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043:from Yokohama - 横浜みなとみらい地区のシェアスペース「BUKATSUDO」の可能性
安田真子
Date: July 03, 2014

2010年頃から、日本国内で「シェア」の文化が目にみえて浸透してきた。代表的なものには、複数人で「モノ」を共有するカーシェアリングなどのサービスや、「モノ」と「場所」を共有するシェアハウスやシェアオフィスなどがあげられる。

 

近年では、そこから発展した新しい形のシェアスペースも数多く生まれ、注目を集めている。例えば、場所やモノを共有することで効率化を図れるのがシェアオフィスの魅力の一つだが、それだけではなく、空間をシェアすることによって生まれる利用者間のコラボレーション等をより重視したつくりの「コワーキングスペース」がある。主な利用者は、在宅業務の多い専門職のフリーランサーや個人起業家など。彼らは自宅やカフェでの単独作業よりも、開放的なシェアオフィスで他者から刺激を受けながら働くスタイルを選ぶ。そういった新しい働き方に合った場所が求められているのだ。

 

6月25日、神奈川県横浜市のみなとみらい地区に、シェアスペース「BUKATSUDO(ぶかつどう)」がプレオープンした。施設の一部のレンタルが開始されると同時に、10月のグランドオープンに向け、トークイベントなどが継続的に行われている。

 

地上からドックヤードガーデンを望む。左奥に見えるのが横浜ランドマークタワー | REALTOKYO
地上からドックヤードガーデンを望む。左奥に見えるのが横浜ランドマークタワー

正確な所在地は、横浜ランドマークタワーのすぐ脇にあるドックヤードガーデンの一角だ。地階のため気づかれにくい場所だが、真横にそびえる横浜ランドマークタワーは勿論、横浜美術館、横浜みなとみらいホールなどの各施設も至近で、利便性は高い。

 

30年ほど前にさかのぼると、みなとみらい地区は造船所などが立ち並ぶ工業地域だった。1983年になって、横浜市などによる「みなとみらい21」事業で再開発が始まり、埋め立て地を広げてマンションやビルを建て、現在の街が形づくられていった。その一方で、歴史的建造物を残すという意向もあったため、1990年代に三菱造船所の造船ドックが復元され、現在のドックヤードガーデンができた。国の重要文化財に指定されており、同地区の歴史を物語る存在といえる。船底部分は720平方メートルの広場になっており、プロジェクションマッピングやライブなどの会場としても使われている。

 

BUKATSUDOは「大人の部活」をコンセプトに、みなとみらい地区周辺のオフィスワーカーや居住者が普段の肩書きから離れ、趣味の活動や街づくりなどの社会的な活動を行うための場所としてつくられた。施設を運営する株式会社リビタは、リノベーションやシェアハウス運営事業を手がけており、今回は横浜市、横浜市芸術文化振興財団、三菱地所らの支援のもとで公民連携のプロジェクトを行う。BUKATSUDOプロジェクトメンバーにはNUMABOOKS、グルーヴィジョンズ、田中裕之建築設計事務所、株式会社umariらも名を連ね、デザインやコンテンツ作り、ディレクションなどに携わっている。

 

ローストの種類が選べるコーヒースタンド | REALTOKYO
ローストの種類が選べるコーヒースタンド

施設内には、「ワークラウンジ」と呼ばれる会員制の自習用スペースとコワーキングスペースのほか、最大100名収容のホール、最大24名着席可能な広いキッチン、DJブースやコーヒースタンドなどがある。工作などのワークショップに向くアトリエや、音楽・ダンス用のスタジオ、そして「部室」と呼ばれる小さなスペースも用意されている。印象的なのは、キッチンカウンターがホールの出入口に面していたり、コワーキングスペースが窓に囲まれていて外から覗けたりと、それぞれの空間が緩やかにつながっていることだ。ホールのイベント時にキッチンも使って料理をふるまうなど、いくつかのスペースを連携させて使うことで、さまざまな催しを実現することができる。

 

イベントや講座への参加、コーヒースタンドなどの利用は基本的に自由だが、スペースのレンタルにはメンバー登録が必要だ。レンタル料金の一例を挙げると、ワークラウンジは月額15,000円で、オープン時にはいつでも利用可能となる。1時間当たり500円で使い心地を試すこともできる。

 

コワーキングスペースからは隣接するキッチンのようすが見わたせる | REALTOKYO
コワーキングスペースからは隣接するキッチンのようすが見わたせる

BUKATSUDOでは、利用者みずからが主体となって活動を企画・運営し、積極的に場を盛り上げていくことが期待されている。「大切なのは、『出番』と『場所』を用意することなんです」と語るのは、プロジェクトメンバーのうちの一人で、丸の内朝大学などを手がけたumariの古田秘馬氏。利用者にとって、ゼロから新しいことを始めるのは簡単ではないけれど、ワークショップなどの「きっかけ」、そして活動のためのスペースがあれば、ハードルはぐんと下がるというわけだ。BUKATSUDOでは、既にいくつかのしかけが用意されている。

 

7月の連続トークイベント『BUKATSUDOって何?』では、施設の活用アイディアについて多分野のゲストが語る。7月26日(日)には鯵のさばき方と調理法を教わる「一日料理教室」が開催され、施設の下見ができる『内覧ツアー』も複数回開かれる。今後は、コーヒースタンドを活用したバリスタ講座や、ドックヤードガーデンでのヨガ講座、ギター講座を通して近隣レストランで弾き語りを行うなど、立地を生かしたワークショップも考案されているという。

 

6月19日のキックオフ・イベントでは、各レンタルスペースの使用例が示され、来場者が実際に参加できるワークショップ「一日体験部活」が行われた。

 

にぎやかな音楽に導かれてスタジオを覗くと、アフリカの打楽器「ジャンベ」のワークショップが開かれていたので、筆者も飛び入り参加した。まず輪になって座り、トレーナーから楽器の構え方を教わる。さっそく手のひらで楽器を叩いてみると、振動が体全体に直接伝わってくる。……これは楽しい! 続いて、皆でリズム練習をし、簡単なアンサンブルにも挑戦した。思ったよりも演奏は難しくないし、日頃のストレス解消に役立ちそうだ。

 

スタジオはガラス張りで、ダンス教室にも使える | REALTOKYO
スタジオはガラス張りで、ダンス教室にも使える

スタジオを後にして「部室」スペースへ向かう途中、傘をリサイクルしたという色とりどりの作品や楽しそうに製作する姿に惹かれて、「アトリエ」スペースに立ち止まった。部屋として区切られていないオープンスペースなので、気軽なワークショップ会場としての使用に向いているだろう。

 

通りがかりの人にも活動をアピールできるアトリエ | REALTOKYO
通りがかりの人にも活動をアピールできるアトリエ

アトリエの左手には、「部室」とよばれるブースが10部屋ほど並ぶ。天井に届かない高さの壁で数メートル四方に区切られた、比較的小さなブースだ。ドアはなく、開放的な雰囲気をもつ。

 

「部室」が並ぶ一角 | REALTOKYO
通「部室」が並ぶ一角

部室の入口には、「シェアハウス部」「横浜まちづくり部」等と書かれた看板がついていたのだが、そのうちの一室「ヨコハマランドスケープ部」を覗くと、数人が机を囲んで何ごとか熱心に話し合っていた。聞くと、建築物の外観をデザインするランドスケープデザイナーの集まりだという。

 

「以前から、『風景を調える』というランドスケープデザイナーの仕事を通して、意見や情報交換をする集まりを開いていました。趣味や仕事、その中間の活動を通してさまざまな考え方をもつ人が集まるBUKATSUDOで、素敵な化学反応や相乗効果が生まれることを期待しています」(「一日体験部活」の臨時部長を務めた桝井淳介さん)

 

「ランドスケープデザインは、他者とのコラボレーションによって視野が大きく広がる分野なので、他の部活と交流し、連携することで、新しい展開や可能性が広がりそうだと思いました。今日はイベントなのでたくさんの人が興味を持って部室を来訪してくれましたが、今後部活として続けていくためには、日常的に訪ねてもらえるようなしかけが必要だと思います」(ランドスケープデザイナーの鈴木裕治さん)

 

部室の利用者からは、新設される部活への重点的な支援や、部活に参加するきっかけづくりの充実、また、部室の空調やスペースの広さなどの点で、改善の余地があるのではという意見が出た。

 

「部室」はシンプルな空間で、利用者がアレンジする余地が残されている | REALTOKYO
「部室」はシンプルな空間で、利用者がアレンジする余地が残されている

横浜にはアートやクリエイティブに携わる仕事をする人も多く、総じてシェアスペースに対する関心は高く、既に利用している人も少なくない。その人たちにとって、BUKATSUDOを利用することは難しくないだろう。しかし、将来的には、今までシェアスペースなどを使う機会がなかった人たちにとって活用しやすい空間や仕組みを持ちうるかどうかが重要になってくるだろう。さまざまな背景を持つ人が集まれば、今までにないような魅力的な企画も生まれ得る。そのためには施設側からの支援や、成功した活動の実例を通して利用者がノウハウを学べるような仕組みづくりが先決だろう。

 

シェアスペース利用者のすそ野が広がり、街づくりの拠点としてBUKATSUDOが盛り上がれば、地方都市の空き不動産や公共施設の活用にもその手法を転用できるのではないかと考えられている。

 

みなとみらいは、まだ30年の歴史も持たない新しい街だ。多様な可能性を秘めたシェアスペースという場所が、地域の人と人をつなぐ役割を果たし、街とその周辺を活気づけていくことが大いに期待されている。

 

インフォメーション

BUKATSUDO

http://www.bukatsu-do.jp/

寄稿家プロフィール

やすだ・まこ/1986年弘前生まれ、東京育ち。チェロを始めとする弦楽器に魅了され、音楽系の専門誌編集部に勤務後、渡伊。天然石を用いるフィレンツェモザイクと出会い、Roberto Marrucci氏の工房に通う。現在は東京で書籍編集のかたわら、海外と日本を工芸で結ぶ仕事を模索中。趣味は生き物の観察と日本酒。