COLUMN

40nen
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昭和40年会の東京案内

第51回:東京ドームは宇宙行きの女エアポート
パルコキノシタ
Date: June 25, 2007

本当は野球を観に行こうと思っていたのだ。リアルトーキョーの「東京案内」で東京ドームをいまだ扱っていないのは問題だと考えていて、機会があれば出向きたいと思っていた。

 

前回同様、再び教え子を連れて、ナイターでもやっているなら当日券で潜り込んでしまえと安易な気持ちで東京ドームへと向かった。そもそもドームのある水道橋方面は明治時代に甲武鉄道(お茶の水〜八王子間)が走っていた、最も古き良き東京の歴史を語る町。そこに、不自然にでかい宇宙船のような風貌が見え隠れしている。なんとも格差を感じる光景だ。

 

最初に異変に気付いたのは生徒の方で
「先生、やけに女の数が多くないですか?」

 

「お前だって女だろうに」と思いながらやはりおかしいと感じる。そもそもここは場外馬券を買いにくる客か、野球の客か、ボクシングの客のはずだ。そんなオヤジたちが消えそうなくらい、女の数で埋め尽くされている。今日はなんだ? 女の大会があるのか?

 

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「あ、先生わかりました。ジャニーズです。本日東京ドームはジャニーズの日ですっ」

 

すべての女子がドームに吸い込まれていく、その風景は上演1時間前にしてすでに危険水域。長い歩道橋はダフ屋から馬でスッたオヤジまでグチャグチャのゴチャゴチャだった。

 

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面白いから写真を撮ることにした(正確には生徒に撮らせることにした)。俺のイメージにあった、電飾の付いたウチワをもった客はむしろ少なかったが(あれはタッキーのファンか)、身だしなみを気にしている女性を多く見かけた。5万人も女が集合するド−ムで、今更身だしなみを気にする必要があるのか疑問だが、今日の亀梨くんに会う自分は最高の自分でならねばならないというのは、れっきとしたジャニーズ哲学であり解らなくもない。これは宝塚のファンにも同じことがいえる。

 

ふと面白いことに気がついた。この東京ドームとその周辺は実は女性に特化した楽しい町だということにだ。まずお洒落なホテルがある、そして健康施設の「ラクーア」がある。さらに近所には名門の女子大学がある。

 

「先生ジェットコースターって好きですか?」

 

突然生徒に聞かれて、僕は正直焦る。なぜなら自分は最近になって「俺はもうジェットコースターには乗りたくない」と決心したばかりだったからだ。

 

「女はジェットコースター大好きなんですよ。でも男は嫌いだっていう人多いですね。ウチの家族も女と男で意見がまっぷたつに分かれます」

 

「女はみんなジェットコースターが大好きなのか?」

 

「はい、男はどうしてみんな嫌いなんでしょうね」

 

自分の場合は男だからと言うよりも持病の高血圧とか不整脈とか、わりとリアルな 健康管理に配慮しての決断なのだが、ついうっかり生徒に「だって財布落としたりすんじゃん」と、テキトーな返事をしてしまった。

 

「乗ってみたいのかい?」と聞くと、「たしか結構高い(1,000円)けど、スゲエらしくて!」。イキイキ話す生徒に、性別の差よりも年の差を激しく感じる。

 

東京ドームにあるジェットコースターも観覧車も、狭い限られた空間に実にうまく建てられている。まるで宇宙ロケットシャトルの発射台のようだ。そのどれもが「外へ」「上へ」向いているようで、ドームといい、ここはまるですべての施設が重力を否定しているかのようだ。おまけに、地下1700mの深さの温泉までもが、ビルの最上階まで引き上げられスパとして活用されている。「女限定、地球脱出、スペースシャトル、スパ」。こんなキーワードが浮かぶ。

 

と、突然、ドーム方面で地震のような地響きを感じる。どうやら某ジャニーズのコンサートが始まったようである。女5万人の地響きは数百m離れたドームシティのKFCまで届き、さらにチキンを食べていると、コスプレパーティーに参加する女性たちがこれまたあり得ない衣装で沢山通り過ぎて行く。

 

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水道橋からの長い歩道橋から見えた場外馬券場で、地面にへたりこんでいたオヤジたちとのギャップに言葉を失う。この国は狂っているのか? いやこれは発狂ではなくむしろ非常に計算されて、練られたプロダクトだ。ドラえもんのひみつメカみたいなもんだ。それは、しずかちゃんにもジャイアンにも与えられるからだ。

 

残念だがここには学生と来るべきではなかった。やはり、男女間の距離をも笑って楽しめるような恋人と一緒に来るべきだった。教師と生徒の二人組では、我々は評論家になる以外、心の着地点はみつからなかった。この、面白いけど、どこにも僕の居場所を感じることのできない空間では、女性がその入り口の鍵を持っていたのだ。女性はいつでも宇宙にいけるが、男は女性の鍵がないと宇宙には行けないのかもしれない。「やっぱプロ野球観たいし、遊園地は浅草花やしきが一番楽しいし、風呂に入るなら露天風呂だし」。そんな男たちがこれまで作ってきた、男の好きなもの。それを女たちがライドし、自分用にカスタマイズしていま宇宙へ旅立とうとしているコンセプト。そんな気がした。女を昇らせる装置が整然と詰まった宇宙基地、「東京ドーム」。ジャニーズのコンサートには気をつけろ。

 

※パルコは昔、まだ東京ドームが「後楽園球場」だったころ、山本寛斎のオーディションを受け、8000人以上の倍率を勝ち抜き、ここで一世風靡セピアとファッションモデルをやったことがある。まだ19才。体重55キロのころである(自分でも信じられないがいまの半分だ)。

昭和40年会 http://www.40nen.jp/

寄稿家プロフィール

ぱるこ・きのした/1965年徳島県生まれ。漫画家、芸術家。教育家。股間で絵を描く表現に端を発し、全身を使った様々なパフォーマンスを国内外でゲリラ的に行い、今では世界中の大規模展覧会の常連ゲリラアーティストとなる。異なる文化圏の世代間の人々と言語を超越した懇親を行う事を作品化している。主な作品に『絵を結婚させるワークショップ』『なぐり描き』『おむすび1ユーロ』『緊急カラオケ会議』映像作品は『特撮ワークショップ』『十日町防衛隊』著書に『漂流教師』『教育と美術』がある。ミクシイネームは公園の木の下。www.digipad.com/digi/parco