
11月4日
とある仕事の打ち合わせのため、デザイナーの浜田武士さんが編集部へいらっしゃいました。浜田さんとのお付き合いはかれこれ4年ちょっと。日本人クリエイターを初めて特集した『+81 Vol.24』での取材が最初のきっかけ。それ以降、+81関連のプロジェクトを始めウェブサイト制作やカタログ制作など、一時期はいろいろな形でご一緒する機会が重なり、彼のデザインに対する姿勢や哲学には多くを学ばせていただきました。
当時の浜田さんの仕事っぷりは昼も夜もないほどで、ワーカホリック気味だった私ですら驚く稼働時間。しかし、2ヶ月ほど前に届いた彼のメールには「朝方に切り替えたので、以前のような深酒は無理です」と……。この日の打ち合わせ後も、朝方生活の素晴らしさを熱く語っていて、おかげですっかり啓蒙された気になりましたよ。
11月5日
雑誌のアイデンティティは、どうやって形成されるのでしょう?
昨日あたりから、そんなことをグルグルと考えていました。
売れるために企画された雑誌。
広告のために作られた雑誌。
流行を作る雑誌、流行を追う雑誌。
情報を収集して流す雑誌。
ジャーナリズムを追求する雑誌。
クリエイティヴを追求する雑誌。
さらにジャンルや読者層の細分化も進み、世の中にはいろいろな種類の雑誌が溢れています。その全てにそれぞれの観点があるので、どの雑誌が良いとか悪いとかの判断は不要だと思っています。ただ、私的な見解としては、個人の趣味趣向や自己満足だけで雑誌は作れない。たとえ作ったとしても、それは雑誌として成立しないんじゃないかと思う。やっぱり雑誌は流通してなんぼ。どんなにいい誌面を仕上げても、誰かの手に渡り、買ってもらい、ページを開いて読んでもらわなくては目的を果たすことができず、また、継続して発行していかなければ雑誌としての意味を成さないと思うんですよね。だから、読者の声はとても大切だし、クライアントさんの希望や書店さんの意見も無視できない。また、世の中の流れをある程度意識することも不可欠。そして、読者の期待にそのまま応えるのではなく、彼らの要望や期待を越える何かを提案していく使命が、雑誌にはあると思う。そんなふうに考えていくと、ひとつの雑誌が世に出て流通していくには、ありとあらゆる要素が絡んでいるんですよね(きっとそれは雑誌だけに限らず、人の手で作られ世に放たれるものはみんなそうなのかな)。

そうは言っても、10万部以上の発行部数を誇るメガ雑誌も、『+81』のようなインディペンデント誌も、すべての始まりは、その雑誌を作る編集者の心と頭の中にある思いとイマジネーション。意見、思想、情熱、好奇心、先見の識、挑戦心、ひらめき、「どんな人に読んでほしいか」「読者と共有したいことは何か」といった感情や心持ち。編集者の中でそれらがどんなバランスで混在しているか、それが、雑誌のアイデンティティを形成するベースになるのかもしれない。
なんてことを当てもなく考えてきたら、そろそろ夜が明けてきました。つんと冷たい澄んだ空気に、とても美しい朝焼けです。整理されない私の考えも、この朝焼けのように晴れ渡ればいいのにな。
11月7日


アウトドアブランドTHE NORTH FACEと+81のコラボレーション・ウェブマガジン『Think Global, Act Local.』が公開されました。
アイデアと技術により機能性を深く追求した物づくり。そこから生まれる美しく画期的な商品。そして、それらを通して「最小限で最大限を」というコンセプトを提示し続けているTHE NORTH FACE。そんな姿勢に感銘を受けてスタートしたウェブマガジンです。壮美なランドスケープ写真や、グラフィック作品のアーカイヴ、+81本誌デザインも手がけるkamikeneさんのインタビューなどもご覧いただけるので、ぜひチェックしてみてください。
11月10日

『+81 Vol.42 Beginnings on Boards issue』が発売されました! 登場するのは、エディ・スリマン(Hedi Slimane)、シェパード・フェアリー(Shepard Fairey)、Kamiなど。
今回の号では、スケートボードを始め、サーフィンやスノーボードに代表されるボードシーンを特集。それらのシーンをルーツに持つアーティストや、そこからインスピレーションを受けるアーティストへのインタビュー&作品がびっしり詰まった1冊に仕上がっています。
とはいえ、これらを“ストリート・カルチャー”という言葉で括ってしまうのは避けました。そうすることで、印象だけで敬遠してしまう人や、固定したイメージを持つ人がいるだろうと思ったから。既成概念や常識に捕われず、まっさらな気持ちで作品やインタビューの言葉を感じてもらいたかったんです。
そもそも、何事においてもカテゴリやジャンルはさほど重要ではないと思っています。それに、アートの価値は、作る人によって決まるんじゃなくて、それを見る人によって決まるものなんじゃないかと。どんなに高名なアーティストによる世間評価の高い作品であっても、見る人が何も感じなければ、その人にとっては価値のないもの。逆に、作品がいくら平凡でも、見る人がそこから何かしらの感動を得れば、尊い価値を持つ作品になる。美術界のことなど何も知らない私の単なる個人的な意見ですけども。
ともあれ、+81の最新号、どうぞよろしくお願いします。
寄稿家プロフィール
もり・なほこ/1975年東京生まれ。スノーボード三昧の青春時代を過ごす。『warp』等いくつかの雑誌編集部に在籍後、サンディエゴへ短期遊学。2003年『+81』編集部に入社。05年よりフリーランスとして同誌をメインに、『DAZED & CONFUSED JAPAN』他、様々なクリエイティブプロジェクトにてディレクションを手がける。07年5月発行『+81 Vol.36』より編集長に就任。