
11月13日(火)

ここ3ヶ月間、自分の初の、著作らしからぬ著作に没頭していた。タイトルは『東京の編集』(ピエブックス 定価3300円 12月10日発売)。東京の名物編集者11名にロングインタビューをして、彼らの手がけた「作品」の図版も約1000点掲載し、わかりにくいとされる編集者の実情と彼らの編集術、生き方、そして作品を視覚的かつ活字的に伝えようとするものだ。春から準備し、6月から8月にかけて取材をして、9月から執筆を始めて11月頭に脱稿。同時に膨大な資料や図版の収集、複写、整理をやっていたので、かなり大変な作業となった。
登場していただいたのは、ページ順に幻冬舎代表の見城徹氏、マガジンハウス顧問の淀川美代子氏、編集者・クリエイティブディレクターの後藤繁雄氏、木楽舎代表/『ソトコト』編集長の小黒一三氏、『ハイファッション』編集長の田口淑子氏、宝島社編集局長の関川誠氏、元『リラックス』編集長/現『クウネル』編集部の岡本仁氏、スーパーエディターの秋山道男氏、朝日出版社第2編集部の赤井茂樹氏、編集者/作家の森永博志氏、編集者の川勝正幸氏の11名。
いずれも自分が尊敬する編集の大先輩ばかりで、彼らの仕事場を訪れての取材はまるで臨時の編集学校といった趣となった。皆さん、言葉に長けた人たちばかりなので、語る、語る。その膨大なテープ起こしからまとめた原稿が約20万字、掲載した図版も約20箱の段ボールから1500点を複写した後に選んだ1000点と、図らずも今まで自分が編集したどの本よりも文字量も図版の数も多い一冊となった。
しかも全員が編集者なので、原稿チェック、レイアウトチェックで直す、直す。校了日まで直しが入った人が半分。さらに「まだ直したいから、大日本印刷の担当者を教えてくれ」とまで言う人がいて、編集者を相手に本を作る事を甘く見ていたと反省。おかげで校了までの3週間連続徹夜という不名誉な記録を更新。一応毎日少しは寝るのだが、土日を含めて毎日朝から仕事を始め、日の出まで仕事しているという日々が続いた。
しかし、校了してみると名残惜しい気持ちがするのは、本当に編集馬鹿の証か。この本は、そんな編集馬鹿で永遠の編集小僧である自分から、今の、そして未来の編集小僧たちへ贈る福音書であり、受難曲でもある。
11月19日(月)

銀座シャネルビルのネクサスホールで開かれた、篠山紀信+菊地凛子の写真集『Rinko』発売記念の写真展オープニングに伺う。
菊地凛子さんとは、彼女が今の名前になる前からのつき合いがある。以前『コンポジット』誌によく登場してもらっていたからだ。映画『バベル』のオーディションの頃にもファッション撮影のモデルで出ていただき、その映画への意気込みを熱く語っていたのを昨日の事のように思い出す。
今回、篠山さんが菊地さんをハワイ・マウイ島で撮影したこの本は、篠山さんをはじめ、アートディレクションの中島英樹さん(僕の『東京の編集』も彼のデザインによる)、スタイリングの北村道子さん、と友人たちが参加していたので、なおさら興味深かった。写真は、撮影現場での篠山さんや北村さんの掛け声が聞こえてきそうな、テンションの高い仕上がり。さらに菊地凛子さんは、シャネルのクルーズラインの世界キャンペーンのモデルにもなっている。快挙!
オープニングで久々に会った彼女は、いまや篠山さんだけでなく、ブルース・ウェーバーやアニー・リーボヴィッツ、ピーター・リンドバーグといった世界のトップフォトグラファーに撮影されるセレブのひとりとなったにも関わらず、相変わらず屈託なく話しかけてくれる。会場で会った彼女の事務所アノレの社長・佐藤さんは「ウチの役者(菊地さん、浅野忠信、加瀬亮など)は、基本的に映画ばかりでテレビに出ないので、収入は広告頼り。大変ですよ」と苦笑していたが、是非その頑固さで貫いて欲しいと思う。
Sugatsuke Office http://www.sugatsuke.com
寄稿家プロフィール
すがつけ・まさのぶ/編集者。元『コンポジット』『インビテーション』『エココロ』編集長。出版からウェブ、広告、展覧会までを“編集”する。近年編集した本は『六本木ヒルズ×篠山紀信』、マエキタミヤコ『エコシフト』、森山大道『フラグメンツ』など。ウェブでは坂本龍一のレーベル「コモンズ」のディレクションを手がける。マーク・ボスウィック写真集『シンセティック・ヴォイシズ』で、NYADC賞銀賞受賞。