

1月21日
ファッションカンパニーH.P.FRANCE(アッシュ・ペー・フランス)のウェブサイトのためのファッション撮影。サイトは3月1日に全面リニューアルを行う予定で、そのディレクションを担当している。ファッション撮影といっても、今回は生身のモデルではない。18体の美男美女のマネキンを集めて、特別にメイクを施してもらい、春夏のモードを着せて撮影。
撮影場所は、埼玉県草加市の工業団地の中にあるマネキン工房。エアコンなどそんなラグジュアリーなものはないので、屋内とはいえ外よりも寒い。メイクを施し、カツラを付け、服を着せるとぐっと人間ぽくなるのは、ちょっとしたマジック。すべて一点モノで、ここからシャネルなどの高級ブティックに卸しているという。工房の方の「作っているほうも一体一体にすごく愛着があるんですよ」との言葉にもうなずける。撮っていて、ときめくくらい魅惑的なマネキンもある。人形愛とはこういうことか。四谷シモンやハンス・ベルメールの偏愛が初めて理解出来た。
1月23日
今年、個人的に一番観たいと思っていた映画『パラノイド・パーク』の特別試写会へ。ガス・ヴァン・サント監督によるこの新作は、彼の最近の『エレファント』『ラストデイズ』などの流れを汲む、斬新な青春モノ。彼の故郷であり拠点であるポートランドの街を舞台に、16歳の少年(相変わらず美形好きのヴァン・サントらしい美少年ゲイブ・ネヴァンスが好演)が誤って人を殺してしまい、さて彼はどうするか、という物語。クリストファー・ドイルのうっとりするようなカメラワークと、音響系からニーノ・ロータまでを見事にミックスアップした音楽、そしてそれらを絶妙にアンサンブルさせた編集のマジックも相まって、最も美しく、カッティングエッジな青春映画が誕生した。ガス・ヴァン・サントはまぎれもなく映画を進化させている。実は、以前から暖めていたアイデアが『パラノイド・パーク』で見事にやられており、今更二番煎じになってしまうなあという悔しさが試写後の一番の感想。試写の帰路、あまりに悔しいので禁酒の誓いを破ってしまった。
1月24日

急きょ、篠山紀信さんからの依頼で、イタリアの『ルオモ・ヴォーグ』のために、来日中のインテリア&プロダクトデザイナーのマイケル・ヤングの撮影をサポート。去年のパリでの大型個展以来、すっかり海外の仕事が増えている篠山さん。『ルオモ・ヴォーグ』でも村上隆を撮るなど、仕事が続いている。あまりに急な『ルオモ』からの依頼で、僕も篠山さんもバタバタで撮影場所などを押さえ、前日に本人の国際携帯電話を鳴らして詳細を確認と、とてもメンズマガジンの最高峰とは思えない火事場の舞台裏だったが、マイケルはいたって気さくな人物で、直前に許可をもらったE&Yのモダンなショールームで、和気あいあいと撮影は進む。篠山さんは、パリの『Purple』『Paradis』でも大きなページが組まれるなど、御大60代を越えて海外でブレイク中。

その後、坂本龍一さんのレーベル「コモンズ」のウェブマガジン用のコンテンツとして、口ロロ(クチロロ)の三浦康嗣(みうら・こうし)さんとFantastic Plastic Machineの田中知之さんとの対談の収録を行う。ふたりは、田中さんが自分のラジオ番組に三浦さんを招いたことから面識がある。田中さんいわく、クチロロの『GOLDEN LOVE』は、久々に邦楽で共感を覚えたアルバムだったという。ポップスとクラブミュージックの境界とはなにか、カッコよくてポップとはなにか、そんなポップミュージックの本質に迫る話となった。
対談終了後、六本木のT&G ARTSでの篠山さんの写真展『隠花な被写体』のオープニングに。女優の小島可奈子(こじま・かなこ)を被写体にしたモノクロのヌード写真展。『ルオモ・ヴォーグ』から女優のヌードまでを1日に横断するのが篠山さんならでは。会場に、昼間撮影したマイケル・ヤングも訪れてくれ、その作風の幅の広さに面食らいつつも、日本旅館で和服がはだけた和風美人のプリントを眺めて「なんて羨ましい写真家なんだ」と嫉んでいた。
Sugatsuke Office http://www.sugatsuke.com
寄稿家プロフィール
すがつけ・まさのぶ/編集者。元『コンポジット』『インビテーション』『エココロ』編集長。出版からウェブ、広告、展覧会までを“編集”する。近年編集した本は『六本木ヒルズ×篠山紀信』、マエキタミヤコ『エコシフト』、森山大道『フラグメンツ』など。ウェブでは坂本龍一のレーベル「コモンズ」のディレクションを手がける。マーク・ボスウィック写真集『シンセティック・ヴォイシズ』で、NYADC賞銀賞受賞。