COLUMN

40nen
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昭和40年会の東京案内

第70回:東京に棲む龍、首都高
パルコキノシタ
Date: June 25, 2008
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最終回になってしまった(自分の執筆枠の)。東京で一番好きな首都高の事を書こうと思う。僕は車を持たないが、首都高から夜景を眺めるのが好きだ。

免許を取ったのは比較的若く高校生のころ。校則では禁止されていたが、親父の看病のためと理由をつけて取得した。結局看病には使わなかったが、まもなく父は亡くなり、その後、夜中に高校の美術室に忍び込んでデッサンをしたりするのに役立った。なんとなく気が滅入ると深夜のプチ暴走族も体験した。スピードに比例しながら閉じていく風景をわがものにした満足感はどこまでも自由で、まさに自分の居場所を見つけたような気がしたものだ。

 

最後の原稿を書くにあたり本音を吐露すれば、唯一東京で誉めてもいいと思えるのはその規模の「巨大さ」に尽きる。人間だけで作った超人工の都市。これまで東京案内のお題で各所を巡ったが、最も東京らしい醍醐味を体感できるのは実はこの首都高から観る東京の風景、特に夜景ではないかと思う(これまで局所的に東京の名所を紹介し続けてきたあげくの果てが、首都圏を覆う巨大な建築物に着地点を求めるなんてまさしく本末転倒であるが、これもある意味本能的に正しいのである)。幼いころに描いた近未来にいつのまにか現実が到達してることに気付いたときは少なからずショックを受けた。

 

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とりわけあっという間に東京を一周できてしまう都心環状線が好きだった。山手線より速いぜ。とは言いながらも、僕の乗り物はいつもショボかった。見た目にはこだわらないので、借りられればなんでも、軽トラで走ったこともある。時速100km以下で走らないと逆に危ないので、軽トラで走った日にゃあアクセルは踏んづけっぱなし、16tダンプに煽られると木の葉のように車体が揺れる。でもそこからの夜景はプラネタリウムのように美しい。

 

夜の首都高を気持ちよくかっとばすためにBGMはブレードランナーのサントラをかけてみる。そこには体重0.1tのハリソンフォードがいる。だがもっとナルシストな気分を味わう音楽もある、それは、昭和40年会の『40×40』企画でBEPPUPROJECTとのコラボで作られた「箱崎ジャンクション」という名曲だ。PVはYouTubeにアップされている。

箱崎ジャンクション

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三郷から常磐道の方にいくと要塞のような工場が見えたりする。北池袋から王子を巡る方面では、コンピュータの基盤に整然と並べられたICチップのような団地群が見える。そのまま向島方面に向かえば歌の歌詞と同じく箱崎ジャンクションだ。羽田に向かう二人の旅立ちを描いた歌だ。

 

だが、そのすばらしい景色を記録した肝心の写真はここではアップできなかった。理由は簡単、運転してるからシャッタ−が押せないのだ。さらに、もし撮影できたとしても、この「リアルトーキョー」はフレームに入り切らない。だから今回は首都高の下を走って撮影した写真で勘弁して欲しい。で、できれば肉眼でその広さを体感して欲しい。日本は小さいが、人間の作ったもので東京ほどでかい都市はない。そしてこのでかい東京を縦横無尽に走る首都高速はある意味東京を走る龍のような生き物、常に道路が跳ねている。首都高こそ、少し大人になった自分にとって最も居心地の良い遊び場ではないかと思う。

 

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トーキョー=すべて遊び場というくくり方は、40年会自体が遊びがきっかけで結成された会だということを考えれば、割とまとめとしては適正ではないかと感じている。最近の僕は世間一般で言うところのテレビゲームもミクシイも、どうも遊びのように思わされているけど本当はあれは遊びではないんじゃないか? と思っている。感じ方が違う。終わった後の疲れた感じがなんとなくちがうのだ。あえて言えばテレビゲームやミクシイはノーギャラの仕事で、やっぱり遊んでると感じるときは外へ出かけているとき。首都高を突っ走るとき、イベントへ繰り出すとき。そんなときに僕は一番自分が遊んでいる醍醐味を味わう。外で思いっきり跳ねて遊んだあとはぐっすり眠れるのだが、テレビゲームやインターネットはおもしろいけどぐっすり眠る満足感には至らない。

中学生のころは自転車をこいで、10数km先の隣の街まで伝説のエロ本を探しに行ったりしていた自分だが、それはとても楽しい行為だった。結局30年近い月日が流れても、自分はうまいラーメン屋をハシゴしたりして何ひとつとして変わらなかったのだなとしみじみ思う。一種のリアルロールプレイングが遊びである人生を送っていて、これからも続くわけだ。

 

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クルマを走らせながら、東京はよくできた街だと思う。こんな街でもいつか大地震が来てすべて崩壊してしまう日が来るかもと思うと、切なく感じる。臨海の埋立地あたりに最近高層マンションがどんどん建って、都市の景観を変化させている。大地震がきたらいずれものすごいインスタレーションが完成するだろう。それも東京である。計り知れないリスクと闘いながら、常に発展を続けるのが大都市トーキョーに生きる我々の使命で、一種刹那に、これからも自分はたまに上とか下とかをかっとばして、いま観られる夜景を楽しむのだ。

 

※最後に念をおしておく、箱崎ジャンクションのPVは
http://jp.youtube.com/watch?v=g0e4VS7M7dY

<編集部からお知らせ>
本連載「昭和40年会の東京案内」の書籍化が決定しました!
8月刊行に向け、現在鋭意制作中。3年間にわたる全原稿と、新規コンテンツも収録予定です。
また、本連載は7月をもって終了します。次回はいよいよ最終回、松蔭浩之氏の寄稿となります。フィナーレまで、引き続きご愛読よろしくお願いします!
昭和40年会 http://www.40nen.jp/

寄稿家プロフィール

ぱるこ・きのした/1965年徳島県生まれ。漫画家、芸術家。教育家。股間で絵を描く表現に端を発し、全身を使った様々なパフォーマンスを国内外でゲリラ的に行い、今では世界中の大規模展覧会の常連ゲリラアーティストとなる。異なる文化圏の世代間の人々と言語を超越した懇親を行う事を作品化している。主な作品に『絵を結婚させるワークショップ』『なぐり描き』『おむすび1ユーロ』『緊急カラオケ会議』映像作品は『特撮ワークショップ』『十日町防衛隊』著書に『漂流教師』『教育と美術』がある。ミクシイネームは公園の木の下。www.digipad.com/digi/parco