

小学校の頃家族で一度、20代の頃恋人と一度、そしてあそこは今どうなっているのかという気持ちで三度目の東京タワーにでかけてみた。三島由紀夫の切腹蝋人形は今もあるのだろうか。
そういえば誰の歌かは忘れたが、80年代に東京タワーをいきりたつチンコに見立てた放送禁止歌が流行った。ありとあらゆる角度からシンボリックな建造物なのは間違いない。ちなみに俺はメタボリックだが。
到着してみると予想はそこそこ裏切られた。寂れながらも味のある観光スポットを期待していたが、その寂れ感をそのまま醸し出しながらも、観光バスをガンガン回してとにかく気合いで動員を増やしまくっている。場内は団体旅行(主にアジア系外国人)でごったがえしており、ちょっと日本語だけでは不安になるほどの多国籍空間。たとえていうなら、ちっちゃい浅草仲見世。
そしてあの、インパクト大の「努力」「根性」のお土産ものは、かろうじて今も売られていたが、売り場スペースは半減し、ピザーラやマクドナルドなどのフランチャイズと大規模菓子企業が占めていた。今風のオシャレゾーンへと変貌したようにも見えるそのエリアは、なぜかにぎわっている。「なぜか」と書いたのは、真実の東京タワーは歌やドラマの主題になるほど洒落たものではないからだ。東京タワーのロゴは奇麗になったが、元東京12チャンネルのあったビルは、うっすらと同局のロゴの影がしみとなって現在も残っている。三島由紀夫の蝋人形はなかった。

やはり正しき東京タワーの鑑賞方法は首都高とか少し離れた場所で夜景の一部として観る方法で、それは富士山もきっとそうだろう。実際に足を踏み入れると中は意外としょんぼりだったりする。それにしてもアジア系観光客のみなさんも、見たくて来てるのかそれともそういうコースなのか。とにかくうるさい喧噪と、遠足の小学生が場内大半。そのスミを、混雑をよけるように歩く現代の恋人達がお土産を見ながら苦笑する。そんな感じだ。

怪獣映画、漫画、アニメ、小説、映画、常にモチーフでありつづけた東京タワーは、実際のタワーとしてのリアルとはまったく噛み合ない虚像をメディア展開させながら、多層構造を私たちの脳内に構築してきた。その最たる光景が、今僕の目の前にいる「おでんくん」かもしれない。この夏はリリー・フランキーのベストセラー小説『東京タワー』にちなんで、彼が生み出した「おでんくん」の催事をやっている。たしかに「タワー」といえば「リリー」なのかもしれないが、だからといって東京タワーとおでんくんをひとつにしてしまうのは「ヘン」だと思う。


そう、ここで東京タワーを語るもうひとつの重要な要素として「ヘン(変)」というのが出てきた。蝋人形館もそうだ。入口は著名な政治家ではじまり、途中から映画スター。そこでなんと「タイタニック」ごっこをかなり強引な手法で取り込んでいる。やがて最後の晩餐から恐怖の拷問屋敷へと変わり、後半はロックのカリスマ、そしてその出口は、ロックスターのTシャツやCDを集めたショップとなっている。だれがキュレーターなのかそのつながりは全く謎だらけだ。不思議の国のアリスと記念写真が取れる(有料)けど、ちょっと朽ちていて全体的に怖い。
他にも、世界最長の人間がお出迎えをしてくれる「ギネスの館」がある。世界一太った人の模型が怖い。さらに、田舎の観光地で見かけるトリックアートギャラリー。3Dホログラムのミュージアム。ゆるーいゲームセンター。これも渋谷にあるようなゲーセンじゃなくて、デパートの屋上にある方のゲーセン。

ん、まてよ。これはもしかしたら、東京タワーの中って、これまであまりに変で変で変すぎて気付かなかったけれど、ほとんどすべて展覧会形式で出来ているではないか。これは発見だ。
例えば森美術館では、入場券が展望台のチケットとセットになっている。そう「高いところを観る」のと「美術品を観る」のがセットになっている。そういえば春に京都タワーへ登ったとき、中で京都造形芸術大学の学生のプレゼン展示がしてあるのを見た事がある。
そうか、東京タワーはそれ自体の外部的存在が美術品でありながら、その内部へ侵入する行為は展望台に登るのと同じ価値のある美術鑑賞だったんだ。岡本太郎よりも早く、パビリオン的に美術の胎内に美術展示を内包する手法をとったのはいかにも日本的だと思う。つまり「根性」のプレートや、東京タワーにいろいろ付加させた謎のお土産グッズはすべてミュージアムグッズだったというわけだ。その証拠に、東京タワーで買うもの達は、なんの役にも立たないものばかりじゃないか。

ただ、少しだけダサイ。もう少しだけ東京タワーを格好良くすることはできないだろうか。昭和40年会を東京タワーの統括ディレクターにするだけで、全然面白くなると思う。それはともかく、墨田区に建設予定だという新東京タワー登場後も、元祖東京タワーの「変さ」は今よりもっと深度を増すだろう。
寄稿家プロフィール
ぱるこ・きのした/1965年徳島県生まれ。漫画家、芸術家。教育家。股間で絵を描く表現に端を発し、全身を使った様々なパフォーマンスを国内外でゲリラ的に行い、今では世界中の大規模展覧会の常連ゲリラアーティストとなる。異なる文化圏の世代間の人々と言語を超越した懇親を行う事を作品化している。主な作品に『絵を結婚させるワークショップ』『なぐり描き』『おむすび1ユーロ』『緊急カラオケ会議』映像作品は『特撮ワークショップ』『十日町防衛隊』著書に『漂流教師』『教育と美術』がある。ミクシイネームは公園の木の下。www.digipad.com/digi/parco