得しなければならない。その意味で同じ空白の画面でも、虚飾を排した果てのブレッソンの「純粋映画」とは対極にある。
宇野常寛は、「YouTubeを検索すれば瞬時に無料で世界中の驚くべき現実をとらえた映像を無数に観賞できる」、また近年の状況を前に、フィクションの映像が「アクセスコストの低下した面白い現実の前にその需要を失いつつある」(4月4日朝日新聞)と喝破しているが、現在において「映画」が価値を持ち得るかといった問いも、イーストウッドは込めたかったのかもしれない。
ラスト近くのシーン、兵役を引退し家族と暮らす主人公が、戯れに取り上げたピストルを出かける間際、無造作に棚の上において出て行くのも、なんとも寓意的だった(何かの映画の引用だろうか?)。社会的な根深い問題をもさらっと誰もが楽しめるスペクタクルに仕上げてしまうイーストウッドの手練れは健在ながら、例えば『グラン・トリノ』のような終映後に涙を誘うような直接的なカタルシスは訪れない。それでも私たちの深い部分に残った余韻は、消えることは無い。
3/4 MUSIC「纐纈雅代 BAND OF EDEN」@新宿PIT INN(東京)
圧倒的な強度とバイブレーションがズシズシ! ビリビリ!! 「渋さ知らズ」をはじめ、最近とみに活動の場を広げている、フリージャズ!! のサックスプレイヤー纐纈雅代。その彼女のリーダー・ユニット「BAND OF EDEN」のライブがあった。昨年、体調を悪くしちょっと休養していた彼女だが、復活どころかよりパワフルになり、何か“脱皮”を遂げたよう。今回はCD用のレコーディングも兼ねてのライブとあって、早くもCD発売が待ち遠しい!!

3/4 ART『ロベール・クートラス展 夜を包む色彩』@渋谷区立松濤美術館(東京)
ひとり安アパートの屋根裏にこもり、毎夜切り抜いたボール紙のカルトの上に「僕の夜」を絵の具で紡ぎ続けたクートラス。しかしそれは決して陰鬱なものではなく、ユーモラスだったり可愛いかったり、さらによく見れば、神々しさを覚えたりもする。成功よりも自由を選び、貧しくとも描きたいものを描き続ける。こんな作家が生きて、作品を残してくれたという奇跡……いや、そもそも彼が天使であったのではないか。小さな画面に描かれた、物語のひとつひとつの世界の中に渉猟しながら、そんなことを思ってみた。

3/7 CINEMA『娚の一生』@ヒューマントラストシネマ渋谷(東京)
なんか全般にやさし過ぎる。原作がコミックであるということの、好ましくない側面が出てしまったか。豊川悦司は、マンガでしか成立しないキャラクターをつかみ損ねて、終始定まらないまま迷い続けているし、例えば中庭の暗がりから戸外の明るい風景を写したショットでは、コントラストが中途半端。影の部分をもっとしめてやれば、榮倉奈々演じる女性主人公の戸惑い、不倫に疲れ内にこもる彼女がいつのまにか一線を越えて出て行く、そのシンボルになりえたはずなのに、などと観ている方をも歯がゆくしてしまう。榮倉を訪ねてくる友達(安藤さくら)との駅での距離感なんかもマンガじゃないんだから。たぶん後から結婚を知らされることの2人の距離の暗示なんだろうけど……それは、解釈というより、我々に詮索を強いているような気にさせられてしまう。『さよなら歌舞伎町』のときも思ったけど、廣木監督、撮りすぎじゃない?
3/8 CINEMA『美園ユニバース』@ヒューマントラストシネマ渋谷(東京)
渋谷すばるが出てるっていうから、「どうせアイドル映画でしょ」などと侮ってたらとんでもない!! 記憶喪失の渋谷すばるは、ちょっとあざとすぎるかなという演技が、かえって雰囲気かもしてるし、バンド「赤犬」のオヤジ臭さがプンプンするような画も好ましい(本物のオヤジ臭はカンベンだけど)。山下敦弘監督は、やっぱダメな男を撮り続けてきただけある。そしてなんといっても、二階堂ふみ!!! ここのとこ、難しい役柄が多い彼女だけど(そのすべてを見事にこなしてるってのも凄いが)、ここでの彼女は「これって素じゃない!?」、と思わせるドはまり感炸裂。私は彼女のことを入江悠監督の『劇場版 神聖かまってちゃんロックンロールは鳴り止まないっ』で初めて見たんだけど(興奮した私は思わず、「二階堂ふみっていう素晴らしい女優が出てきた!」と周囲に公言して回った)、そのときの二階堂ふみを彷彿とした。本人はクラッシュとかのパンクも好きみたいだから、ロックや音楽系が水に合ってるんだろうな。「しょうもなっ」連発、大阪弁の彼女を愛でるだけでも価値ある快作。

3/13 STAGE『横浜赤レンガ倉庫ダンス・ワーキング・プログラム キックオフ パフォーマンス』@横浜赤レンガ倉庫(横浜)
出演:中村恩恵、首藤康之、小㞍健太、渡辺レイ
世界で活躍するダンサー・振付家の中村恩恵がディレクターをつとめる《横浜赤レンガ倉庫ダンス・ワーキング・プログラム》が2015年5月にスタート。それに先立ち、このプログラムの豪華なメンバーたちによるキックオフパフォーマンスが開催された。憧れのダンサーたちが集まるとあって、きっとバレエやダンスを習っているんだろう子どもたちも目立つ客席。出演者たちも本格的バレエを基礎としている人たちだけに、コンテンポラリーな創作の中にもデベロッペやフェッテといったバレエの技をさらりと優雅に披露してくれて、とても豊かな気分に。いやぁ、こういう安心して観られるのもいいな……って、歳の所為だろうか?

3/13 TOWN「たらふくちゃん」(横浜)

さて、赤レンガ倉庫でのイベントが終わったら、ほど近く関内の「たらふくちゃん」へ。7~8人も入れば満員という小ぢんまりした店。居心地の良さと、料理の美味しさで最近のお気に入り。食べ物は何でも美味しいんだけれど、ポテトサラダやあじフライ、コロッケなどなど、家庭料理をちょっとグレードアップした味といえばいいかな。とくにマカロニサラダが評判で、それを目当てにわざわざ遠方から来るお客さんも。刺身や焼き魚など、その日のオススメも楽しみ!!
3/18 BOOK『映画とは何か』(岩波文庫)アンドレ・バザン著 / 野崎 歓・大原宣久・谷本道昭訳
昨年、三浦哲也著の『映画とは何か フランス映画思想史』が刊行され、「じんぶん大賞」などにもノミネートされ話題となったが、その書名の元祖がこれ(加藤幹郎も山田宏一等も同名の書籍を上梓していますね)。元祖と言えば、アンドレ・バザンは「ヌーヴェルヴァーグの精神的父」とも称され、実際、彼のもとからトリュフォーやゴダールやシャブロルなどなど名だたる監督たちが育ったわけで、彼自身は映画を撮ってはいないが、戦後の現代映画の元祖といってもいいかもしれない。そんな彼の映画批評を集めた本書(原書は1958~1962年発表)、日本では1970年前後に美術出版から4巻本で出されていて、長らく古書でしか入手できなかったのが(2008年刊の小海永二翻訳撰集に一部収められていた)、ようやく新訳で刊行(4巻本の中から主要なものを集めて編まれた選集の翻訳)。この日、下巻が発売となり上下巻が出揃った。私もかつて、バザンの批評から映画に関する多くのことを学んだ。カメラの視線が、神のものなのか、制作者のものなのか、登場人物のものなのか、はたまた観客の窃視によるものなのかとか、デクパージュ(カット割りや編集)やミザンセーヌ(セット、小道具、俳優、衣裳、照明効果など、カメラに映るすべての視覚要素の配置や演出)なんかを意識して観られるようになったのも彼のおかげ。映画への視野も楽しみ方も大きく広げてくれた。いま改めて新訳を読んで、その決して古びていない批評の射程に驚かされる。というよりも、クリストファー・ボグラーの“神話構造(いうまでもなく、もともとはジョーゼフ・キャンベルの重要な研究を矮小化したもの)”にすがり、人気俳優やら特撮やら人寄せ要素を巨額制作費で上塗りしただけのハリウッド映画や、高視聴率のTVシリーズを映画化しただけのシネコンプログラムに頭がふやけさせられている今だからこそ、バザンの批評やその映画への愛や精神がガツンと突き刺さる。

3/19 DESIGN『MIKIO SAKABE / TOKYO NEWAGE 2015 AW FASHIONSHOW』@渋谷CLUB QUATTRO(東京)
気鋭のデザイナーMIKIO SAKABEの坂部三樹郎と、writtenafterwardsを手掛ける山縣良和がプロデュースする若手デザイナーを集めたプロジェクト「東京ニューエイジ」による15年秋冬コレクション。斬新なモードとリアルさがほどよくバランス、というよりリアルクロ-ズ色がけっこう強まっている印象。かつてのMIKIO SAKABEのすっ飛んだ感じが薄れた気も。とんがり過ぎて目立ったり枠を外れたりすることを好まない、今の空気感を映しているということか。それでも、さすが今をときめくデザイナーたちだけに、カワイイ作品が多くて目を奪われることしきりだったよ!
Web: MIKIO SAKABE / TOKYO NEWAGE 2015 AW FASHIONSHOW


3/19 ART『アートフェア東京』内覧会@東京国際フォーラム(東京)
クアトロでのショーが終わって有楽町へ。「アートフェア東京」のオープニングプレビュー。今回は会場構成を現代美術ゾーンとそれ以外の古美術や工芸品ゾーンに分け、誕生から400年を迎える琳派をテーマにした企画展『琳派はポップ / ポップは琳派』を行うなど、さらにバージョンアップ! 私も熱気に押され(って言い訳だけど)、お気に入りの作品を見つけて、思わず購入。さっそく部屋に飾って楽しんでます。
3/19 TOWN「はないち」(東京)
『アートフェア東京』ではいつも、知り合いやいろんな方と出会うのですが、今回もそんな知人たち数名と「のどが渇いたよね」という、一層ビールが恋しくなるよな常套句を交わしながら、有楽町の巷へ。みなさま当てが無いということなので、贔屓にしている駅高架下の「はないち」へご案内。場所柄、チェーンかありふれた居酒屋? と思われがちだけど、実はここ、埼玉蓮田の蔵元・清龍酒造の直営店で、お酒が美味しいことは言うまでもなく、肴も美味しいものばかり。しかも安い! この日も、オススメのインドマグロの大トロ(美味かった!)はじめ、いろんな料理にお酒もほどほど飲んで(けっこう酔ったよ)1人2000円!? 皆に喜ばれて、案内した甲斐あり。
はないち
東京都千代田区有楽町2-9-16
3/20 ART『3331 Art Fair 2015』内覧会@3331 Arts Chiyoda(東京)
コレクターが作品購入という実際の行動によって、賞を授与するという新しいアートフェアの形を提案する本イベント。昨年の第1回は手探りで始めた所為か不備も目立ったけれど、今回は万全で望んだらしく何よりも出品作品が粒ぞろいで見応えがあった。しかも、お買い得な作品が多く、選考=購買を課せられた選考委員たちもとても楽しめたのではないだろうか。前回は「これからどうなっていくのか」というような不安が少なからず残ったが、今回は「これからどう発展していくか」という期待を持たせてくれた。選考委員のひとりでもある私も、町田沙弥香さんという若い作家の作品に惹かれ、購入=授賞を決定。私自身は、コレクターと名乗るほどの資格はないのだけれど、アートを愛するひとりとして、作家ともどもこのフェアを見守っていきたい。買わなきゃいけない、という条件はけっこうプレッシャーだけどね……。

3/21 DESIGN『絶・絶命展~ファッションとの遭遇』@パルコミュージアム(東京)
2013年に開催された『絶命展〜ファッションの秘境』は、生身のモデルによる「生の日」とマネキンによる「死の日」の演出など、ほとんど毎日変化し続ける展示内容が評判を呼び、第32回毎日ファッション大賞特別賞を受賞するなど各方面で反響を呼んだ。本展はその続編となる山縣和良(writtenafterwards)&坂部三樹郎(mikio sakabe)プロデュースの新しいファッション展覧会。「東京ニューエイジ」もフィーチャーされ、前回を超える奇抜な企画に圧倒された。難を言えば、展示やモデルの立ち居振る舞いが面白すぎて、主役の洋服に目がいかない(^^;)。
Web: 絶・絶命展~ファッションとの遭遇(パルコミュージアム)

3/27 ART+STAGE 鉄秀『肉躍る画』ライヴパフォーマンス 川村美紀子(ダンサー・振付家)@traumaris(東京)
身体を使ってペイントをするアーティスト鉄秀の展覧会のオープニングイベントとして、ダンス界を席巻しまくっている川村美紀子とのコラボ・パフォーマンスが行われた。まるで、60年代かと思わせるような絵の具やら、身体やら、音楽やらをひっくり返したような自由奔放さ。ときに大声を上げたり、絵の具の容器を投げつけたり、けれど破綻しそうで破綻しないところが60年代と違って今な感じ。EDMと川村のダンススタイルとあいまって、決して回顧的ではなく新鮮で、騒がしいばかりでなくどこか哀切を誘ったりもする。ところで、ダンスを観ることは、観客にとっても健康に良いといわれる。カタルシスによる精神面ももちろんだが、実はダンサーの動きに共鳴した観客の筋肉も無意識に拡張や収縮を細かく行っているからとか。川村美紀子の舞台を観ていると、このことがとても実感できる。無意識に収縮どころか、むずむずと動き出したくなってたまらない。いつのまにか、客席で小刻みに身体をゆすってしまっていたりする。この日の川村の動きは、動き出したい誘惑を最高潮に高めてくれた。鉄秀のペイントも含めて、彼女のパフォーマンスの中でもベストの部類に入る。目撃できてよかった。

3/27 TOWN「たつや」(東京)
で、60年代を思い出した後は友人の案内で、おしゃれな店の立ち並ぶ恵比寿にあって、まるで奇跡のように昭和の佇まいを色濃く残す焼き鳥の「たつや」へ。昭和の佇まいどころか、まさに60年代の新宿は「しょんべん横丁(現思い出横丁)」へ迷い込んだような錯覚を起こさせる。日本酒のヌル燗を頼むと、アルミの燗付け用の懐かしいコップに入ってくるんだもの。焼き鳥(やきとん)はもちろん、不味いはずがない。ごきげんで、ちょっと飲みすぎてしまった……ふぅ。

寄稿家プロフィール
ふかさわ・めぐみ/CMクリエイター、アート映画ディストリビューター、舞台公演企画、雑誌へのコラム執筆、社会学講師等を経歴。その間、子供時代から続く劇場や美術館通いは止んだことが無い。著書『思想としての「無印良品」』千倉書房