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032:from Tokyo - マムシュカ・ナイト・トーキョー
シュテファン・リーケルス
Date: June 25, 2007
Kusuhara Tatsuya: Appetizer (photo by Koike Chizu)

2007年6月17日日曜日、浅草。アサヒ・アートスクエアにパフォーマンス好きな若者たちが集っている。お目当ては『マムシュカ東京』というイベントだ。『マムシュカ・ナイツ』は、アイルランドのリムリックを拠点とするダグダ・ダンスカンパニー元代表のイタリア人、ダビデ・テルリンゴによって始まった。「マムシュカ」といフレーズは映画『アダムス・ファミリー』(1991年)のダンスシーンから拝借したもので、テルリンゴの言葉によると、コンセプトは「形式ばらず、安いコストと演出された環境で」パフォーマンスイベントを開くこと。今回マムシュカ・ナイツのネットワークが東京のハブとして選んだのは、「稽古場カフェ」だ。「稽古場カフェ」は、楠原竜也がアサヒビールの協賛により運営する暫定的なオープンスタジオである。このカフェはアーティストたちのダンスのリハーサル場であると同時に、誰もが気軽にビールを飲みながら彼らと直接交流できる空間でもある。

 

「稽古場カフェ」と『マムシュカ・ナイツ』の出会いは完璧と言うほかない。今回で第2回となる『マムシュカ東京』開催のため、Dance and Media Japan代表の飯名尚人に楠原が合流した。募集した中から運営組織が最終的に11組のパフォーマンスアーティスト/グループを選び出した。そのうち2組を簡単に紹介させていただききたい。

 

尾形直子(ダンス)、善財和也(音楽)

Photo by Koike Chizu

尾形は高校のダンス教師。善財はミュージシャンで、ソロでも盲人文明というユニットでも活動している。尾形はダンスを学ぶ生徒として、また教師としての経験を今回のパフォーマンスの出発点とした。多様なスタイルを取り入れながら、彼女は教師と生徒の間の相互作用を表現する。まず準備運動に始まり、徐々に複雑な動きに発展してゆく。ダンスの授業そのものに、ある断片を何度も繰り返しながら。尾形のダンスは教師と生徒の両者を体現するもので、観客は教師が生徒の身体に与えるインパクトや、徐々に難しくなる動きに必死に付いてゆく生徒の様子を目の当たりにした。ときに自信にあふれ完璧にコントロールされた動きを、ときに自己の能力を超えた要求に崩れ落ちる身体を。ただし教師も生徒もあくまで平等に存在する。尾形は単純な二分化を避け、思いやりをもって両者を表現した。

 

この日のパフォーマンスについて聞かれ、尾形は「楽しんで踊ることができただけでなく、暖かい観客の支援に、かつてなく感動した」と答えた。実際、彼女のパフォーマンスは好評で、心からの拍手と、再度照明が灯った際の厳かな沈黙に迎えられた。尾形は次回、2007年8月18・19日に、Studio Gooでパフォーマンスを行う。

 

斎藤ふみ

Photo by Koike Chizu

「重力があろうとも、私は描きたい!」という斎藤自身の言葉が、彼女のパフォーマンスを的確に表しているだろう。長い棒についた筆を持ち、着物を着て、梯子に登り、彼女は3メートル先の天上から床まで吊るされたスクリーンに向かって身体を乗り出す。斎藤は2時間かけて、下部から上部に向かい動物を描いた。筆は長く、揺れ震える。「難しいことは嫌いじゃない」と彼女は言う。イライラする不安定な線で、彼女は自身の主題を捉えようと試みた。ゆっくり、徐々に、犬や鳥を描き、その鳥の首から頭を描こうとしたとき、スクリーンが彼女の筆を遠ざけたように見えた。彼女のこういった行為からは、マシュー・バーニーが思い起こされる。彼は「発展の必要条件であり、創造の手段である抵抗」を原動力とするが、彼女はその上に鋭いひねりを加える。最後に、絵画の厳しい縛りから逃げ出した鳥が飛び回るのを描いて、絵は完成した。

 

Photo by Sunaga Asako

斎藤は次回、2007年6月27日にSuper Deluxeで行われる『ペチャクチャナイト』に出演する。また、7月1日には「稽古場カフェ」最終日のためにパフォーマンスを行う。『マムシュカ東京』第3回の開催は未定だが、暫時Dance and Media Japanのウェブでニュースを読むことができる。Dance and Media Japanは7月27日より(ヘレン・ケラーにちなんだ)三鷹天命反転住宅にて『morphing - 家と体の間の、服』展を開催する。

寄稿家プロフィール

Stefan Riekeles/1976年生まれ。シュトゥットゥガルトにてオーディオビジュアルメディア、チューリッヒにてニューメディア、ベルリンにてカルチュラルスタディーズを専攻。2002年よりトランスメディアーレのプロジェクトマネージャー/キュレーターを務め、『Neuralgic』(Witte de With/ロッテルダム/2004年)、『Room for Manoeuvre』(Skuc Gallery/リュブリャナ/2006年)など様々な国際展のキュレーションも行う。アーティストとして、『MobLab:日独メディア・キャンプ 2005』(日本/2005年)などの活動を行うほか、『ISEA』(サンノゼ/2006年)にも『Moss - Topology of a Plant』をテーマに参加した。