
6月某日
去年暮れから関わっていた、大地を守る会の本『大地を守る手帖』(築地書館 刊 7月中旬発売)がようやく校了。大地を守る会は、有機食品宅配のパイオニアとして知られる会社でありNGOでもある。7月に社名変更やロゴなどを一新するリブランディングを行うことになり、それと連動する大地を守る会のコンセプトブックの編集を依頼され、半年間ほぼ連日作業を続けてようやく手を離れる。

このリブランディングのディレクションには「100万人のキャンドルナイト」や「ほっとけない世界のまずしさ」キャンペーンの仕掛人でもあるマエキタミヤコさんが、ロゴや会社のトラックまでを全部デザインし直すトータルアートディレクションには、六本木ヒルズのCIやダミアン・ハーストの作品集で知られるジョナサン・バーンブルックが関わり、本のアートディレクションにkiddの矢部綾子さん、イラストレーションを100% orange、写真を羽金和恭さん、小川剛さん、宗野歩さん、寄稿者に分子生物学者の福岡伸一さん、料理研究家の根本きこさん、音楽家の加藤登紀子さんという第一線の方々が参加してくれた。
30年以上の長きに渡って日本の有機食品に取り組む「大地を守る会」のユニークな活動を伝えると共に、オーガニックブームの決定打的なオーガニック食生活ガイドブックを目指したこの本。文庫本サイズのハードカバー、208ページ(付録含む)オールカラーというポップかつ高級感ある特殊な仕様で、大地を守る会の有機食品の撮り下ろしの写真、描き下ろしのイラストとオリジナルのテキストで、魅力的に紹介することを意図した。
大量の有機食材の撮影や、有機農法の農家や食品業者、それらを扱う流通や飲食店の取材など、有機食品を巡る魅力的な人々との触れ合いが実に興味深かったこのプロジェクト。編集作業で疲れても、撮影現場や取材先でもらって帰る有機食品を食べると、てきめん元気になる。僕らは食べものによって生かされている。そんな当たり前のことを、強く実感する本づくりだった。
6月某日
1泊2日で群馬県嬬恋村(つまごいむら)にロケ。某雑誌の別冊で、エコをテーマにしたファッション撮影の編集を担当し、大自然を感じさせる場所で撮影しようと、標高1000メートル以上の高地に訪れた。撮影はコンテンポラリー・プロダクションの信藤三雄さん、モデルは最近女優としても活躍中の高橋マリ子さん。信藤さんが雑誌全体のアートディレクションを務めるのだが、是非これは自分でも撮影してみたいということで、撮影も自ら買って出る。最近はめっきり自分で撮影することが増えたという信藤さん。このロケもアシスタント2名にてきぱきと指示を出し、大型のストロボを駆使しての撮影。

この嬬恋村は、プリンスホテル・グループの様々な施設や、無印良品のキャンプ場などもある一級の避暑地。澄み切った空気がなんとも心地よい。高橋マリ子さんの出身地でもあるサンフランシスコのヒッピーの現代的解釈をテーマに、主にエコなブランド、デザイナーを中心にしたスタイリングは兼田サカエさんによるもの。メイクのkaoriさんがベジタリアンでもあり、健康意識、エコ意識が高いスタッフが集まったため、撮影中もそういう話題が飛び交う。
撮影の前後に信藤さんと結構話し込む。5月に横浜で行われた「第4回アフリカ開発会議」と連動した横浜BLITZのコンサートにも積極的に関わった信藤さん、「政治的な方法ではなく、僕は本当に世界を変えたいんですよ」との言葉が印象的だった。
このように、「世界を変えよう」と高らかにいう人たちが周りに増えている。食の力で、クリエイティブの力で世界を変えること。何が変えられるかはわからないが、そういうポジティブな人たちと一緒に仕事をするのは喜びだ。ポジティブでいるということは、覚悟のいることでもある。そして覚悟がある人だけが、思いを持続する。
Sugatsuke Office http://www.sugatsuke.com
寄稿家プロフィール
すがつけ・まさのぶ/編集者。元『コンポジット』『インビテーション』『エココロ』編集長。出版からウェブ、広告、展覧会までを“編集”する。近年編集した本は『六本木ヒルズ×篠山紀信』、マエキタミヤコ『エコシフト』、森山大道『フラグメンツ』など。ウェブでは坂本龍一のレーベル「コモンズ」のディレクションを手がける。マーク・ボスウィック写真集『シンセティック・ヴォイシズ』で、NYADC賞銀賞受賞。