
4月某日

今年は図らずも食に関する編集の仕事が増えている。現在、4冊の食にまつわる本が進行中。そのうち3冊が広い意味でオーガニックに関するものだ。ちなみに、オーガニックがブームと言われて数年ほどになるが、未だに日本の有機食材の普及率はわずか1%! つまり我々が口にしている食材の99%は、化学肥料や農薬まみれで作られているのが実情なのだ。
これまで手がけた、雑誌『エココロ』の創刊、ヴィーガン(純菜食主義)料理のカフェエイトによる『VEGE BOOK』1〜3(リトルモア)などは、実際に自分のパーソナルな関心と結びついている。ときに肉や動物性食材も食べる自称“インチキ・マクロビ”として、こういう本があればいいなとか、この人を本にしてみたいなと思うことが多々あり、結果、食に関する本の仕事が増えていった。食の世界の賢人や達人は、実にユニークな世界観/人生観を持つ人が多く、そこらのミュージシャンやファッション・デザイナーと話すよりも、ためになることがしばしば。だから、こういった人たちとの共同作業はやめられない。
さて、そんな自分の関心と仕事の接点としての食関係の編集の中で、7月に発売予定のとある本の撮影を連日行っている。
多様な有機食材を遊び心たっぷりで撮影しようというこの企画。撮影はスチルライフの巨匠、羽金和恭(はがね・かずやす)さん。大根、トマト、にんじん、牛肉、豆腐などを羽金さんがまるでオブジェのように遊び心いっぱいに撮影。大量の食材の中から選び抜かれた美男美女な代物を切ったり、穴を開けたり、一部焼いたり、溶かしたりと、手練手管を駆使した食材のインスタレーションが出来上がる。
撮影中もスタジオで残りの食材をつまみ食いし、昼、夜と出前の弁当を食べ、撮影後は食材の残りを持ち帰って家で食べと連日の撮影で見事にメタボる。食は楽しく、食は恐い。
4月30日

ファッション週刊誌『WWDジャパン』の雑誌特集号(5月26日発売)のため、編集者の後藤繁雄さん、クリエイティヴ・ディレクターの箭内道彦さんと雑誌を巡る座談会をやることに。後藤さんとは何度も仕事をしており、自分の著書『東京の編集』にも登場してもらっている。箭内さんは以前『コンポジット』で連載「箭内道彦のプレゼン王」をお願いしていたので旧知の仲ではある。しかし、この三人で一堂に会して喋るというのは初めてなので、楽しみにしていた企画だった。
収録会場は、箭内さんが期間限定で渋谷パルコ・パート1の7階にオープンした「風とロック BAR」。本来、誌面のための座談会ではあるが、一般の客が見まもる中で話をすると言う一風変わった座談となる。箭内さんはここで連日連夜トークショウをやっており、この日もこれが2本目という。箭内さん、生き急いでいます。
座談会は、三人それぞれの雑誌原体験から始まり、インタビュー論、今注目の雑誌、雑誌ならではの価値、そして雑誌のこれからに関する話となる。後藤さんが女性誌『ViVi』の異常な詰め込み密度を讃えていたり、あれだけブログを展開している箭内さんがインターネットはなくなればいいと暴論を吐いたりと、意外な発言が連発され、話は2時間を超えた。
その発言の詳細は『WWDジャパン』で確かめてほしいが、個人的に一番興味深かったのは、編集者の現在の役割に関するくだり。後藤さんと僕が出版物の編集を軸足に外足を展覧会のディレクションや企画、ウェブなどに広げた活動をしているように、箭内さんは広告のディレクションを軸足に、雑誌の編集から数多くの執筆、誌面のディレクションなど編集に外足を広げている。僕が思うに、最も現在形の編集をやっているのが箭内さんなのだ。大手の社員編集者とは違う編集の自由なダイナミズム、そんな動きの一翼を担えればと改めて自覚した夜となった。
Sugatsuke Office http://www.sugatsuke.com
寄稿家プロフィール
すがつけ・まさのぶ/編集者。元『コンポジット』『インビテーション』『エココロ』編集長。出版からウェブ、広告、展覧会までを“編集”する。近年編集した本は『六本木ヒルズ×篠山紀信』、マエキタミヤコ『エコシフト』、森山大道『フラグメンツ』など。ウェブでは坂本龍一のレーベル「コモンズ」のディレクションを手がける。マーク・ボスウィック写真集『シンセティック・ヴォイシズ』で、NYADC賞銀賞受賞。