COLUMN

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昭和40年会の東京案内

第38回:東京の美大
会田誠
Date: November 29, 2006
僕は今や千葉県民なのでなかなか東京には行けず、
代わりにムサビに在学中の若い友人・大畑恵里ちゃんに、キャンパスのスナップを撮ってもらいました。
一見どれも退屈そうですが、これがリアルな美大ってもんでしょう。

僕は今年度、武蔵野美術大学(ムサビ)油絵科の非常勤講師をやっています。ちょっと前には多摩美術大学(タマビ)に1日行き、ちょっと先には東京芸術大学(ゲーダイ)に1日呼ばれています。なんだか今年は不用意に美大に行き過ぎている気もします。というのは、村上隆さんの近著『芸術起業論』に、アーチストが美大で教える慣習が日本の美術界を構造的にダメにしている(かつてのライバル中原浩大さんへのメッセージ?)、といったことが書いてあって、後ろ暗い気持ちになったからです。僕も昔から、作り手は市井の人、河原乞食であらねばならぬ、などと(誰からの受け売りやら忘れましたが古臭い言い回しで)ほざいていましたから。結局、あまり美大には深入りせず、ほどほどの距離を保っていこう、なんて歯切れの悪い方針を立てている今日このごろです。

 

そんなわけで、今回は東京の美大案内をちょっと。

 

東京には美大が6つばかりありまして、それぞれ、特徴があるっちゃーあるけど、みんな似てるちゃー似てる、そんな感じだと思います。それぞれの特徴を僕の超主観で一言で言っちゃうと、こうなります。

 

ゲーダイ→ネクラ
タマビ→リクツ
ムサビ→ダサイorミーハー
ゾーケー(東京造型大学)→ヤマオク
ニチゲイ(日大芸術学部)→ギョーカイ
ジョシビ(女子美術大学)→オンナ(当たり前か)

 

部外者には意味不明かつ信憑性のない案内となっております。すいません。すいませんついでに、昔「コミッカーズ」という雑誌に美大の話を書いた時、東京の4つの美大をビールとチョコレート(と編集長Dr.氏の悪ノリで加えたバイク)に喩えて書いたことがあるので、それも。

 

ゲーダイ→キリン、明治、ホンダ(危うい過去の栄光?)
タマビ→サッポロ、森永、スズキ(安定感ある実力派?)
ムサビ→アサヒ、ロッテ、カワサキ(今勢いがある?)
ゾーケー→サントリー、グリコ、ヤマハ(新規参入の独自路線?)

 

ますます信憑性の欠片もない話になってますが……。

 

しかしビールやチョコの比喩があながち外れていないのは、それが微々たる差だという点です。良い面も悪い面も、美大はどこも共通しています。

 

良い面は残念ながら少ないと思います。僕にとって良かった面は、やっぱりあの自由度の高さでしょうか。人間として許されないほど爛れきったあの4年間を人生に与えてくれた点だけは、僕は今でも美大に感謝しています。
悪い面を挙げればキリがありません。日本のアーチストの作品自体にも日本の美術界の構造にも、陰に陽に害を与えている、イビツな受験制度。自分の信じる芸術観をそのまま棺桶まで持っていく覚悟を決めた老教授と、新しいアートを提示しなければデビューさえままならない学生との、絶望的というより喜劇的なズレ。欧米アートの知的側面から置いてきぼりを食らう、明治以来の感性や実技ばかり重視した教育方針。……etc。

美大はなんとかせにゃーなりません。

 

ま、そんな偉そうなこと書いといて、いざ現場に立つとただの無能講師に過ぎず、「ミイラ取りがミイラになるのはマズいから」と及び腰になるだけの僕なんですが……。

笑い展:現代アートにみる「おかしみ」の事情』@森美術館
2007年1月27日(土)〜5月6日(日)
会田誠、チェン・シャオション(陳劭雄)+小沢 剛ほか世界各国から約50 作家が出展

 

アートで候 会田誠 山口晃』展@上野の森美術館
2007年5月20日(日)〜6月19日(火)

昭和40年会 http://www.40nen.jp/

寄稿家プロフィール

あいだ・まこと/1965年新潟市生まれ、育ち。父親は学術交流で北朝鮮に招かれ、帰国後息子に「チュチェ思想は素晴らしい」などと語った、そっち系の人。最近はかなり老いが進み、終末思想に取り憑かれている模様。母親はGHQが蒔いたアメリカ流人道主義に洗脳された元・理科の先生。ちょっと演歌の旋律を聴いただけで、面白いくらい激しい拒絶反応を示す。このような非(というよりは反)芸術的環境に育ったため、青年期は反動で芸術至上主義者を目指すが、やはり「蛙の子は蛙」の壁に直面し、変な分裂的性格になってしまう。現在は九十九里浜の近くでゆっくりとフェイドアウト中。