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Y⇆T Notes ─ 横浜/東京カルチャーレポート

001:2015年1月/2月
ふかさわ・めぐみ
Date: March 18, 2015

横浜在住の私が見聞きした(ときに食べ飲んだ)主なものをピックアップしてコメントします。定期的にお届けできるかどうか、はやくも自信は無いけれど、溜まったら適当にアップしてゆくつもりです。

1/10 CINEMA『自由が丘で』@シネマ・ジャック&ベティ(横浜)

これも一種のタイムトリップ映画? 思いを寄せる女性を探してソウルの路地に迷い込む主人公。街を行ったり来たりすると同時に、ランダムに編集された迷路のような時間の中に観る者も誘い込まれる。そればかりではない、登場する人間たちの関係もまた、それぞれ行き違ってゆく。民宿の中庭だけが、安全地帯のように、そんなバラバラを唯一つなぎとめている……。淡々とした加瀬亮の持ち味がいい。

 

Web: 映画『自由が丘で』公式サイト

 

 

1/24 STAGE『土佐の神楽』@国立劇場(東京)

本川神楽(土佐の神楽)国立劇場に設えられた舞台 | REALTOKYO
本川神楽(土佐の神楽)国立劇場に設えられた舞台

高知県北部の四国山地、吉野川の最上流域にある旧本川村に伝わる重要民俗文化財「本川神楽」。とりわけ山深い一帯に伝わるため他の地域の影響を受けず、古い形式をそのまま今に色濃く残している。通常、神楽というと、お祭りのドンドンピーヒャラといったのどかな笛・太鼓を想起しがちだけど、これは激しく打ち鳴らす太鼓と鉦の鳴り物だけ。その響きは、まるで韓国のサムルノリを思わせる。色々な面を付けた神や鬼などが入れ替わり現れ、キコリと観客(現地では氏子)との滑稽でちょっとエッチなやり取りなんかも。休憩を挟んでおよそ5時間、本当に神が依りつきそうな宇宙を堪能。山奥だけに訪れるのは大変そうだけれども、これはやっぱり現地で体験したいよね。

 

Web: 1月民俗芸能公演「土佐の神楽~山深き本川の地に伝わる夜神楽~」

 

 

1/31 CINEMA『水の声を聞く』@シネマ・ジャック&ベティ(横浜)

映画『水の声を聞く』 | REALTOKYO
『水の声を聞く』copyright© 2014 CINEMA☆IMPACT All Rights Reserved.

昨年内に見逃してしまっていたので、急ぎ駆けつける。ジャク&ベティには、ほんとにお世話になってます。『土佐の神楽』はサムルノリを想起させてくれたけど、これはまさしく済州島の巫女(韓国本土ではムーダン、チェジュではシンバン)のお話。シンバンを祖母に持つ少女が軽く始めた占いが、いつしか新興宗教へと育ち、欲得の世界に巻き込まれ……。主役の玄里(ヒョンリ)、かわいいだけでなく、目に宿した力強い存在感がいい。ただ、山本政志の新作ということで期待したのだけど、先の読めてしまう展開とか、彼らしい“破綻”が無かったのが残念。大人になったのかな(^^;)、いやまだまだ落ち着いたりしないで欲しい!

 

Web: 映画『水の声を聞く』公式サイト

 

 

1/31 CINEMA『薄氷の殺人』@シネマ・ジャック&ベティ(横浜)

良い!! この感じ好き!! 男女の絡む事件なのに湿度低め、照明やカメラの抜け感もいい(撮影はトン・ジンソン)。そしてやっぱり脚本がいいし、何より余計なことをしない演出が好き。脚本と監督は中国映画期待のディアオ・イーナン。早くも私の今年の映画BEST3かも(^^)。って書いてたらまた観たくなっちゃったよ。ただ一点、何この邦題? 原題の『白日焰火』を生かして、『白昼の花火』でいいじゃん!(英語タイトル『Black Coal, Thin Ice』を訳しちゃったのね……)

 

Web: 映画『薄氷の殺人』公式サイト

 

映画『薄氷の殺人』 | REALTOKYO
『薄氷の殺人』

 

 

2/3 CINEMA『イザイホウ』@UPLINK(東京)

映画『イザイホウ』 | REALTOKYO
『イザイホウ』Copyright ©2010.kaiensha. All Rights Received

沖縄県久高島で12年に一度行われる、女性が神女(神職者)となるための就任儀礼。後継者が無いため1978年を最後に行われていない。これは、1966年時を記録した貴重な作品。史料に記録される限り600年以上の歴史を持ち、来訪神信仰の儀礼として日本祭祀の原型を留めているとか。祭礼前、ナンチュと呼ばれる巫女は島の七箇所の御嶽(ウタキ)に参拝、拝殿の前には七つ橋、儀礼の間住まうのが七つ家……などなど、これは絶対に北辰(北極星、北斗七星)信仰を汲むものに違いない。意識して観たわけではないのに、先の『土佐の神楽』から『水の声を聞く』のムーダン、そして『イザイホウ』と、大陸~半島から日本へと信仰・儀礼が偶然にも続いてしまった。何かの思し召しか?

 

Web: 映画『イザイホウ -神の島・久高島の祭祀-』| UPLINK

 

 

2/10 CINEMA『さらば、愛の言葉よ』@ブルク13(横浜)

映画『さらば、愛の言葉よ』 | REALTOKYO
『さらば、愛の言葉よ』©2014 Alain Sarde – Wild Bunch

この映画を前にして、軽率なことは言えない。映画中のゴダールいわく「想像力を欠く者は、みな現実に逃避する」そうだから……けっこうカップルで来ている人も多かったけど、終演と同時に皆言葉少なにそそくさと劇場を後にするのが何とも面白かった(生半可な感想なんかはヤケドするぜ!(^^;))。ただ、ハリウッドなんかの3D映画が、単なる子供だましに見えてしまうほど強烈な映像美!! イメージと音と言葉の織り成す3Dの混沌、バンザイ!!

 

Web: 映画『さらば、愛の言葉よ』公式サイト

 

 

浜とん | REALTOKYO
浜とん

2/10 TOWN「浜とん 本店」(横浜)

コントンの後は、やきとん!?(^^;)、で行きつけの日の出町駅近くの「浜とん」へ。名店「浅草橋西口やきとん」で修行した大将の店、当然浅草橋とおんなじ名物「皿ナンコツ」とフランスパンをオーダー、美味し。

 

Web: もつ焼処 浜とん 本店

 

 

2/11 CINEMA『百円の恋』@シネマ・ジャック&ベティ(横浜)

映画『百円の恋』 | REALTOKYO
『百円の恋』©2014東映ビデオ

とにかく安藤サクラ、あらためて凄い! 映画の内容は、30過ぎでニートなパラサイト女のビルドゥングスなんだけど、前半のだらしなぁい体つきと、後半思い立ってボクシングを始めてからの、しまった体が本物(たぶん後半から先に撮って、それから前半用に太って贅肉付けたんだろうな)。さらにリング上の鬼気迫る演技、ただただ圧倒!! それでいて変な力みなどみじんもない。小細工を一切排して、素直に見せてくれるカメラワークや編集も高好感度!

 

Web: 映画『百円の恋』公式サイト

 

 

2/12 CINEMA『さよなら歌舞伎町』@シネマ・ジャック&ベティ(横浜)

うーん……、なぜこんなヒットしてるの??? 廣木隆一監督、撮り過ぎかな……。せっかくの前田敦子も出番が少なく、『もらとりあむタマ子』まではいかなかった。

 

Web: 映画『さよなら歌舞伎町』公式サイト

 

 

2/13 ART『クインテットⅡ 五つ星の作家たち』@損保ジャパン日本興亜美術館(東京)

将来有望な、というよりすでに中堅の女性画家5人の展覧会。共通した透明感、空気感がまさにクインテットの奏でるハーモニーな感じ。けど、こんな綺麗なだけでいいの?

 

Web: クインテットⅡ-五つ星の作家たち- | 東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館

 

 

2/13 STAGE:川口隆夫『大野一雄について』@BankART1929(横浜)

それは、破綻で幕を開ける。いかにも川口隆夫らしい始まり方。「大野一雄」という、一つの特異なポジションに対して、何のバイアスもなく取り掛かれるのもまた彼ならでは。だからこそそれは、オマージュなどといった生ぬるいものではなく、むしろ大野の腑分けといったほうがふさわしい。徹底的に分解し、壊しては組み立てる、そのデフォルメやカリカチュア、あるいはただ無心に逐一真似て見せるその滑稽さや悲哀の中にこそ、大野の恐ろしさが浮かび上がってくる。大きな負荷に、抗うことこそが宿命であるという舞踏家の姿とともに。もたらしたものはいったい、大野なのか川口なのか……大野の特異点に川口の身体が渾然としたとき、そこには人間というものの孤独が輻輳さえした。

 

Web: 川口隆夫ソロ 大野一雄について

 

川口隆夫『大野一雄について』 | REALTOKYO
川口隆夫『大野一雄について』Copyright 2015 TAKAO KAWAGUCHI. All Rights Reserved.

 

2/14 ART:片山真理展『you're mine」@TRAUMARIS(東京)

この人もまた、大きな負荷を背負って生きているに違いないのに、その作品や活動は神々しくもキュート。死の陰を宿しているのに前向きにさせてくれる不思議。わが身を省みて、情けなくなってくる(^^;)

 

Web: 片山真理 展 you're mine - TRAUMARIS SPACE

 

片山真理作品「you're mine」 | REALTOKYO
片山真理作品「you’re mine」

 

2/15 STAGE:エコ・スプリヤント『Cry Jailolo』@KAAT神奈川芸術劇場(横浜)

インドネシアの伝統舞踊を現代的に解釈した作品。静けさと躍動感の気高きマリアージュです。ひとりの足踏みの小さな音がやがて群舞の高みへと昇華、震えるほどの高揚感を堪能。

 

Web: Cry Jailolo | TPAM in Yokohama 2015

 

 

2/20 CINEMA『そこのみにて光輝く』@ユーロスペース(東京)

いうまでもなく今回のキネ旬1位! 不覚にも見逃してた。綾野剛の魅力をここまで引き出せたのは、女性監督ならではだね。匂うようなロケーションに寄る辺無さの剥き出し感を収めた近藤龍人のカメラ(同じ原作者の『海炭市叙景』も彼の撮影)が絶品。

 

Web: 映画『そこのみにて光輝く』公式サイト

 

 

浜とん | REALTOKYO
KIKUYA スリランカ風チキンカレー

2/21 TOWN「Kikuya Curry」(横浜)

フレデリック・ワイズマン作品鑑賞前にまずは腹ごしらえ(いつも長尺だからね、今回もたがわず181分)。野毛のカレーの名店「キクヤ」へ。スリランカ風チキンカレーを食す、美味し。

 

Kikuya Curry

神奈川県横浜市中区野毛町4-173 天悦ビル101

TEL:045-231-0806

 

 

2/21 CINEMA『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』@シネマ・ジャック&ベティ(横浜)

ワイズマンらしく、ただの美術館探訪、収蔵美術解説映画などではなく、そこに関わる様々なスタッフの人間模様に密着描写。美術の映像というよりも、「言葉」が主役の作品。これぞワイズマン、これぞドキュメンタリー!! なんだけど、さすがにちょっと頭が痺れた。

 

Web: 映画『ナショナルギャラリー 英国の至宝』公式サイト

 

 

2/22 CINEMA『滝を見にいく』@シネマ・ジャック&ベティ(横浜)

素人のおばちゃんたちが見もの。おばちゃんパワー満開、かわいくてほっこり。

 

Web: 映画『滝を見にいく』公式サイト

 

 

2/22 STAGE『夜の大陸~テラ・インコグニタ~』@鎌倉市立第一小学校多目的室Ⅱ(鎌倉)

舞踏家・秀島実の研究生女子2名、中村早紀、山本かおりによる初公演。かねてより多少なりとも関わり応援している面々だけに、育つ子を見守る親のような心境でハラハラと緊張しながら見始めたのだがまったくの杞憂だった。ペトルーシュカかコッペリア、秀島さんの操るさながらオートマタと化した二人は、まるでジャン・ジュネのソランジュとクレールよろしく、互いの鏡像を覗き込みながら秘め事を繰り広げる。2人であることの病。何かを降ろしたように屹立する2人は、十二分に舞踏の身体を体現していた。今後がますます楽しみ。

 

 

2/24 CINEMA『二重生活』@UPLINK(東京)

みんなが共犯者、もちろん我々観客も。そんなヒリヒリ感がハンパじゃない。凝ったカメラワークが多用されているけど、それが決して邪魔じゃない、観ている私たちの気持ちを見透かしたように翻弄してゆく。これは恐怖映画の手法を持ったメロドラマだ。

 

Web: 映画『二重生活』公式サイト

 

 

2/24 3.11映画祭「サバイビング・プログレス 進歩の罠」上映会+小崎哲哉氏 × 香山リカ氏 トークイベント@代官山T-SITE(東京)

「進歩」は人類を幸福にしたか? 最先端の学者や思想家たちが様々な視点から、様々な問題を語るドキュメンタリーの上映会。プラスわれらがREALTOKYO編集長・小崎哲哉と気鋭の香山リカのアフタートーク。映画のほうは、かつてのカウンターカルチャーの運動家のようにちょっと強引な論の運びが随所に見られ、結局みんなで節制・我慢しようぜ的な結論がなんだかなぁ。トークは「地球の地表の1.5%をソーラーパネルにすれば、全地球の電力が賄える」とか、「今、日本が世界に売れるのは観光と廃炉技術だ」とか刺激的な発言がやり取りされ、時間が足りないくらい熱かった。

 

Web: 映画『サバイビング・プログレス − 進歩の罠』公式サイト

 

 

2/28 ART『3331ART FAIR』記者発表+トーク@アーツ千代田3331(東京)

『3331ART FAIR』 | REALTOKYO
『3331ART FAIR』

昨年から始まった『3331ART FAIR』の2回目。昨年は準備不足と実験的意味合いもあって不備なところが多々見られたが、反省も踏まえて今年は万端とのこと。本フェアの一番の特徴は、作品購入が賞となる点。通常のフェアのようにギャラリー単位の出品ではないため、作家たちが出品した作品を直接購入することを前提に選考者は吟味することが迫られる。だからここでは作家ばかりではなく、選考者であるコレクターや買う側も表舞台に立たされることになる。主催者は「単に観ることだけではない、買うことによるアートとの新たな出会い・関係性を創出したい」という。出品作家のひとりキュンチョメは、「コレクターの人たちは、作品そのもの以上に、アーティストの欲望までも購入したがっているように思える。だから作品を購入した瞬間から、その購入した人がアーティストなんです!!」と語る。実は私も賞を選ぶひとりになっているのだけれど、どんな作品に出会えるか楽しみな気持ちと、目利きが試される不安でもって今から緊張ぎみ。

 

Web: 3331 Art Fair 2015 ‒Various Collectors' Prizes‒

寄稿家プロフィール

ふかさわ・めぐみ/CMクリエイター、アート映画ディストリビューター、舞台公演企画、雑誌へのコラム執筆、社会学講師等を経歴。その間、子供時代から続く劇場や美術館通いは止んだことが無い。著書『思想としての「無印良品」』千倉書房