
先日、10年ほど前によくライブに参加させてもらっていた『John Zorn’s Cobra』を久々に観に、渋谷の「ラ・ママ」に行ったところ、ここが5月で25周年を迎えたことを知った。


25年前というと17歳の高校生時代。そのころの僕は音楽漬けの日々ではあったが、即興演奏をすることも多い今とは異なり、ライブにまったく興味がなく、かなり否定的だった。
すでに実験的な音楽ばかりを聴いていたが、富田勲のシンセサイザー音楽のような作業や、当時のYMOのように長期間に渡りスタジオ内で実験しつつレコーディングを進める作業にあこがれていた。ちょうど安価なマルチトラックレコーダーなどが出始め、ひとりで多重録音をやったりもしていたし、クラシックやジャズの音源も、実は何テイクも録音したものから編集作業によって作り上げられるのを知っていたためか、「演奏のできにムラのある生演奏なんかより、スタジオで徹底的に音を編集・加工して構築した音楽のほうが優れている」「即興演奏なんかは70年代のフリージャズや現代音楽の焼き直しで、時代遅れな音楽だ」などと公言してはばからない、頭でっかちで生意気な高校生だった。自分でも吹奏楽やバンドなどで少なからず生演奏をやっていたにも関わらずだ。いや、そこでの自分のヘタさがあったからこそ、なのかもしれない。
また、ショーアップされた大規模なポップスのコンサートにも興味をまったく持てず、同じように暴言に近い批判をしていた記憶もある。
当時の僕のなかで音楽とは、制作と再現=再生が切り離されたもので、観るものではなく、ひたすら聴くべきものだった。
そういった状態だったので、現代音楽や実験音楽を含め、コンサートに行くことはほとんどなく、特にライブハウスはロックのイメージしか持っていなかったうえ、独特の雰囲気のためか高校生の僕には敷居が高かった。行ったとしても知り合いが出るとかで、学園祭の延長でライブをやるようなしょぼいスペースくらいだったのではないだろうか。
そんななか初めて行った本格的なライブハウスが、ラ・ママだったようなのだ。

今回の25周年を記念し出版された冊子には、82年5月から2007年4月までの全公演が記載され、オープンした82〜3年あたりを見ていると確実に記憶のあるライブがいくつかあった。僕の初ラ・ママは、おそらくヒカシューか水玉消防団のライブだ。当時、池袋西武にあったナディッフの前身のアール・ヴィヴァンか、同じく西武にあった「Studio 200」でチラシを見たに違いない。
そのときは、アヴァンギャルドなテイストを持つ音楽がライブハウス、しかも渋谷で行われているのに驚いた記憶もある(当時の僕はそうしたものは池袋西武か、吉祥寺あたりのアングラスペースでしかやらないものだと思っていた)。
だからそこで体験した音楽は、頭でっかちな高校生にとって「音楽は生ものである」というごく当たり前のことを知らしめるには十分すぎるものだった。で、そのころからラ・ママや同じく渋谷にあったジァン・ジァンなどに通うことになり、特にラ・ママでは自分にとって未知の音楽の数々に出会った。
現在だと、ライブハウスごとに音楽ジャンルが分かれている傾向が強いが、当時はそうでもなく、ラ・ママにはロックからアヴァンギャルドまで、それどころか邦楽や民俗音楽、さらにお笑いや室内オペラまで本当に多種多様なジャンルの演目が並んでいた。記念誌を読んで、いまさらながらこの場所がライブハウスではなく「ステージ・ハウス」と銘打っていることを知り、納得する。

その後は何かの偶然が働いて、いつの間にかライブハウスに出演したりするようにも。記念誌の年表を眺めていると、90年代に入るころから、ちらほら自分の名前を見つけてほくそ笑むとともに、自分にとって重要なライブを多くやっていたことも思い出す。僕にとって初めて海外からリリースされるCDとなった、古館徹夫とPneumaとのユニット「Autrement qu'etre」の1stアルバムのライブ録音もここだし、何回も出演した『John Zorn’s Cobra』では、その後につながる交流の輪も広がった。いずれもその場で音楽を創り上げていく、まさに「生もの」の音楽だ。
また、飛び入りしたイベントや、少しだけ参加したユニットの名前などを見つけ、自分でも忘れていた過去がここにあることに気が付く。
記念誌には、JUN SKY WALKER(S)、筋肉少女帯などメジャーなバンドから、若手バンドの数々までが、飾りっ気のない等身大のコメントを寄せている。聴いたことのないバンドの写真を見ながら、「きっとメロコア系のバンドでこんな感じの音だろう」などと勝手に決めつける自分に気付き、25年前とあまり変わってないことを反省。
世の中には、まだまだ僕の知らない音楽が多い。いや多すぎる。それはまさにラ・ママのような「実験のできる場」から日々、異種配合や突然変異によって新種が生まれてくるからだろう。
久々に観たコブラも、僕がよく出ていたころと同じようでいて、やはりどこか違う印象のライブだった。でも「生き物」なのだから、しょうがない。
ラ・ママ
東京都渋谷区道玄坂1-15-3 プリメーラ道玄坂 B1
「John Zorn’s Cobra」の15年に渡る歴史は、東京作戦のオーガナイザーの巻上公一さんのサイトにあり。
シブヤ経済新聞の記事「渋谷ライブハウスの系譜」
「ジァン・ジァン」は2000年4月に閉店したが、現在その跡地は第40回で少し紹介したライブハウス「公園通りクラシックス」となっている。
7月は僕が出るコンサートが目白押し。ぜひご来場を。
Lunatic Scope vol.5
千駄ヶ谷Loop‐Line
7/7日(土) 18:30開場 / 19:00開演
出演: OMEGA POINT / VENUS IN VIRGO(Reiko.A+有馬純寿) / ASTRO+GOVERNMENT ALPLHA / T.美川(from 非常階段、Incapacitants)
海の日の「紙芝居モダン」
門仲天井ホール
7/16(月・祝)
14:00〜17:00「あっというまに紙芝居作っちゃおぅワークショップ」
19:00〜「紙芝居ライブ 」
出演者:林加奈(音楽家・画家・紙芝居師)/米田文(陶芸家とかいろいろ)/初代ピアノ屋・岡野勇仁/有馬純寿(サウンド・アーティスト)/Rom Chiaki(テルミン)/赤羽美希(音楽家)
予約・問い合わせ: 門仲天井ホール tel: 03-3641-8275 / fax: 03-3820-8646 / e-mail:
eX.4 ブライアン・ファーニホウの牢獄
すみだトリフォニーホール 小ホール
7/23日(月) 19:00〜
演奏:木ノ脇道元(fl)、宮村和宏(ob)、菊地秀夫(cl)、神田佳子(perc)、中川賢一(pno)、有馬純寿(electronics)、辺見康孝(vn)、竹内弦(vn)、甲斐史子(vla)、多井智紀(vc)、溝入敬三(cb)、川島素晴(cond)
寄稿家プロフィール
ありま・すみひさ/1965年生まれ。エレクトロニクスやコンピュータを用いた音響表現を中心に、即興演奏からCD、サウンドインスタレーションまでジャンルを横断する活動を展開。同年生まれのアーティスト集団「昭和40年会」など美術家とのコラボも多数。国内外の展覧会への参加も多い。ジョン・ケージの『Europera 5』の日本初演など、最近は現代音楽の仕事が増えつつある。(Portrait: Matsukage Hiroyuki)