

少し前にラジオで聞いたことだが、東京の次に人口が多い都市は大阪府じゃなくて神奈川県になったそうだ。両府県の人口推計で解ったことだが、ついに東京1番大阪2番という順番がくずれたということで自分は驚いた。でも、それは神奈川県の成長というより、東京という超都市が一層拡大し、周辺都市を飲み込んでゆく過程のひとつのような気がしてならない。都市はアメーバのように増殖を続けたり、代謝を繰り返したりすることでいつもエネルギーを蓄える。それは一種の宿命の様で誰がどうこうとコントロールできるものではない。今は「千葉」「埼玉」「神奈川」の全ての近郊都市が東京に飲み込まれ「大東京」と化している。



そんなわけで、東京から最も遠いけど、ギリギリ東京と言えなくもない境界を求めて旅へ出る計画を企てた。2006年の夏ギリギリの場所、そこは「秩父」だ(笑)。池袋から西武池袋線、西武秩父線と乗り換え、秩父鉄道を走る蒸気機関車「パレオエクスプレス(C58363)」に乗るのだ。なんとなく夏休み企画のパックツアーに参加、まわりはちびっこ9割&電車オタク1割。この「都心から最も近い蒸気機関車」、実は一度引退して埼玉の小学校に保存されていた。それがわざわざ再メンテされて現役復帰したという強者で、まるで映画『日本沈没』の「しんかい2000」だ。
東京は大きな都市だが、1時間半逃げる所まで逃げたら蒸気機関車の走る田舎がある。息が詰まりそうなこの日常で、この脱出感は気持ちがよい。車窓から外を見れば股引1枚のじいさんが畑仕事をしていたり、鉄道オタクが三脚たてて撮影してたり。本当にのんびりしている。
やがて一人旅になり、どっかわかんない駅についた。SLというのはイメージとしてエネルギッシュでパワフル、ピストン運動から男根を連想する人も多いが実は非力で、少しの傾斜で止まってしまうし、満タンに燃料つんでも100キロ程度しか走れない。油さすのも大変。機関士はさしずめじゃじゃ馬をならしているような感じで、いちいち水や炭を補給する。だから生きているように見える。このでっかい鉄を走らせる為にご覧の様にオヤジ達が世話をする(写真)。ただ、オヤジと言っても50代くらいだから、この人達が20才くらいの頃は余裕で新幹線は走っていたはずだ。自然に「偉いなー」と思って声に出る。
ここも池袋から1時間半の東京。どうやら今回のリアルトーキョーは東京のボーダーにみつけたオヤジの楽園といったところか。



さて、今回は西武鉄道のパック旅行に申し込んだ為SL弁当なるオプションが付いている。がそのパッケージになにやら怪しい物体が(写真)。そういえば、駅のホームにもどこやかしこに謎の青い生き物が写っている(写真)。名を「パレオくん」というらしい。そのまんまや。今回、銀河鉄道999モードで旅をしている視点で言わせてもらえば、これは「車掌」以外のなにものでもない。声はやっぱりスネ夫の声なのかなあ。みんな覚えているだろうか、999のクライマックスを。惑星メーテルが暴走を始め、爆発しようとするところを火の粉をくぐって999が脱出するシーンを。
今の東京では、世のお父さん達は多少の酒とエロい店でストレスを発散させるしか術のないショボイ人生を送っているように見えるが、この東京の片隅秩父でSLを動かすお父さん達の表情はどれもみな生き生きとし、自信とプライドに溢れていた。なにより楽しそうだった。東京の真ん中はコギャルや若者達に支配され続けているが、ボーダーには父さんの楽園が今もある。今回の記事はそれがコンセプトだ。増殖を続ける惑星「TOKYO」から999に乗って脱出するのだ。またもやSLと車掌の松本零士ネタですまん。
なんと帰りはレッドアロー号で1時間だ。
寄稿家プロフィール
ぱるこ・きのした/1965年徳島県生まれ。漫画家、芸術家。教育家。股間で絵を描く表現に端を発し、全身を使った様々なパフォーマンスを国内外でゲリラ的に行い、今では世界中の大規模展覧会の常連ゲリラアーティストとなる。異なる文化圏の世代間の人々と言語を超越した懇親を行う事を作品化している。主な作品に『絵を結婚させるワークショップ』『なぐり描き』『おむすび1ユーロ』『緊急カラオケ会議』映像作品は『特撮ワークショップ』『十日町防衛隊』著書に『漂流教師』『教育と美術』がある。ミクシイネームは公園の木の下。www.digipad.com/digi/parco