
いま「東京」と言えば次に続く言葉は「ミッドタウン」。そのネーミングに「あそこを東京の中域としていいのか」「街と言いつつ結局ビルじゃん」という江戸っ子たちの意見はさておき、パルコと並ぶ新しモノ好きな僕は、3月30日のオープンに早速行くことに。そして六本木エリアの美術館が提唱する「六本木アート・トライアングル」を辿る1日としてみた。


まずは国立新美術館に。ここを最初にした理由とも重なるが、着いたら真っ先に行かねばならないのが、3階にあるレストラン、ブラッスリー ポール・ボキューズ ミュゼだ。なにしろ平日でも開店の11時に合わせて行ったらすでに1時間以上待ちで、10時の開館時間とともに駆け込むくらいの気合いでないとならない。ちなみに人気のランチはこの状態だが、夜はそれほどでもない。看板や内容に比べてかなり良心的な値段設定なので、実はディナーがオススメ。閉館して静まり返った美術館の横での食事はなかなかおつなものだ。
で、肝心の美術館の方はって? 企画展には足を運んだものの、この館の本来の目的でもある、いわゆる団体展をまだ見てないので、コメントはその後かな(注1)。ただ、正面の曲面ガラスのエントランスに目を奪われがちだが、幕張あたりのメッセ会場とほぼ同様の会場構造はインスタレーションには使いにくそうだし、絵画・彫刻展を中心に考えているためか、設計者の黒川紀章氏の解説(注2)にもかかわらず、展示を見る限り電気を使う作品の電源ひとつとるのにも苦労してそうだし、展示会場内にネット回線の口がないと聞くこの美術館に僕が関わることは、しばらくはなさそうだ。

お次は歩いてすぐの東京ミッドタウンへ。オープニングに訪れた客でひしめき合う商業エリアは後回しにして、デザインミュージアムの「21_21 DESIGN SIGHT」をめざす。いつもなら早足で会場に向かうところだが、ビル群の奥に広がる中庭の美しさに圧倒され、柄にもなくしばらく桜見物を。きっと夜も綺麗だろうな。21_21 DESIGN SIGHTはその中庭の奥にひっそりとたたずむ。安藤建築おなじみのコンクリートに加え、鉄の天板を折り紙のように曲げたミニマルな外観で、地下へと大きく広がる展示空間はコンクリート打ちっ放しも相まって美しいが、壁面を展示に使うのは難しそうで、実際の使い勝手はどうなのだろうか?

さて、いよいよ3階にサントリー美術館がある商業施設「ガレリア」の中に進む。国内有数の日本美術や工芸品のコレクションを持つ同館の新しい意匠は隈研吾による「和」を全面に打ちし出したものだが、ありがちな「和モダン」とも違うなかなかのバランス感覚だ。照明を抑えた展示空間も、商業エリアとのいいコントラストをつくる。
このほかガレリア3階には、食器やインテリア、デザイン関連の小洒落系ショップがこれでもかと建ち並ぶが、さすがにここまで集まると「さあアートを見た後は、オシャレな商品に金を落としてって!」という声が大きく聞こえてきそうだ。


東京ミッドタウンのアート、デザイン関連スペースというとこれらふたつが話題にのぼるが、実はもうひとつある。となりのミッドタウン・タワーの5階にあり、日本産業デザイン振興会や日本グラフィックデザイナー協会等が運営する「デザインハブ」だ。ここには九州大学・芸術工学部の東京ブランチやセミナールームなどもあり、デザインに関するさまざまな情報の交流地点と情報発信をめざす。現在は日本のデザインの歩みを実物で紹介する『日本のデザイン』展が行われている。本格的な展開はこれからの感もあるが、デザインの先端を示す21_21 DESIGN SIGHTと、実際のプロダクトが買えるガレリア3階との間を補完する機能を持てばおもしろくなるだろう。
もうひとつ、タワー内にユニークな場所を見つけた。5階にあるスルガ銀行の「夢」をキーワードとしたスペース「d-labo」だ。夢や環境やお金にまつわる本を集めたライブラリーや、Google Earthをインタフェースに用いた「夢のアーカイブ」などがあり、かつてのバブル期に結構あった、企業のコンセプトを伝える場所でもメセナの場所でもないイベントスペースが再びよみがえったようでもあるが、メディアアート好きは一度は覗いてみてもいいだろう。

日もだいぶ落ちてきたので、そろそろ最後の場所の森美術館へと向かおう。現在開催中の『笑い展』には会田、小沢も出品してるし、昭和40年会も何かと関わりのある場所ではあるが、意外にもこの連載で紹介するのは初めてかも。とはいえ、もうすでに多くのREALTOKYO読者は足を運んでいるに違いないこの館のあれこれを今更紹介するのもなんなので、ひとつ展示に関わった人しかあまり知らないトリビアを。森美術館では実は展覧会ごとにそのプランにあわせ、壁も床材もなにからなにまで毎回造り込んでいるのだ。そういえば自分が関わった展示を含め、ケーブル類が床をはい回るのは見たことがない。展示に関するさまざまなテクニシャンが在駐する森美ならではの仕事だ。
さて、夜も更け六本木のシメはやっぱりトラウマリスでと思ったが、ミッドタウンの庭のことを思い出し今日はそちらへ。この原稿がアップされるころはまだ桜も残っているに違いないから、ぜひ夜にも訪れてみてください。
- 注1:
- とはいえ現在開催中のポンピドゥーの巡回展『異邦人たちのパリ1900-2005』は良い企画だ。知名度の高い作品はもちろんだが、トーマス・ヒルシュホーンのような作家の作品をあれだけの人が注視する光景を日本で見られるとは。
- 注2:
- 黒川氏は『新建築』2007年1月号での解説のなかで、「『国立新美術館』は収集品を持たない、企画展・公募展のための美術館である。世界中の名画がデジタルデータ化されつつある時代、実物以上に正確に、バーチャルに再現された絵画、彫刻などのアートをインターネットを使ってどこでも鑑賞できる時代にふさわしく、『国立新美術館』はIT美術館の先端性を持ち続けるだろう』と位置づけている。
- おまけ:
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六本木といえば、現在小沢がオオタファインアーツにて「岡本七太郎」による『ハチミツと極東と美術』展を開催中(〜4月21日)。なかなか不思議な展覧会なので、まだの方はぜひ。撮影:松蔭浩之
寄稿家プロフィール
ありま・すみひさ/1965年生まれ。エレクトロニクスやコンピュータを用いた音響表現を中心に、即興演奏からCD、サウンドインスタレーションまでジャンルを横断する活動を展開。同年生まれのアーティスト集団「昭和40年会」など美術家とのコラボも多数。国内外の展覧会への参加も多い。ジョン・ケージの『Europera 5』の日本初演など、最近は現代音楽の仕事が増えつつある。(Portrait: Matsukage Hiroyuki)