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    菅付雅信
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インディペンデント編集者のTOKYO仕掛人日記

第10回:新しいコミュニケーションの「歌い方」
菅付雅信
Date: September 03, 2008

8月某日

青山ブックセンターでのマエキタミヤコさんとのトークショーの様子

マエキタミヤコさんと1週間で2回も対談をやることになった。マエキタさんは、説明に困る人だが、エコシフトをやっている人と言えばいいのだろうか。エコシフト? という人もいるだろうから、もう少し説明すると、マエキタさんは、エコを巡るコミュニケーションのディレクター。

サステナ」というクリエイティブNPOの代表で、「100万人のキャンドルナイト」「ほっとけない 世界のまずしさ」のキャンペーンの仕掛け人であり、雑誌『エココロ』のアドバイザーも行なう、エコのエヴァンゲリスタである。マエキタさんとは、2003年に小冊子『エココロ』を一緒に手がけ、そして05年の『エココロ』創刊、さらに06年の彼女の初の著書『エコシフト』を編集するなど、幾多の大変な仕事を共にし、僕も彼女に感化されてかなりエコシフトしたのだと思う。マエキタさんに会うまでは、エコだの環境だの言っている人が一番嫌いだったのだから。

そのマエキタさんとこれまた一緒に組んだ本、大地を守る会の『大地を守る手帖』(築地書館)の発刊を記念して、8月23日に青山ブックセンターの青山本店でトークショーをやることに。「『大地を守る手帖』が伝えたかったこと」というタイトルのこのトーク、まずお互いこれまでの作品(仕事)の図版を数多く用意して、スクリーンに投影しながら語ったのだが、マエキタさんの話がとまらなくなり、1時間半の予定のうち1時間を過ぎても本題に入らない。しかし、彼女の過去の仕事も、自然保護協会や最近の生物多様性をテーマにしたウェブ「いきものみっけ」、そしてこの『大地を守る手帖』にしても実は行き着くところは同じような題材であり、それらはまさに有機的につながっている。

 

この日は、エコなコミュニケーションには、チャーミングさやセクシーさが足りない、コミュニケーションをフレッシュにするには、といったトピックで話が盛り上がる。また、正しいことを正しいとだけ伝えることのつまらなさも、共有意識として話にのぼった。

その数日後、今度はサステナで、七つ森書館から10月末発売予定の対談集中の1本の収録を、再度マエキタさんと。この本は、政治と市民が離れている現状をどうやって近づけるかがテーマのもの。僕らのパートはそれをクリエイティブの力、コミュニケーションの力を使っていかに近づけるかという、難易度高く、ちょっと自分には役不足なテーマでの話となった。いつものごとく、8割方はマエキタさんの喋りで、僕は爆笑問題の田中程度の突っ込みに終始するのだが、若者の投票率のあげ方、野党のリブランディングといった話となる。

たぶん、マエキタさんや、そして僕がやっている方法論は、古典的な方法をとっている人からはとても邪道に思えるのだろうが、人は同じ歌をなんども聴かされるより、新しい歌を聴きたいはず。マエキタさんと僕がやっていることは、社会性を伴うコミュニケーションの歌のアレンジをアップデートさせようということではないかと自惚れ半分で思っている。

 

8月30日

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青山アニエスベーでのオルガノラウンジ+松本力

久々に日曜日らしい日曜日。ゆっくり雑誌を読んで、茶店でお茶しながらノートにつらつら思い浮かぶことをメモして、夕方青山のアニエスベーに、オルガノラウンジがアニメーション作家・松本力と共に行うライブを観にいく。音響系吟遊詩人3人組と呼べる、エレクトロニカと歌ものの見事な合致を目指す彼らの東京でのライブは、なるべく足を運ぶようにしていて、彼らのアルバム『cos mos』(傑作!)の推薦コメントも書いている。

アニエスベーのパリコレの音楽を担当したことがきっかけで、今回、青山店のリニューアルオープンを記念してのライブイベント。店内は立錐の余地もないほどの客で埋まり、ライブは彼らがパリコレで演奏した曲から始まり、途中、松本さんの十八番のフリーキーなパフォーマンス(「アニエス、アニエス」との連呼が笑えた)をはさみ、また緻密な演奏に戻っていく。アンコールもあり、インストアライブとしては出色の出来。

終演後メンバーに挨拶して、青山のギャルソン本店、そしてスパイラルビルで半沢健さんの写真展を観て、渋谷のタワーブックスへ。いつものごとく洋雑誌をまとめ買いをするが、例の洋販ブックサービスの倒産問題がここにも響いている。そう、いくつかのお気に入りの洋雑誌が入荷していないのだ。悲しい。毎回、持ち帰るには重すぎるので宅急便で送ってもらうのだが、今回は、その量がうんと減る。店員に聞いたところ、洋販が扱っていた雑誌の入荷のメドは立っていないという。日本は海外の主要雑誌も手に入らないような国なのかと思うと、嘆かわしいやら頭に来るやら。この嘆きは舶来礼賛ではない。文化は内と外との活発な交流によってこそ発展するもの。最近の日本の映画チャートは上位がほとんど邦画で、音楽マーケットもかつてないほど邦楽が占め、さらに洋雑誌も入ってこないとなると、日本の文化の未来はどうなるのかと危機感を通り越して恐怖感すら覚える。まずは洋販の問題は深刻だ。書店、読者関係で連帯して第二の洋販を立ち上げることはできないものかと夢想する。

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寄稿家プロフィール

すがつけ・まさのぶ/編集者。元『コンポジット』『インビテーション』『エココロ』編集長。出版からウェブ、広告、展覧会までを“編集”する。近年編集した本は『六本木ヒルズ×篠山紀信』、マエキタミヤコ『エコシフト』、森山大道『フラグメンツ』など。ウェブでは坂本龍一のレーベル「コモンズ」のディレクションを手がける。マーク・ボスウィック写真集『シンセティック・ヴォイシズ』で、NYADC賞銀賞受賞。