COLUMN

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昭和40年会の東京案内

第52回:TOKYO農業事情——屋上菜園から地下農園まで
小沢剛
Date: July 11, 2007
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「パソナオーツー」での稲の栽培

とりあえず今回のテーマは東京の農業とだけ決めていたが、ろくに取材も思考もする時間もなく締切が来てしまった
あまりにも深いし自分にはもてあましてしまうテーマだ。たぶんだが、東京に住む多くの人は、農業などというめんどくさそうでダサそうな仕事はできれば避けたいというのが本音でもあり、その反面、憧れも持っていると思う。ぼくも5月に行ってきたが、田舎の棚田に行って田植えをしたり、庭やベランダに野菜を植えたりするのが最近の静かなブームなのだ。また、近頃は安さだけで安全性が疑問視される輸入野菜が問題になっているが、このあおりを受け、今後家庭菜園を実行する人が増える気がする。
産地の分かる野菜、しかも自分の住んでいるところから近くでとれたものがよりいいと言われている。

 

地方に出かけると、つい足を運ぶのは、地場でとれたものだけを使った料理を出す食べ物屋だ。そんな店はその土地独特の野菜や魚を使った郷土料理や、オリジナリティ溢れる料理を作ったりする。そしてめっぽう美味しかったりする。都心で田畑を見つけるのは難しいが、少し郊外に行けばまだまだ存在している。都内で消費される野菜の10%は東京で作られているのだ。検索すると、多くはないが、東京でも地場産のものにこだわるレストランが見つかった。気になったのは「八農菜」という店で、最近オープンしたばかりの東京でただひとつの道の駅の中にある。
道の駅というと、田舎の国道沿いに存在する善良で牧歌的なイメージが強く、まさか都内にあるとは意外であった。すぐに出かけて味わってみることにした。

 

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目指すは東京の西の果て八王子市のさらに外れだ。郊外に来ると無人野菜販売所をしばしば見かける。ぼくはこれがとても好きだ。みなさんは利用したことがあるでしょうか? 農家の人がどういう事情なのか市場に出荷しないで、小さなキオスクみたいな店にビニールに小分けした野菜などを並べ、空き缶なり適当な容器なりに、勝手にお金を入れるシステムだ。例外なくすごく安い。おそらく世界でも珍しい、性善説に基づいた商売方法だろう。この店舗を見るたびに日本も捨てたものではないと心が温かくなる。世界に誇っていいと思う。ところが今回、それに変わる野菜自動販売機を発見。複雑な思いをした。逆に針金でこじ開けてやろうかと思ってしまった。


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ようやく「道の駅 八王子滝山」に到着。すぐ前の国道の車の往来は激しいが、ふと目線を変えると深い緑の多摩丘陵がすぐ近くに迫っている。郊外の国道沿いの量販店のような安っぽい建物ではなく、開放的なしっかりした建物で、中はスーパーマーケットのように地元物産などで溢れ、たくさんの人でにぎわっていた。その奥に、レストランというよりフードコートのような風情の「八農菜」があった。八農野菜カレーを頼んだ。ごはんの上にルー。ルーの上には茹でた野菜が8種類あった。色鮮やかな野菜はにぎにぎしく嬉しい。道の駅は普通、どこかに行くとき立ち寄って休んだりするところだが、ここに行くことだけを目的に2、3時間もかけて来た割には、極めて普通の味であった。帰りがけに地場野菜と、東京X豚なる豚肉を購入。

 

自宅に帰ってから都心の農事情について調べてみた。最近は、ビルの屋上などで野菜や米を作る例が増えているらしい。もちろんこれはビジネスにはならないが、ヒートアイランド現象の緩和に役立っている。六本木ヒルズにも屋上庭園と農園があるが、かなりの暑さが抑えられているようである。それだけでなく、教育、趣味につながり、さらに収穫物は食べられるとなれば、悪いことは少なさそうだ。

 

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丸の内には「地下農園」があると聞き、行ってみた。
ここ「パソナオーツー」は、太陽光は入らないが、植物ごとに違う種類のランプで生育させている。よくデザインされた6つの部屋というか畑は、とても幻想的できれいだ。カフェテリアでは、そこで採れた野菜のサラダを無料で食べることができる。しかし少しも食欲をそそられないのが正直な感想だ。ところでこの施設は、プレゼンテーションの場ではなく、農業雇用の情報提供をする場である。農業に転職を考えている人があればぜひ行ってみてください。

 

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写真提供:銀座ミツバチプロジェクト

最後に「銀座のハチミツ」を紹介しよう。これは銀座3丁目のビル屋上で10万匹の蜂を飼い、皇居や日比谷公園などに咲く花の蜜を集めてもらうという試みだ。今年は既に200キロも収穫したそうだ。蜂による蜜の採集により、花が受粉し、実がなり、それを求めて小鳥が集まり、いい声を聞かせてくれるのだという。これは「銀座ミツバチプロジェクト」というNPOが運営している。採れたハチミツは、活動を理解してくれる洋菓子屋などに提供し、銀座のハチミツを使った商品を作っている。自然と都市と農業(養蜂業)が見事に繋がったすてきな話である。

 

何ら結論めいたものは出ませんでしたが、食に関しては死ぬまでついてまわるもので、考えても考え足りないテーマなのだと思う。さて、庭に植えたサツマイモとジャガイモに水でもあげるとしますか。

昭和40年会 http://www.40nen.jp/

寄稿家プロフィール

おざわ・つよし/美術家。1965年東京生まれ。東京藝術大学在学中から、風景の中に自作の地蔵を建立し、写真に収める『地蔵建立』開始。93年から牛乳箱を用いた超小型移動式ギャラリー『なすび画廊』や『相談芸術』を開始。99年には日本美術史への皮肉とも言える『醤油画資料館』を制作。2001年より女性が野菜で出来た武器を持つポートレート写真のシリーズ『ベジタブル・ウェポン』を制作。2004年には森美術館にて個展『同時に答えろYesとNo!』を開催。