

年末は第九、新年はウィンナー・ワルツ満載のニューイヤーコンサートと、ふだんクラシック音楽を聴かなくても、この時期オーケストラの響きを耳にする人は多いのでは? とくに今年は「のだめ」ブームもあって、CDショップのクラシックコーナーはもちろんのこと、ヤマハなどの楽器・楽譜店もいつもより人が多い気がするし。

ところで東京にはオーケストラがいくつあるか知っていますか? 現在、日本のプロオケの団体である日本オーケストラ連盟に加入している東京のオケは、NHK交響楽団、新日本フィルハーモニー交響楽団、東京交響楽団、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団、東京都交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、日本フィルハーモニー交響楽団、読売日本交響楽団、東京ニューシティ管弦楽団のなんと9つ。
9つというのは1都市におけるプロのオーケストラ数として多いのか少ないのか? これが世界的にも見てもベルリンとならぶナンバーワンなのである。ヨーロッパでもほとんどが1都市1オケで、なんとなく多そうな気がするパリでも現在は5つらしい。もっともベルリンが多いのには理由があって、東西に別れた時代にそれぞれにラジオ局の放送管弦楽楽団、歌劇場の管弦楽団などがあり、それが東西ドイツの統合によって多くなってしまったということらしい。
東京の9つのオーケストラのほとんどは、拠点となるホールを都内あるいは近県に持ち、都内ではほぼ毎日どこかでオーケストラの公演が聴けるわけだ。オペラや室内楽、独奏曲の公演も含めると、東京は連日相当数の公演が行われている一大クラシック音楽都市なのである。

僕も年に何回かはオーケストラの団員と化すことがある。最近現代音楽では電子楽器やライブ・エレクトロニクスが用いられる曲が世界的に増えていて、そうした曲を演奏する際にエキストラメンバーとして演奏に加わるのだ。電子音が加わる作品はまだまだ日本では演奏される機会は少なく、主に毎年開催される現代音楽祭などが中心で、気分としては季節労働者に近いのだが。
で、よく聞かれるのが「どこのホールが一番いいの?」という質問。とはいえこれは答えにくい。というのもライブハウスと違って機材の充実度が違うわけでもなく、ホール自体の音響についても、一口にクラシック音楽といっても古楽から現代音楽まで幅広いわけで、演奏する曲に合う合わないはあっても、絶対的にいいというものは存在しない(コンサートホールではなくいわゆる多目的ホールでは、どのジャンルの音楽にもいまいちというとこは、たまにある)。

なので、今回紹介するところも「僕がステージに上がったことのあるホール」ふたつを選んでみた(といっても僕が担当するのはエレクトロニクスなので、ステージに上がらず客席側のブースが多いのだが)。
まずは、一番ステージ経験の多いサントリーホールを。ここは1986年に東京初のコンサート専用ホールとして誕生したところで、クラシック音楽のホールというとココを思い浮かべる人も多いのでは? 室内楽用の小ホールもあり、さまざまなクラシック音楽が演奏されているホールであるが、僕としては自分も関わることの多いサントリー音楽財団主催の現代音楽祭「サマーフェスティバル」や「芥川作曲賞」「作曲家の個展」など現代音楽を積極的にとりあげていることを特徴にあげておきたい。この大ホールには指揮者が正面から見えるステージ後ろ側にも客席があるので、演奏家の気分を味わいたい人にはお勧めだ。料金も安いし。なお20周年を迎えたサントリーホールでは、2007年の4月から8月まで大ホール、小ホールとも全面改修が行われるというので楽しみだ。

もうひとつは、初台のオペラシティにある「東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル」。REALTOKYOの読者には「東京オペラシティ アートギャラリー」や「インターコミュニケーションセンター」と同じ場所、といったほうがわかりやすいかも。こちらは1997年にできたホールで、天井が高い変形ピラミッド型になっているのが特徴。芸術監督としてオープニング企画を監修するなど設計段階から深く関わり、ホールオープンの前年に亡くなった武満徹氏の名を冠したホールである。僕の経験では残響時間の少し長めの柔らかな音のホールかと思う。このホールも室内楽や独奏のための「リサイタルホール」を持ち、こちらで行われている若手演奏家によるバッハからコンテンポラリーまでをプログラムに入れる「B→C」シリーズはお勧め。
これらの大規模ホール以外にも、都内には紀尾井ホール、浜離宮朝日ホール、王子ホールをはじめ多くの室内楽専用の小規模ホールがあり、それぞれ独自の特徴があるが、こちらはまたの機会に。
また最近では、渋谷にある「公園通りクラシックス」のようにクラシック音楽や現代音楽の演目も多いライブハウスもあるほか、ギャラリー等でも演奏会を時々やっている。こうした場所でのクラシックや現代音楽のコンサートは、ホールとはまた違った演奏家との距離感と緊張感があるので、ぜひお試しを。
この連載も今回が年内最後の更新。来年も昭和40年会ならびに「昭和40年会の東京案内を引き続きどうぞよろしく。それではよいお年を。
サントリーホール 東京都港区赤坂1-13-1
東京オペラシティ コンサートホール 東京都新宿区西新宿3-20-2
1月26日にトーキョーワンダーサイト本郷で行われるソプラノの太田真紀さんのリサイタルで、ルイジ・ノーノのテープ音響付きの歌曲「La fabbrica illuminata」を上演します。ぜひご来場を。
太田真紀 無伴奏ソロ・リサイタル『声』
会場:トーキョーワンダーサイト本郷
会期 : 2007年1月26日(金) 19:00開演 18:30開場
入場料 : 1000円
出演 : 太田真紀(ソプラノ)、有馬純寿(エレクトロニクス)
寄稿家プロフィール
ありま・すみひさ/1965年生まれ。エレクトロニクスやコンピュータを用いた音響表現を中心に、即興演奏からCD、サウンドインスタレーションまでジャンルを横断する活動を展開。同年生まれのアーティスト集団「昭和40年会」など美術家とのコラボも多数。国内外の展覧会への参加も多い。ジョン・ケージの『Europera 5』の日本初演など、最近は現代音楽の仕事が増えつつある。(Portrait: Matsukage Hiroyuki)