COLUMN

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038:from Rotterdam - 映画虎の穴40周年:ロッテルダム国際映画祭
澤隆志
Date: February 21, 2011
ロッテルダム国際映画祭の会場 | REALTOKYO
ロッテルダム国際映画祭の会場

1月27日からロッテルダムに来ています。

今日は2月4日。目的のロッテルダム国際映画祭は6日で終了です。

 

スキポール出発ロビーにて。

 

「もしもし。もしもーし」

 

「はいはい。おあ。聞こえる。さすがSkypeはすごいなぁ」

 

「そうだね。いま暇なんで連絡してみました。こちらは快適です。一日中映画観て、ビール飲んでる生活」

 

「ロッテルダムはプログラム多いもんね。なんか発見はあったの?」

 

「うん。今年のロッテルダム国際映画祭はちょうど40周年ということで、映画のほかにも展示作品が40ヶ所で開催されてました。以前に比べてライブ作品はだいぶ減ったみたいだけど、実験的な短編作品を上映する場所(ランターレ)が新しい劇場に移動して、お客さんが増えたみたいね。なにせ、ナサニエル・ドウスキイのレトロがsold outなんて、日本はもちろんアメリカ本国だってあり得ないよ。お客さんもサイレントで実験的な彼の作品を、固唾をのんで見守ってる。すごくあたたかい雰囲気の上映でした。作家も来ていて、感動してたよ。そんでもって彼はまたお話が上手い」

 

「いいねぇ。若手でいい人いた?」

 

ニコラ・プロヴォスト | REALTOKYO
ニコラ・プロヴォスト
『you are here』のポスター | REALTOKYO
『you are here』のポスター

「そうそう、日本でもイメージフォーラムで上映したニコラ・プロヴォストの映画がよかった。ラスヴェガスのカジノで隠し撮りした一般人やセレブを編集して、アフレコとSEを加えて架空のアクション映画に仕立て上げてる」

 

「あー、なるほど。お客はファウンドフッテージに見えちゃうんだ」

 

「そう! すごくセンスある。次回作は東京だそうで、すでに撮影は終わってるんだって。観たいなぁ」

 

「長編はいいのあった?」

 

「短編ばっかり見てたから数は少ないけれど、『you are here』が面白かった。プレスにはメタ探偵映画とかナラティブの迷宮って書いてあるとおり、確かに人に説明しづらい映画なんだよ。自分で生み出した妄想の迷路に自分ではまって、常に間違った出口に出るような映画。J.L.ボルヘスの『1/1の地図』とかポール・オースターの『シティ・オヴ・グラス』とかル・クレジオの『調書』とかカウフマンの『脳内ニューヨーク』がハマる人にはうってつけ。超芸術トマソンみたいな"読み"を誘う建物も出てくるな」

 

「ふーん。つまり電波系?」

 

「そうとも言える。でも狂人礼賛な雰囲気はなく、都会の乾いた感じが好印象なのよ。メディアアートのパフォーマンス観てる感じ」

 

「でもやっぱり映画、なのね?」

 

「うん。映画なんだよ。実際に、登場人物に拾われたビデオテープのフッテージはカナダの実験映画らしいよ。監督のダニエル・コックバーンも実験映画出身だそうで。一時期精神的にやばかったんだそうな。でも映画は暗くないよ!」

 

「あー、いまロッテルダムのサイト開いたら、君の片思いのZoe Beloffもやってるじゃん」

 

Zoe Beloffのドローイング | REALTOKYO
Zoe Beloffのドローイング

「うへへ。観に行ったさ。教育博物館とかいう子供の施設の一室で、密やかに展示してました。かわいいドローイングがいっぱい! 画集もウェブで買えるね。

 

あと、新作短編も発表していたクエイ兄弟のドローイングやマーティン・アーノルドのループ映像も展示されてたよ。それからシュヴァンクマイエル御大のコラージュアニメの原版とか!」

 

シュヴァンクマイエルのコラージュアニメの原版 | REALTOKYO
シュヴァンクマイエルのコラージュアニメの原版

「お客さんは、それ全部観るわけ?」

 

「そうでもないっす。『ブラック・スワン』や『127時間』を観る地元の人は実験映画にはあまり来ないし、展示も街中で開かれているので、それを目的に歩き回る人も少ないかも。でも、短編のかなり実験的なプログラムでも日本より客層が多様だよね」

 

「それはいいよねー。でも、すっごいたくさんプログラムがあるから、うまく当たりを引くのが難しい?」

 

「それは映画祭の醍醐味ってことで。だいたい毎年、会期の前半に短編作品が集中するようです。同じテイストばっかりだと疲れちゃうから、長編の新人作家を観て、ハードコアな短編を観て、ビール飲んで息抜きに展示に顔出して、ライブパフォーマンス観て興奮して(ヨースト・レクフェルトのが最高だった)、締めにロシアの西部劇を観て、みたいな…」

 

「そら大変だ。なので、いっつも2時ごろメールするわけね」

 

「日本みたいにホテルのWi-Fiタダじゃないけどね。あ、それから、ロッテルダムって、去年のツール・ド・フランスのプロローグステージだったんだよ。そのコースを自転車で走ることができて超興奮した! 走ってみてわかったんだけど、やっぱりアンディ・シュレックはあのステージでさぁ…。あれ、もしもし、もしもーし!」

 

ツール・ド・フランスのプロローグステージ | REALTOKYO
ツール・ド・フランスのプロローグステージ

寄稿家プロフィール

さわ・たかし/映像作家、キュレーター。2000年から2010年までイメージフォーラム・シネマテーク、イメージフォーラム・フェスティバルのプログラム・ディレクターを務める。また、ロッテルダム、ベルリン、バンクーバー、ロカルノ等の国際映画祭や、国内美術館等にプログラム提供多数。主な映像作品に『特派員』。