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BankART1929代表のTOKYO仕掛人日記

第6回:横濱夢十夜 vol.6 ――「Landmark Project III 国道16号線を越えろ!←野毛にいこう」の夢解説
池田修
Date: May 26, 2008

山に登る夢をみた。それほど高くもない山だ。緑もあるようだが、色が薄く周りに空間がとれない。小石を踏みしめる音と自分の革靴のステップだけが繰り返される。どこにいこうとしているのかは判然としない。

緑のケージが突然現れる。まるで街の中の動物園のようだ。楽園のようにワニやオオムが生息している。ここだけが、原色で解像度が高い。映し出されるように緑が生い茂っている。

夜も早いというのに腹を出してごーごーいびきをかいて眠っているたくさんの若者がいる。襲われないか、風邪をひかないか少し心配だが、声をかける勇気もなく、温度がわからないので毛布をかけてあげていいのか決められない。どうかもう少し遅く眠って。

 

駅前ビル「ぴおシティ」の空きスペースを使った展示(高橋啓祐〔ニブロール〕)
同上。元喫茶店内(泉太郎のインスタレーションの一部。ごみ箱の底に移る映像)

眠りたい。歩いているのがすこぶるしんどい。歩きながら眠っている。羊が1匹、羊が2匹、羊が10匹、羊が100匹と国道を横切っていく。

愛おしい女の子がうつむきかげんで掃除をしている。自分が悪かったのかなと思う。自分が山を登り続けるから女の子は涙を流しているのだと。こんなことなら坂を転げ落ちていくほうが――。と、立ち止まると羊が自分の身体に入り込み飛散していく。鳥葬のように身体を食し、青空へと飛び立っていく。こっちは薄暗いのにあっちは晴れている。どこまでいったのか。

 

うつむきかげんで進んでいくと、閉まっていた店が次々と開店しはじめているのに気づく。そこは古き良き親父達のパラダイス飲食街だ。のどが乾いたので、商品が出てこなさそうなお酒の自販機に200円コインを入れる。一杯飲むが、親父達に声はかけられそうもない。


すけすけ生春巻き 当時18才の女子美大生による伝説の自主日刊誌の巻頭広告

死んだごきぶりが映像の前に立ちはだかり画面に大きな影を落としている。ゴキさんは「死んでから4年目」と自己申告してきた。店主が4年前にこの喫茶店を捨てて逃げてしまい、食べ物がなくなって死んでしまったという。死んでしまった今は元気でやっているという。閉店した喫茶店には乾いた幽霊(映像)が揺らいでいる。

 

地球を2秒ほどで一周して戻ってくると、女の子は泣くのをやめてこういった。「16号線を越えて、野毛にいってください」と。尖った山の上に野いちごがたくさんある素敵な展望台とバーがあると教えてくれたが、今は見送ることにしてまっすぐに進む。

川に飛び出した大きな大きな楼閣が続く。本物なのか? たくさんの宴が続いているようで立ち寄ってみたいが、ちょっと怖いのでそのまま進む。


「野毛マリヤビル ホワイト」の屋上(同建物内にニブロールのショップ&アトリエ・スタジオなどが展開中)

きらきら光るピンク色の摩天楼の前を通り抜けるとその向こうに、いこうとしていたような気がする峠が見える。きれいな服を売っているお店、キューティな鏡の空間、眠ってしまいそうなほこら、明るい広場を通り抜けると、そこはトマト・なす・ブロッコリー等の野菜畑。今日はこれから何をしようか? どこにいこうか? ここからは、赤い電車と川と街が見える。近くて遠い横濱の山に登る夢。

 

編注:「Landmark Project III 国道16号線を越えろ!←野毛にいこう」は、横浜で古くから続く飲食店街・野毛地区の、眠れる空間の可能性を開くプロジェクト。桜木町駅前に張り巡らされたケージ群、駅ビル「ぴおシティ」の空きスペース、 また日ノ出町駅近く、大岡川沿いに登場したBankART関連の新施設「野毛マリヤビル ホワイト」などを舞台に、さまざまな表現行為がなされる。

寄稿家プロフィール

いけだ・おさむ/1957年、大阪生まれ。BankART 1929(バンカート1929)代表、PHスタジオ代表。84年、都市に棲むことをテーマに美術と建築を横断するチームPHスタジオを発足。ヒルサイドギャラリー(代官山) ディレクターなどを経て、2004年から横浜市が推進する文化芸術創造プログラム「BankART 1929」に副代表として携わる。06年より現職。