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インディペンデント編集者のTOKYO仕掛人日記

第5回:デザインと「自己」「表現」の関係
菅付雅信
Date: April 08, 2008
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青山ブックセンター本店のトークショウ。左から僕、古平さん、平林さん、水野さん。

3月8日

青山ブックセンター本店で、自分が編集を手掛けた『PAPER SHOW』(毎日新聞社)の刊行を記念して、「紙の新しいコミュニケーションとデザインの可能性」というトークショウを行った。出演したのは、アートディレクションを手掛けた、古平正義さん、平林奈緒美さん、水野学さん、そして自分の4名。ネットの予約で完売していた席は立ち見も出る盛況で、観客の多くが手元にメモ帳とペンを握りしめていて、その気概が嬉しい。

この本は、去年2007年の『竹尾ペーパーショウ』を1冊の本にまとめた代物。展覧会は、26種類のファインペーパーを使って、26人の国内外のトップクリエイターが、丸の内界隈の26のショップ/企業とコラボレートした26種類の紙のクリエイションを展示するというややこしいことを行ったのだが、その実際の26種類の紙のクリエイションを本に綴じ込むという構成に試行錯誤を繰り返し、ようやくカタチになった1冊。最新の紙見本としても、クリエイターズファイルとしても楽しめるように意図した。印刷物としては、かなり例のない仕上がりになっているのではと自負している。

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『PAPER SHOW』(毎日新聞社)

このトークショウは、この本を起点に始まったのだが、「デザインとは何か?」を巡るかなり真摯かつ活発な意見の交換となった。古平さんの「デザインとアートとの違いは何か、それはデザインは仕事で、アートは表現」という、この中で一番アーティスティックだと思われている人物らしからぬ発言があり、それを受けて、「デザインと自己表現の違い」の話になり、壇上の多くが「自己表現に興味がない/したくない」という話になったのが興味深かった。自分も「編集=自己表現」とはまったく思っておらず、むしろ編集は自己表現ではないから面白いと思い、やっているからだ。

でもデザインも編集も、そこになにがしかの自己や表現が入ってくる。その自己と他者、仕事と個人性のせめぎ合いが面白く、かつ悩ましい。このような知的な丁々発止のトークショウは観客も何かを教えられるのだろうが、喋り手もそこで何かを教えられる。

 

3月10日〜26日

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3月14日 シアタープロダクツのショウ。六本木スタジオモーリス

東コレの季節が始まった。今や正式名称は『東京発 日本ファッションウィーク』という、いかにも行政的なネーミング! というのも経済産業省が資金面で支援に乗り出しており、6回目となる今回は、新人のデビューショウが多いのが特徴。ミュージシャンや作家と同じく、デビュー作はその人の本質がストレートに出ていることが多いので、意図的にデビューショウをなるべく観るように、連日ショウ会場に通う。

観たのは、ヒデノブ・ヤスイ、ゼチア、モトナリ・オノ、ミキオ・サカベ、ネ・ネット、マトフ、アグリ・サギモリ、スズキタカユキ、ソマルタ、シアタープロダクツ、Fur Fur、ナオキ・タキザワ、メルシーボークー、Y’s Red label、サトルタナカ、この中で6つ(ヤスイ、ゼチア、オノ、サカベ、サギモリ、Fur)がデビューとなる。

新人デザイナーは海外の有名ファッション校卒業生が多く、全体に技術は高い。しかし、大人しいなというのが率直な感想。チャレンジングな感じがしない。デビュー作でチャレンジをしない表現者は、その後もそれほど大きなチャレンジをしないと僕は考えている。その懸念を笑い飛ばすような結果を出して欲しいものだが。

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3月11日 ネ・ネットのショウ。恵比寿リキッドルーム

個人的に一番良かったのはネ・ネット。映画の『ドニー・ダーコ』からインスパイヤされたのか、ウサギを不気味なモチーフとして使いつつ、カジュアルさとハイモード感の安易でない合体を表現し、東京ならではのファッションを感じさせた。ヨーロッパ的なラグジュアリーでもなく、アメリカ的なカジュアルでもない、第3の道。東京ファッションの可能性は、そこにあるはず。ネ・ネットの会場で会った大編集者の淀川美代子さん(元『オリーブ』『アンアン』『GINZA』編集長。僕の著書『東京の編集』にも登場)が、東コレは応援するつもりで観ないといけないと僕に語る。「それは、パリコレは完成形、東コレは可能性だからよ」。いい言葉だと思う。

Sugatsuke Office http://www.sugatsuke.com

寄稿家プロフィール

すがつけ・まさのぶ/編集者。元『コンポジット』『インビテーション』『エココロ』編集長。出版からウェブ、広告、展覧会までを“編集”する。近年編集した本は『六本木ヒルズ×篠山紀信』、マエキタミヤコ『エコシフト』、森山大道『フラグメンツ』など。ウェブでは坂本龍一のレーベル「コモンズ」のディレクションを手がける。マーク・ボスウィック写真集『シンセティック・ヴォイシズ』で、NYADC賞銀賞受賞。