COLUMN

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昭和40年会の東京案内

第56回:図書館と音楽
有馬純寿
Date: October 11, 2007

今年は8月末からいまに至るまで、コンサートやイベントが続き大忙しで、この連載のアップも大幅に遅れてしまいました。読者のみなさま、すいませんです。

 

2007小石川フリーコンサートvol.1
〜音とイメージの狭間に〜 鈴木治行「語りもの」全作公演(9月16日)

その一連のコンサートのひとつに、小石川図書館を会場に行われた、現代音楽の作曲家、鈴木治行の「語りもの」といわれる、語りが加わる作品を集めたコンサートがあった。これは同図書館内の小ホールを会場にコンサートシリーズを企画する「図書館を利用する音楽家の会」のオーガナイズによるもの。本来、静寂を保たなくてはならない図書館でコンサートを、という点からしてもおもしろい企画であるが、さらにその中身が現代音楽や即興演奏など実験的な内容というのも興味深い。
今回のコンサートも、現代音楽、即興演奏、ジャズ、ポップスなどさまざまなジャンルの演奏家が異種混合的に参加したのだが、このミュージシャンのチョイスも、膨大な領域の蔵書のなかからその時々に読みたいものを選ぶという図書館の機能とどことなく近いようでもある。また、秋山徹次と佳村萌のふたりの語り手による「語り=テクスト」が入るという点でも、図書館という場にふさわしいものであったと思う。このシリーズは今後も行われるというので、次の機会にはぜひ。

 

小石川図書館 レコード室

ところで、この小石川図書館、実は昔からアヴァンギャルドな音楽を愛好する人たちの間では有名な場所なのだ。というのも、ここの図書館は書籍以外に、昭和41年(おしい!)から収集が始まったという膨大なレコード、CDのコレクションを持つのである。しかも、普通のJポップとかももちろんあるが、すでに廃盤になって久しいクラシックや現代音楽、フリージャズの名盤の数々や、日本の古典音楽や落語などレア物LPがぞろぞろあり、日本のロックのコーナーをのぞいてみても灰野敬二、山本精一をはじめインディペンデントな音楽がずらりとそろっている。しかも単になんでもありというのではなく、実によくセレクトされたコレクションとなっている。さらに、これが貸し出しも可能と、なんとも驚異的な場所なのである。
「図書館を利用する音楽家の会」も、同館において他ではなかなか聴く機会のない良質な音楽の数々に出会い育ってきた人々が、館に恩返しをするとともに、さらにはもっと新しい出会いを広げていくために有志が集まった会と聞く。
僕が小石川図書館を知ったのは、実は20歳くらいの時で、貴重なレコードを聴くために当時はときどき通ったものだった。なので、今回この企画に参加できたことはうれしく感じた。

 

民音音楽博物館(写真提供:MIN-ON)

通ったのが「ときどき」だったのは、当時僕が住んでた所から遠かったこともあるが、もうひとつ別に、当時よく通っていた音楽関連の図書館があったからだ。
現在は信濃町に移転し「民音音楽博物館」と名称も変わったが、昔は大久保にあった「民音音楽資料館」である。ここには、それこそ中学生のころから実によくお世話になってきた。
現在は、11万点以上の録音資料、4万点を超す楽譜、3万冊の音楽書がそろうという国内有数の音楽専門の資料館なのだが、とくにさまざまな楽譜がそろっている点が、他の音楽資料館にはない特徴だ。
中学生のとき、当時在籍していた吹奏楽部で演奏する楽譜を借りにいったのが最初の機会だったのだが、そのころから興味を持ちだした現代音楽の楽譜やレコードが充実していることを知り、瞬く間にこの資料館にはまり、ほぼ毎週、時によっては週2回くらいのペースで訪れていた。休日とかは朝一番に行き、ヤマハなどの楽譜店ではまったくおいてない輸入ものの現代音楽の楽譜の数々を眺めるだけでも、瞬く間に一日が過ぎていった記憶がある。当時名前くらいしか知らなかったジョン・ケージやシュトックハウゼンの音楽に初めて触れたのもここだったはずだ。しかも音だけでなく楽譜つきで。
当時この資料館では蔵書希望の音源や楽譜のリクエストが可能だったので、興味のある作曲家の出版されているらしいすべての作品の楽譜、何百種をリクエストするという、なんとも世間知らずの中学生らしい暴挙をしたものだった。おかげで武満徹やクセナキスの楽譜とかがかなり増えたようだったが(笑)。

 

民音音楽博物館 楽器展示室(写真提供:MIN-ON)

ここでいろいろな音楽を体験していなかったら、いまとは違う自分となっていたことは間違いないだろう。前回紹介した、渋谷の「ラ・ママ」がジャンルを越えた音楽を体験し音楽が生き物であることを知る第2ステップの場だったとしたら、「民音」は、新しい音楽の世界への最初の入り口となったとともに、いまなお続いている、音楽を単に聴くだけでなく、音楽について「考える」きっかけとなった場所でもあった。

小石川図書館 東京都文京区小石川5-9-20

民音音楽博物館 東京都新宿区信濃町8番地

昭和40年会 http://www.40nen.jp/

寄稿家プロフィール

ありま・すみひさ/1965年生まれ。エレクトロニクスやコンピュータを用いた音響表現を中心に、即興演奏からCD、サウンドインスタレーションまでジャンルを横断する活動を展開。同年生まれのアーティスト集団「昭和40年会」など美術家とのコラボも多数。国内外の展覧会への参加も多い。ジョン・ケージの『Europera 5』の日本初演など、最近は現代音楽の仕事が増えつつある。(Portrait: Matsukage Hiroyuki)