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インディペンデント編集者のTOKYO仕掛人日記

第4回:怪物的なる編集者と、偉大なるスタイリスト
菅付雅信
Date: March 03, 2008
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小黒一三さん。J-WAVEのスタジオにて。

2月14日

午前10時から、六本木ヒルズのJ-WAVEへ。『ソトコト』編集長の小黒一三さんが司会を務める帯番組『LOHAS TALK』のゲストに招かれる。去年暮れに出した自分の本『東京の編集』で小黒さんを取材させていただいており、今回は逆に自分が質問を受ける立場になる。話は『東京の編集』のことから始まり、「俺は編集者に興味がある奴はそんなにいないと思ったから、この本は絶対売れないと思っていたけれど、間違っていた。最近は、俺が売れないなと思うものほど売れる」と彼。さらに「同じ慶応で同い年の見城徹(幻冬舎代表取締役)は資産を作ったけど、俺は借金を作った。アリとキリギリスだな」など小黒節全開。さらに中国人とのヤバイ合弁話、エセ・エコな芸能人批判など、オンエアしていいのかためらうようなヤバ目の話が続出で、ディレクターの桜井さんは横で笑いっぱなし。

収録後、心配になり「大丈夫なんですか?」と桜井さんに聞くと、「いつも倍の長さで収録して、半分しか使えないので、もう慣れました」と笑顔で返答。勇気のあるディレクターは、ぜひ小黒さんを生放送で起用して、この怪物的編集者の毒舌を電波に乗せて欲しいと思う。

※ちなみにこの回のオンエアは3/3(月)〜7(金) 20:40〜20:50 毎回10分5日間の予定。

 

2月16日

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シネマート新宿の楽屋で。左から伊勢谷友介さん、北村道子さん、菊地凛子さん、浅野忠信さん。

日本を代表するスタイリスト、北村道子さんの映画衣裳の作品集『衣裳術』(リトルモア)がようやく完成。その発売を記念して、北村さんの衣裳が特に印象的な代表作4本の上映と、北村さんと縁のある俳優たちとのトークショーを盛り込んだイベントを行った。『北村道子 衣裳術 特集上映』と題したこの催し、場所はシネマート新宿で、オールナイトで上映したのは『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』『アカルイミライ』『双生児』『それから』と、いずれも日本映画界で異彩を放つ作品ばかり。トークショーは、北村さん、浅野忠信さん、伊勢谷友介さん、そして飛び入りゲストで菊地凛子さんという豪華なメンツ。不肖、自分が司会という役回りを引き受ける。

トークショーが始まる前、基本的に人前で話をするのを極端に嫌う北村さんが「今日は私は喋らないから、浅野君と伊勢谷君が喋って」と楽屋で宣言して、司会役の僕は焦ったが、そこに菊地凛子さんが元々映画を観るつもりで来館しており、彼女に「私の代わりは凛子に任せた!」と、急きょ菊地さんも加わった4人+僕で話をすることになった。

上映に先立ってトークショーを開始。チケットは即完売しただけあって、会場の熱気を感じながら壇上へ。3人の俳優が思い思いに、北村さんとの独特なコラボレーションについて愛を込めて語ってくれる。浅野さんは「北村さんに出会って、初めて映画の衣裳屋のものではない衣裳を着せてもらった。それからずっと信頼してます。どんなにぶっ飛んだカッコでも着れないと思ったことはない」。伊勢谷さんは「現場では、北村さんの衣裳は強いから、他のスタッフが“これはちょっと!”と言うことも多くて、俺が“いや、これしかないでしょ!”ってかばうのが大変なんですけど(笑)」。菊地さんは「私の名前を“凛子”と付けてくれたのも北村さん。いつもいっぱいアドバイスをいただいている」。

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北村道子『衣裳術』(リトルモア)

3人の熱いトークに、北村さんも「彼らは、群衆の中に混じっても、混じってこそ輝くような人たち」とようやく喋りに乗ってきたところで残念ながら時間切れ。

トークの後は、皆で近くの居酒屋で軽い打ち上げ。このトークショーのためにわざわざカナダの撮影現場から帰ってきてくれた伊勢谷さん、翌週アカデミー賞の授賞式に出発する浅野さん、最近、海外での撮影続きの菊地さんというなんとも国際的な日本の俳優たちの近況報告に花が咲いた。

打ち上げからすぐに劇場に戻り、上映途中の『ジャンゴ』から最後の『それから』までを一気に観る。この『衣裳術』という本は企画から5年かかったが、北村さんは『それから』から始まって20年以上の年月、映画の衣裳に取り組んでいる。彼女の才気ほとばしる4作を観ながら、ちょっとしたタイムスリップを味わい、彼女の偉大さを再認識する。上映終了は朝の6時50分。学生時代以来のオールナイト上映体験。自分の20年前をしばし振り返り、少し感じ入るものがある朝の新宿だった。

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寄稿家プロフィール

すがつけ・まさのぶ/編集者。元『コンポジット』『インビテーション』『エココロ』編集長。出版からウェブ、広告、展覧会までを“編集”する。近年編集した本は『六本木ヒルズ×篠山紀信』、マエキタミヤコ『エコシフト』、森山大道『フラグメンツ』など。ウェブでは坂本龍一のレーベル「コモンズ」のディレクションを手がける。マーク・ボスウィック写真集『シンセティック・ヴォイシズ』で、NYADC賞銀賞受賞。