COLUMN

mori
  • 『+81』編集長
    森なほこ
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mori

『+81』編集長の東京編集長日記

第2回:気負いなく
森なほこ
Date: December 17, 2007

11月18日 夜が明ける寸前

最新号のリリースパーティ終了直後に和民で空腹を癒し、勢いあまってそのまま踊りに。久しぶりの頭カラッポ状態で身体がビートに溶けました。そんなこんなで、きのう土曜日はいろいろなものを浄化すべく泥のように熟眠。そして、きょう日曜日。これまた久しぶりにスケートボードで東京オペラシティのICCへ。さまざまなタイプのインタラクティブ作品と無邪気に戯れ、そうして思ったのは、シンプルなアイデアを実現させるのは、技術はもちろんだけど、柔軟な姿勢と新たな発想なんだということ。バリバリ右脳派の私ですが、最近は“それまでの自分”という壁を乗り越えるために不器用ながらも頭を使い、考えて、混乱して、整理して、また考えて……と七転八倒。これまでに感じたことのない妙な疲れ方をしています。この思想型未来探求の作業がひと段落したら、次は感じることに少しの間だけでも没頭して、自分全体のバランスを取りたいな。そんな小さな希望を胸に、帰り道は超平滑な路面でのスケート。重心をちょろりと動かすだけでグイィ〜ンとカーブするこの感じは、スノーボードのパウダーランに似たものがあって、たまりません。
さておき、これを書いているのは午前5時過ぎ。新しい週が始まります。空のグラデーションや空気の濃度が刻一刻と変わっていく様子を感応する時間帯。「明けない夜はない」とはよく言ったもんですね。まさにそのとおりだ!

 

11月20日 展示会シーズン

Maison Martin Margielaの展示会へ。
アイデアの自由さ、豊かさ、鋭敏さ、美しさ、精悍さ。
洋服が洋服以上のものに映る。
デスクでパソコンばっかいじっていても生まれないものがたくさんあるの。

 

11月22日 声が聞きたい。

先日、とあるブックストアに立ち寄った際、最新号『+81 Vol.38』を小脇に抱え、他の雑誌も物色している男性を見かけました。「ひゃ!」と思いつつ横目で観察していると、彼は他の雑誌を棚に戻し、『+81』を抱えたままレジへ向かい、お財布を出し、そして購入。その瞬間、彼に近づき抱きつき握手したい衝動が。なんとか抑えましたが、とても素敵な瞬間に立ち合った気がして、しばらくドキドキバクバク。これまでに『+81』を読んでいる人は目撃したことがありますが、購入の瞬間は初めて。ああぁ、やっぱり話しかければよかったな。もしまた『+81』の購入現場に居合わせたら必ず話しかけてみよう。「こんにちは。その雑誌を作っているチームの一員です。本当にありがとう」と。そして聞こう。「なぜ、私たちの雑誌を選んでくれたの?」と。

+81サイトにアンケートのコンテンツを新たに設けました。最新号だけでなく、お手もとに『+81』をお持ちの方。ぜひ、その号についての率直な意見を聞かせて下さい。みなさんの生の声が聞きたいです。コミュニケーションしたいんです。

 

11月25日 紅葉

木の葉が乾いて色づく匂いが、そこいらじゅうから。
黄でも橙でも赤でもない、紅い葉と書くところ、好きだなあ。

 

11月27日 アイデア

2月発売の次号『+81 Vol.39』は“雑誌特集”。そこで取材を予定している編集部のひとつに雑誌『アイデア』があります。私が初めて『アイデア』の存在を知り、そのページをめくったのは何年前だろう……。デザインやレイアウト、タイポグラフィなどについての知識は皆無だった私が、理由もわからず無性に惹かれて購入した初めてのデザイン誌。「ものを作る人」に興味を抱くようになったきっかけのひとつでもある雑誌です。私はいまも変わらず「デザインする人」でも「デザインを評価する人」でもないけれど、「デザインを見て眺めて楽しめる人」でありたいと思う。

 

12月2日 気負いなく

日々たくさんの人に出会うけれど、最近惹かれるのは「気負いのない人」。これは「やる気のない人」「諦めている人」とはまったく違う。雲泥です。自分に誠実で、健気で、しなやかで確かな芯のある人。やるべきことを理解していて、「ここぞ!」というときを知っている。必要以上に気兼ねせず、愛想も振りまかない。大きな視野でまっすぐに人や現象を捉え、そして、きちんと意見する。隣人に深く優しく、滅多に怒らない。けど、揺るがない何かを持っている人。「雨ニモマケズ」のようになってきたけど、でも、そんな「気負いのない人」は実在する。ソウイウヒトニワタシモナリタイ。

 

12月3日 ベーシスト

P-VINE RECORDSの方からの招待を受け、JAZZ FUNK EXPOへ。バンドのライブはいいですね。生の音、生のグルーヴ。そんな状況で最近よくやっているのは、ひとつの楽器の音とリズムだけに耳を集中させて身体を放任するという独り遊び。ギター、キーボード、ドラムと、どれもそれぞれに良さがあるけど、私が最も入り込むのはベース。重く深く響いてくる音を受けとめていると、自分の身体の芯の在処がわかります。それが楽しい。

寄稿家プロフィール

もり・なほこ/1975年東京生まれ。スノーボード三昧の青春時代を過ごす。『warp』等いくつかの雑誌編集部に在籍後、サンディエゴへ短期遊学。2003年『+81』編集部に入社。05年よりフリーランスとして同誌をメインに、『DAZED & CONFUSED JAPAN』他、様々なクリエイティブプロジェクトにてディレクションを手がける。07年5月発行『+81 Vol.36』より編集長に就任。