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インディペンデント編集者のTOKYO仕掛人日記

第9回:「ライフスタイル」と「カルチャー」
菅付雅信
Date: August 05, 2008

7月某日

この7月は、手がけた本が3冊発売という、自分としてはちょっとしたリリースラッシュ。前回この連載で紹介した大地を守る会の『大地を守る手帖』に続いて、自分の中ではライフスタイル系と言える本が2冊、下旬に発売となった。

 

大地を守る会の『大地を守る手帖』の色校と束見本
『畑のある生活』と『ヨガから始まる』

ひとつは、伊藤志歩さんの『畑のある生活』(朝日出版社 1200円)。有機農家を選んで野菜を買うインターネットのセレクトショップ「やさい暮らし」の主催者による初の著書。
いま、若い人々によるオーガニックな農家が話題になり、レストランやスーパーも生産者名をブランド的に扱う時代になっている中、ネットを駆使した農家からの直接宅配も急増している。そんなエコでモダンな農業新世代を紹介し、「農」に生きる人々と交流する著者が、自給自足的な価値観を持つ新世代の農家たちを魅力的に描いた内容。巻末には農業生活スタートガイドもある。農業を志向する若者が増えていると言われる中、タイムリーな新しい食と生き方の関係を示す1冊だと思っている。

 

もう1冊は、日本を代表するヨガマスター、ケン・ハラクマさんの『ヨガから始まる』(朝日出版社 1200円)。荻窪を拠点とするインターナショナル・ヨガ・センターの代表であり、すでに千人を超えるヨガの指導者を育てたハラクマ氏の波乱に満ちた人生と、修業から得た独特なヨガ的な考え方を綴った1冊。「ヨガはトレーニングではなく、生き方です」とのテーマのもと、身体のエクササイズの本ではなく、ヨガの考え方を伝える読み物としてのヨガ本。つまり、身体ではなく、頭を柔らかくする本と言えばいいか。
また新潮文庫のYonda?キャンペーンなどで人気の100% orangeのイラストによる、ヨガの基本ポーズの解説も収録している。

 

いままで僕はカルチャー系の編集者だと認識され、自分でも基本はそうだと自覚している。しかし、これら広義のライフスタイル系の題材が増えており、かつそれらに編集の未来を感じている。カルチャーに未来がないわけではまったくない。ただ、もっと直接、身体や食に関わるところから新しいライフスタイルカルチャーが生まれ、胎動している。これらの本作りはそう感じさせてくれた。刊行してまだ1週間ほどだが、2冊とも実に好反応。ハラクマさんの本は早くも増刷が決定した。

 

7月某日

ディレクションを手がけるH.P.France(アッシュ・ぺー・フランス)のウェブの仕事で、ノゾミ・イシグロ特集をやることに。そのため、日本で彼の服を最もたくさん扱い、たくさん売る新宿ルミネエストの「デスティネーション・トーキョー」に、イシグロさんと彼の熱心なファンに集まってもらい、イシグロ・マニアの生態を撮影した。

 

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新宿歩行者天国でのイシグロさん+イシグロ・マニア。真ん中の白いTシャツの男性がイシグロさん。

今回、撮影とイシグロさんとの対談を、シトウレイさんに依頼。シトウさんは『STREET』『FRUiTS』『TUNE』編集部(いずれもストリート編集室発行)の元編集者兼カメラマン。モデルとしても活躍する、ファッション業界では注目の存在だ。この7月にフリーになったばかり。実はイシグロさんの第1回目のショウにモデルで出演した経験も持つ。

 

新宿での撮影は、今年の秋冬のイシグロさんの服を着たイシグロ・マニアな顧客とイシグロさんが街を練り歩き、それをシトウさんがフットワーク軽くカメラに収めるもの。それにしても炎天下気温35度の新宿の路上で秋冬物はかなりの暑さ(オーダーしながら、自分は想像だけでかたじけない)。

にも関わらず、皆、実に楽しそうに練り歩く。もちろん、皆汗だく。そこに正しいファッション馬鹿の志の高さを見た。

 

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イシグロさんとシトウさん

その撮影の数日後、今度は代官山のマキネスティコーヒーで、イシグロさんとシトウさんの対談を収録。「服だけには興味がない」「服だけを見せてもつまらない」「でも、パンクのようで、実はまっとうな服だと思っている。無意味な装飾は一切ないから」など、訥々としかし雄弁に、彼はイシグロ美学を語る。「東京の人に着てもらう服を作っている」と彼は言う。しかし、この強い服が似合う人はそう多くはいない。イシグロさんの服は、東京のファッション馬鹿の本気度を試している。

Sugatsuke Office http://www.sugatsuke.com

寄稿家プロフィール

すがつけ・まさのぶ/編集者。元『コンポジット』『インビテーション』『エココロ』編集長。出版からウェブ、広告、展覧会までを“編集”する。近年編集した本は『六本木ヒルズ×篠山紀信』、マエキタミヤコ『エコシフト』、森山大道『フラグメンツ』など。ウェブでは坂本龍一のレーベル「コモンズ」のディレクションを手がける。マーク・ボスウィック写真集『シンセティック・ヴォイシズ』で、NYADC賞銀賞受賞。