COLUMN

mori
  • 『+81』編集長
    森なほこ
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mori

『+81』編集長の東京編集長日記

第4回:真冬の校了
森なほこ
Date: February 18, 2008

1月11日 鋭くなったり鈍くなったり

仕事に没頭せざるをえない時期になると、とある部分の感覚がやけに鋭くなります。何か別の小さな生物が自分の中に潜んでいるんじゃないかと思うくらい、ヒリヒリしたりウズウズしたり。けど一方では、かなり鈍感になる部分もある。鈍くなるというよりは、その部分の蓋が勝手にクローズしてしまうと言ったほうが近いかもしれない。そこからは何も入ってこなくなってしまう。そうでもしないと乗り越えられないんですね。それが今の自分の力量なのだと実感している今日このごろです。

 

1月15日 浸透するメロディ

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毎号のように、入稿期間には思いきりはまるアルバムに遭遇します。新たに出会うものもあれば、既に持っていたものもあって、後者の場合はメロディや歌詞がそれまでとは違って聴こえてくる。毎晩のようにエンドレスで聴いていると単なるBGMの域を超越して、歌詞を完璧に覚えてしまい、気づけばひとりで熱唱なんてことも少なくありません。今号制作中にはまったアルバムは、大橋トリオさんの『PRETAPORTER』。切なさが伴う優しく温かい歌声にかなり癒されました。


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1月22日 トランスレーション

早朝の灰色の空から雪がしんしんと降っています……。アリナミンにいくら頼ったところで、煮詰まった頭は解放されない。心で感じたこと、心から伝えたいこと、事実と同時に感情的な部分までを適切な言葉に変換する能力がほしい。右脳と左脳を自由に行ったり来たりしたいもんだ。


1月31日 緻密な立体

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ようやく校了を迎え、フラフラのままチャリティアート展『PIECE of PEACE TOKYO』のレセプションで渋谷パルコへ。レゴブロックで組み立てられた世界遺産は、ミニチュアながらも迫力満点。5年以上前、サンディエゴにあるレゴランドを初めて訪れた時の沸点に近い興奮を、ここでも味わうことができました。この展覧会には多数のアーティストも参加していて、その中には旧友のトモ(松山智一)も。中学時代にスノーボードを通じて親交を深めた彼、現在はNYを拠点に活躍するアーティスト。『+81 Vol.37』でクラフトグラフィックを特集した際、電話越しにインタビューを試みました。最初は生真面目に質問することがくすぐったくて躊躇したけど、彼の真摯な姿勢と言葉に背筋を延ばされたことも記憶に新しいです。


2月8日 「がんばろうね」

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昨日は久しぶりの発熱でダウン。風邪をひくってことは「すこし休みなさいな」という天からのアドバイス。それに逆らってもいいことはありません。で、深い眠りから目覚めたらすっかり回復! お昼過ぎ、前述のトモが編集部へ遊びに来てくれたので、お茶をしながらお互いの近況を語り合う。自分との、世間との、見えないものとの対話と対峙。そこには答なんてないかもしれないのに、それでも問い続け、歩き続けるトモの姿は、自分にとって強い励ましになりました。そんな彼からのサプライズギフトはFTCからリリースされたばかりの美しいデッキ。ありがとう。

さて、今夜はいろいろと予定が……のはずが、Hermesのサラ・ジー展の内覧会も、Edition表参道店のオープニングも、FTCのパーティも、今日だと思っていたら全部昨日だった。まったく。

 

2月11日 白い宇宙

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久しぶりの休日にして3連休は、幼なじみのリリーが主催するパウダーツアーに参加。スノーボード歴は長いけど、スノーシューを履いてハイクしたのは今回が初めて。深く積もった新雪の中、呼吸を乱しながらの登山は想像以上に疲れたけれど、大自然の神聖な光に心も身体も浄化された気がします。ようやく辿り着いた山頂からのパウダーランは、白い宇宙をハイスピードで駆け抜けたような、壮大なショートトリップでした。


2月12日 3ヶ月に1度の小さなゴール

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本日、『+81 Vol.39』が無事に発売を迎えました。“エモーショナル・マガジン特集”と題した今回は、そのタイトルどおり、読者に何らかの感情を与え、感性を刺激する雑誌を紹介しています。ただ美しいだけの誌面、わかりやすいだけの記事、便利なだけの雑誌は、侵攻を続けるデジタルメディアに敵わなくなる日が近いと思う。求められているものを丁寧に提供していくことはもちろん大事。けれど、発信者の「これを伝えたい」という純粋な気持ちが根底に流れ、読者が共鳴できる感情が息づき、それがアイデンティティへと結びついている雑誌であるほど、強い魅力を感じます。そんな思いで特集を組んでみると、おのずとインディペンデントな雑誌が多く集まりました。ぜひ、ご覧ください。

寄稿家プロフィール

もり・なほこ/1975年東京生まれ。スノーボード三昧の青春時代を過ごす。『warp』等いくつかの雑誌編集部に在籍後、サンディエゴへ短期遊学。2003年『+81』編集部に入社。05年よりフリーランスとして同誌をメインに、『DAZED & CONFUSED JAPAN』他、様々なクリエイティブプロジェクトにてディレクションを手がける。07年5月発行『+81 Vol.36』より編集長に就任。