COLUMN

40nen
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昭和40年会の東京案内

第37回:東京の最果ての山に乾杯!
小沢剛
Date: November 15, 2006
都民の森
三頭大滝
三頭山山頂

久しぶりの都内登山。東京駅からおよそ2時間もかかる五日市線終点の武蔵五日市駅、そこからさらにバスで1時間ほどの「檜原 都民の森」が起点になる。ここから三頭山(みとうさん)の山頂へ、そしてその向こうの奥多摩湖へと抜けるのが今回のコースだ。

 

都民の森からの歩き出しはひじょうに爽快な道。間伐材などのチップが敷かれ、柔らかくて歩き心地がいい。
三頭大滝が見えてくる。滝はその音や、立ち上がるしぶきに含まれるマイナスイオンの効果で心に平穏を与える効果があるというが、ここではそうは感じなかった。三脚にカメラを乗せたおじさんたちが滝を囲んでいる。一体全体なんなのだ。みんなで同じものを撮影しなくたっていいじゃないか。ついでに書いてしまうと、山に来るとなんで8割ぐらいは60歳前後のおじさんとおばさんなのだ! 別にあなた方は悪くも何ともないが、自分が山においてマイノリティーであるためか、それとも海外の観光地などで日本人のおじさんおばさんたちに取り囲まれてしまったときに感じる違和感と同じなのか。と、数秒だけ悩み、先に進んだ。


沢伝いの急な道を上っているとすぐに体の脂肪が燃焼して汗が噴き出してくる。普段暇をもてあましている部分の細胞たちが喜んで働いているかのようだ。ゴアテックスのレインウェアーを脱いで体温を下げる。一応下着からズボンから最新のハイテク素材のウェアーを使っているので、服はべたつかず全然不快感はない。急な登り道が続くが、多種多様な植物たちが僕の訪問を歓迎しているかのような、そんな気持ちのいい登山だ。

 

ようやく山頂に。曇りのため遠い景色も見えないので、ついつい、人間観察をしてしまう。おっ、あの熟年夫婦はインスタントラーメン作っている。こんな山でジャンクフードかよ。でも温かくてうまそう! おいおい、ガキども、ギャギャーうるさいんだ! だいたい、俺がぜいぜい言いながら登ってきたのになんで幼稚園児がこんなにいるんだい! おいおい、いくら暑くなったからって、裸になってんなよそこのオヤジ! おいそっちのオヤジ! そのバンダナはなんなんだ! ぜいぜいぜい……いかんいかん! どうでもいいことにカリカリしている。木々の放つ酸素を深く吸い込んで心を落ち着かせよう。スーー。


奥多摩湖

さて、昼食を済ませ、山頂を離れるとブナ林が続く。すっかり葉が落ちて灰白色のきめの細かい樹皮は輝いている。敷き詰められた落ち葉はふかふかで、気持ちよい昼寝が出来そうだ。先ほどの喧噪が嘘のように誰もいない。ほとんどの客は山頂まで来たら引き返すようだ。ブナ林をぬけても、クヌギやカエデやなんやらよく分からないけど様々な広葉樹林が赤、オレンジ、黄色に染まった鮮やかな秋色の葉で楽しませてくれる。以前はこんなものに心を奪われることなど無かった。これを年のせいというのならば喜んで「じじいになったぜ」と、自慢して見せよう。美しさを感じるバリエーションが増えたことは宝物が増えたってことなのだ。さて、時折出くわす80度ほどの斜面もなんとかクリアーし、ようやく奥多摩湖に抜けた。

 

湖畔の道路は乗用車やバイクがすごいスピードで飛ばしていた。臭い空気を吐き出しながら走る彼らより、山の木々に見守られながら、自分の足で歩く僕の方がかっこいいはずだと、一瞬思った。わずか数時間の登山なのに、長旅の終わりに感じる達成感と、ほどよい疲労感と、もっと歩いていたいという気持で満たされる。そして、心が少しだけ優しくなった気がする。不思議だ。

 

手作りの刺身こんにゃくとシメジの素揚げ

奥多摩湖からバスに乗って奥多摩駅に着いた僕は、自分へのご褒美に新鮮なわさび1本と、あわび茸を購入。そして、駅前のそば屋で、シメジの素揚げと手作りこんにゃくでビールを飲んだ。東京の最果ての山に乾杯!

檜原 都民の森
都民の森から三頭山までのルートはハイキング程度の装備で十分ですが、その先のルートは険しいので、登山靴など必要かと思います。水を補給する場所もありませんので、準備を忘れずに。

昭和40年会 http://www.40nen.jp/

寄稿家プロフィール

おざわ・つよし/美術家。1965年東京生まれ。東京藝術大学在学中から、風景の中に自作の地蔵を建立し、写真に収める『地蔵建立』開始。93年から牛乳箱を用いた超小型移動式ギャラリー『なすび画廊』や『相談芸術』を開始。99年には日本美術史への皮肉とも言える『醤油画資料館』を制作。2001年より女性が野菜で出来た武器を持つポートレート写真のシリーズ『ベジタブル・ウェポン』を制作。2004年には森美術館にて個展『同時に答えろYesとNo!』を開催。