


東京の芸術家(東):北京は久しぶりだけど、噂通り景気良さそうだね。夕べのパーティで行った作家のスタジオはすごかった。天井高は6mで、広さも100m2超、豪華なリビングとプールまである。乗り付けられる車も、多くはヨーロッパの高級車。それに比べ東京のアーティストは……。
北京の芸術家(北):知ってるよ。スタジオもろくに借りられないんだろ、東京の物価では。
東:現代美術作家で都心にスタジオを持つ人は、数えるほど。若手は寝る部屋も仕事場もごちゃ混ぜ、が普通じゃないかな。
北:北京では学校を卒業後2年位でスタジオを買える作家が出始めている。
東:仰天だな。このバブルな状況はどのように生まれたんだい? わずか7年前に、発表の場がないと嘆く作家の声を聞いたことがあるけど。
北:例えば有名な798画廊街は、数年前に3軒の画廊でスタートして急成長、いまや200〜300とも言われるギャラリーが軒を連ねている。購入層は外国人が多いけど、中国の若い収集家も増えてきた。企業も設備費として作品を買っているね。世界中の華僑にも購入者は多い。

東:東京でも六本木や下町方面など一部の画廊はがんばっているけど、販売どころか作家からお金を取って場所を提供する「貸し画廊」が未だに各所で軒を連ねる始末だよ。北京では、どんな作品が売れているの?
北:やはりペインティングや写真が中心。コンセプチャルアーティストやメディアアーティストも、インスタレーションの他にドローイングや写真をばんばん作る。売りやすいからね。
東:経済の話をすると、とんでもない格差社会が北京の作家の生活を豊かにしているとも言えそうだね。
北:残念ながらね。だから国中の作家が続々と北京に移住する。ある郊外地域には700人以上の作家が住んでいるよ。都心から車で1時間かかるけど、安くて広い空間を得られる。ところで、日本の公立美術館では現代美術作品の購入状況はどうなの?

東:多くはないが、認められれば良い作品なら購入しているよ。現代美術館と名乗る館もいくつもあるし。
北:中国の公立美術館では、予算がないからほぼ作家からの寄贈に頼っている。個人収集家は買いまくっているけど、作品がどこでどう扱われるのか誰にもわからない、ひどい状態だ。ブームに乗った「にわかコレクター」も多い。
東:経済中心に話が続くけど、アートって心の深いところから滲み出て形になるもので、もっと心のレベルの話をしなければいけないのでは?
北:その通り。でも、いい作品なら、作品自体がそのことを語るわけでしょ?
東:いい作品ならね(笑)。
——今回は、この夏に滞在した北京で作家たちと出会い、見聞きした経験から構成した。言葉にしがたい違和感と焦りと羨望を感じる日々だった。問題はいろいろあるものの、成長と変化を続ける北京のエネルギーと、それに正面から向かい合って作り続けるタフな作家たちを見ると、あまりにも繊細でか弱い東京の作家たちには無いものを感じた。こんなバブルはオリンピックまで、と指摘する外国人も多いが、すでに北京アート界はこの先の生き残りを見越して動き始めている。
最後にアート界に一言。
北京のアーティストたちへ。お金を稼ぐのはいい。余ったお金は、貧しく教育も受けられない子供たちのために少しは使ってほしい。
北京の画廊へ。作品がどこに、どのように収蔵されるのか考えて活動してほしい。本気でその作品をすばらしいと思うのなら。
東京のギャラリーへ。売れない作家は作家の責任ではなく、売る能力のないギャラリーの責任だ。日本では、大人も子供も必要のない服や車に巨額のお金を使っている。
東京の美術教育者へ。名誉職だから、作品では食えないから、と言う理由で働いてほしくない。そんな魂の教育者に教育を受ける生徒は不幸だ。
東京のコレクターへ。かわいいとか、便所に飾るのにいいとかそんなレベルで作品なんか買うな(それは、お金を出すに値する作品ではない)。
東京のアーティストたちへ。儲からないからって安易に商業主義とくっつくな。がんばろう、世界から東京のアートシーンが忘れられないように。
※現在、岡山で工房を借り、全国から集ったアーティストの卵たちの手を借りて、10月7日から始まる直島での展覧会『NAOSHIMA STANDARD 2』のための作品をつくっています。誰もチャレンジしたことのないとんでもない素材と出会い、日々格闘。ものすごい新しい作品に乞うご期待!
※青森県立美術館の『縄文と現代』展でも新作を展示予定。
寄稿家プロフィール
おざわ・つよし/美術家。1965年東京生まれ。東京藝術大学在学中から、風景の中に自作の地蔵を建立し、写真に収める『地蔵建立』開始。93年から牛乳箱を用いた超小型移動式ギャラリー『なすび画廊』や『相談芸術』を開始。99年には日本美術史への皮肉とも言える『醤油画資料館』を制作。2001年より女性が野菜で出来た武器を持つポートレート写真のシリーズ『ベジタブル・ウェポン』を制作。2004年には森美術館にて個展『同時に答えろYesとNo!』を開催。